連作「まほうを拾う」
まほうを拾う
何度でも迷子になってみたかった初秋の庭の上澄みのほう
紐栞 ほつれた先で手をとった私ととらなかった私と
校庭を焼き尽くすほどきらきらと言葉を反射する子どもたち
その中に私が書いたものはなくドッジボールが不意に始まる
モモ アンネ マルセルとココ 昨日よりすこし減らしたお砂糖のこと
「大麦の牛乳粥」と書いてから「小麦」になおす夜のべたつき
飼い猫の翼をなでる 虐殺を作戦などと報じられても
自転車のはやさで町はつまらない大人になって ゆれる びわの実
もうだれもころすな 蝶々結びをほどく一手のように坂道
この道を通るってなぜわかったんだろう あの日落としたまほうを拾う
初恋のかけらを耳にあてがって似合うねというそよ風のひと
図書室の柱のかげでささやいた私の透き通った骨のこと
入り口をたくさんつくる ごみ捨て場 湖 テレビ クッキーの缶
怒らずに生きられたくて鉛筆をプールの底に探しつづけた
好きだった翻訳本の原文に光をおとす指のささくれ
理由などなかったような気がすると十一歳の私に言われ
ファージョンの童話に浮かぶいくつものいくつものいくつものまばたき
だいじょうぶ 少し長めのまばたきをしていただけだ 湖を見る
水色の木の実 書かれていないだけでこの世界にもあるのでしょうか
あるということにしておく真夜中に原稿用紙をただしく汚す
全員が幸せになりますように ※ここでバターが溶ける演出
スキップの説明文を書くあいだ放送室の窓を思った
泳げないのと引き換えに舞い込んだ切符をもって投票にいく
夏の荷をほどきおえたら全員が幸せになるまほうをつくる
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