麦牛乳

作ることが好きです。児童文学作家になりたい介護士。

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マガジン

  • 小説/童話

    短いお話。

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COMITIA149 出店のお知らせ

8/18(日) 東京ビッグサイトにて COMITIA149に出店します。 スペース番号: い29b サークル名: mahorama ~頒布物紹介~ ◎新刊『水草物語①』 コミティアで漫画の本を出すことが夢でした、ようやくの1巻です。 Xとpixivに途中まだ載せたものに、かなり加筆しました。セリフもだいぶ変えたのですが、一応試し読みとしてリンクはります。 小学三年生の「みき」が、不登校のクラスメイト「すず」を訪れて、コーヒー牛乳を作ったり、まんがを読んだりして仲良

    • 月のナイフ

      月のナイフ     男には新しい友達ができた。  妻と子を一緒に亡くして、途方に暮れ、毎晩泣いて暮らすようになってから出会った友達だった。  目を閉じれば、まぶたの裏に幸せだった日々が次々と浮かぶから、男は眠ろうとするのをあきらめ、窓辺にティーセットを持ち込むようになった。そこに差し込む月明かりが、男の新しい友達である。  窓からは、妻と作ってきた果樹園がよく見えた。こぢんまりとした空間ではあるが、手入れは行き届き、実のひとつひとつに張りのある、うつくしい果樹園

      • 連作「まほうを拾う」

        まほうを拾う 何度でも迷子になってみたかった初秋の庭の上澄みのほう 紐栞 ほつれた先で手をとった私ととらなかった私と 校庭を焼き尽くすほどきらきらと言葉を反射する子どもたち その中に私が書いたものはなくドッジボールが不意に始まる モモ アンネ マルセルとココ 昨日よりすこし減らしたお砂糖のこと 「大麦の牛乳粥」と書いてから「小麦」になおす夜のべたつき 飼い猫の翼をなでる 虐殺を作戦などと報じられても 自転車

        • きいろいねこ

           ぼくは、早おきをした。  しんじられないくらいの早おきだ。おかあさんはねている。おとうさんもねている。ねいきがきこえてくる。ふたりのへやをのぞいてみた。ねていると、ふたりともちいさくて、まるでねこみたいだ。  まどの外を見ると、やねがたくさんあるもっとずっとむこうの空が、うすいオレンジ色になっていた。上にいくほどに、白、うすいむらさき、うすい青、と、色がかわっていく。朝の空はセロファン紙みたいだ。  とりあえず、外に出てみることにした。  鳥のおしゃべりと、ちかくで川が

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        • 小説/童話
          14本

        記事

          短歌

          Xのアカウントに散らかしていた半年分くらいの短歌のほぼ全部。サボっていたバックアップのついでに上げます。去年の秋の終わりごろから今年の春のうた。 --------------------------------------------- 終戦と言わずに敗戦と言った いつもと同じ声で あなたは もう行かない町を浮かべて時々はチーズティーとか飲みたいと思う 木漏れ日はこの世界ではマチエール ひとりよがりの慰めの降る

          はちみつ色のなみだ

           東久留米にありますはちみつ店〈キシュエルドゥ〉さまを舞台に書かせていただいたお話です。  夏が来る前に、ひとさじの春をどうぞ……。 ----------------------------------------------------------------  草木や虫や、鳥たちは、春が来たとわかるといっせいに、隣にいるだれかと、こそっと話をします。春が来たね、うん、来たね。話といってもこの程度です。春が来たことをたしかめあうと、みな、くすっと小さく笑って

          はちみつ色のなみだ

          文学フリマ東京38 寄稿など

          現地参加はできませんが、参加情報ふたつあります。 【す-13】右脳水星短歌会 『光るかもね vol.2』 表紙イラスト、デザインを担当、本文に小説「風船のかえり道」を寄稿しました。 短歌、エッセイ、小説、と、前作以上に盛りだくさんの一冊です。私も読むのがとても楽しみです! スペースには個人で作ったフリーペーパーも置かせていただいておりますので、よければお土産にしてください。 ❷【つ-14】フルーツバスケット 合同誌『とれたてふるふる』 イラスト一枚と短歌連作を寄

          文学フリマ東京38 寄稿など

          中庭のメロディ

           中庭がある。ただそれだけを理由に選んだ高校で、マキはぼんやりと空を見上げていた。学校説明会は午後の部となり、今は自由に校内を見学しても良い時間。マキは中庭の真ん中で、校舎に囲まれた空を、その輪郭を、なぞるように見ている。他の中学生はたいてい親と一緒に来ていて、パンフレットを片手にあっちへこっちへとせわしなく移動している。中庭を取り囲む壁には各階の教室の窓が張られ、時々、見学中の中学生が見えた。マキはひとりだ。  親子連れが一組、中庭に入るのを視界にとらえた。二人は隅にあるベ

          中庭のメロディ

          元気の実のおはなし (朗読と簡単な体操)

           デイサービスでのアクティビティ用に書いたものです。  物語を聞きながら、登場人物になりきったつもりで簡単な体操に参加できます。座位を保ったままできる、高齢者向けのごく簡単な動きのみで進みます。以下五種類。 ・首を動かす(上下左右を見る) ・足を上げる ・腕を伸ばす(水平から上へ、前へ) ・腕を上下に動かす ・深呼吸  体を動かしつつ、想像を促すことで頭の体操にもつながります。  お役に立てる場面があればどうぞご自由にお使いください。使用報告は任意ですが、もらえると喜びます!

          元気の実のおはなし (朗読と簡単な体操)

          チョコレート

           好きな人はとても甘い匂いがした。  最初に感じたのは彼の名前を拝見した時である。さして珍しくない苗字に、珍しくない男名。その文字列のどこにも甘やかな色気などないはずであったが、彼の名だけがそれを伴った。  人の名や文字が味や香りを伴うのは日常のことである。  例えば数字の「1」は、水の匂いがする。昔からこの「1」を見ると、生と死と、透き通るような爽やかな味わいが、まっすぐに下っていくような心地がした。「2」は柑橘の皮の苦味に近い。「3」は新しい紙の匂い。  しかし彼の

          チョコレート

          雨の日のフレンチトースト

          「雨実(あみ)―、今日も譜実(ふみ)のおむかえよろしくねー」  わたしは、お母さんの声を全力で無視しながら、アパートの階段をかけおりた。  今日から長袖。夏のおわりが、わたしのおさげ髪をくすぐっていく。桃色のヒガンバナが、そこかしこでブローチみたいに咲いていた。そんなさわやかな空気になだめられるものか、と、わざと大股で歩いた。もうちょっと、だれか友だちに会ってしまうまでの間は、怒っていたかった。  だって、お母さんは約束をやぶったのだ。 まあ、わたしがやぶったとも言えるのかも

          雨の日のフレンチトースト

          ノギク氏のビル

          ノギク氏のビル  この村に大きなビルができたのは、つい一か月ほど前のことです。村いちばんのお金持ちであったノギク氏は、ふと、うんとたてに長い建物が欲しくなり、高いものといえば送電塔くらいしかないのどかな村に、とつぜん作り上げたのでした。    真四角の壁面はエメラルド色の空を晴れ晴れと写し取り、四つの角を高くとがらせています。その高さ、なんと十階建て。  中には何があるのだろうと、一見ガラス張りのような壁を、村人は興味深そうに眺めるのですが、壁は外の景色を映すばかり。中は決

          ノギク氏のビル

          ミルクピッチャーさえずる時

          ミルクピッチャーさえずる時    ーーーーーーー  東京の東久留米市にある雑貨店「ことり堂」さまを舞台に書かせていただきました。 ことり堂 Instagram https://www.instagram.com/kotori_sasahara?igsh=MWFlYjFwcnBsbXlxdA== ーーーーーーー  ここは内緒話の吹き溜まり。小さな売り場は人がふたり入ればようやく、というくらいだから、入ってしまうとたいていの人は小声で話してしまうものなの。  大通りか

          ミルクピッチャーさえずる時

          作家になりたいのだと気づいてからの一年とそれまでの十何年か

           作家になりたい、それも児童文学をやりたいと明確に思い始めたのは2023年の1月だった。  そこから無茶を承知で三月末締め切りの講談社児童文学新人賞に向けて長編を書き始め、当然間に合わず、4月ごろに完成させたものが、夢追い人としての初めての作品だ。  書きあがったものを持て余しつつ、すぐに次の作品にとりかかった。  児童文学をやる、と決めたとたんに、書きたいものはいくらでも思いついていた。それは、おそらく、長年ため込んできた児童文学への思いが一気に噴出しているからだろう。こ

          作家になりたいのだと気づいてからの一年とそれまでの十何年か

          ミラーボールをきみと

           ぼくたちは、まだ生まれていなかった。どんなかたちで生まれるのかもわからなかった。ただ生まれるんだってことはわかっていて、それは、ぼくも、みんなも同じ。すごくうれしくて、手を取り合っておどった。たまごの中のパーティー会場で、生まれることをおいわいして。  ぼくたちは、みんな白いふよふよ。今はマシュマロみたいって思うけど、とうぜん、マシュマロなんて知らなかった。ぼくも、きみも、白いふよふよの存在で、だけど手はあった。ぼくたちはそれを取り合って、天井のきらきらに照らされながら、

          ミラーボールをきみと

          第一回#絵先歌会【結果発表と感想】

          絵先歌会とは 麦牛乳の企画で始まり、主にX(Twitter)で進行しました「絵から短歌を詠む歌会」です。 だいたい三週間くらいの募集期間を設け、十六首の作品が集まりました。 まずはご参加くださった皆様、ありがとうございました……! 「誰も参加しないんじゃないか?」とびくびくしながら始めた企画でしたが、おかげさまで、募集期間、投票期間共にとても充実した日々でした。 一首投稿が増えるごとに新しい視点や物語を教えていただけて、新鮮でした。ひとつの絵から、これだけ多様な見方が

          第一回#絵先歌会【結果発表と感想】