短歌
Xのアカウントに散らかしていた半年分くらいの短歌のほぼ全部。サボっていたバックアップのついでに上げます。去年の秋の終わりごろから今年の春のうた。
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終戦と言わずに敗戦と言った いつもと同じ声で あなたは
もう行かない町を浮かべて時々はチーズティーとか飲みたいと思う
木漏れ日はこの世界ではマチエール ひとりよがりの慰めの降る
まだお茶、とほとんど水のそれを飲むあなたの喉を皮膚越しに見た
エンターキーやさしくふれる人といてひらがなのままでもあいだった
雨粒のどれも私に手を振って無数の旅のゆきずりにいる
君の背に買い物メモを描き出すススキ野原を見た帰り道
始めたの日記とわざと言いふらす とりとまないというタイトルで
何もかも途中はきれい 再開発工事現場に色のささめき
薬箱のにおいかき分けすすみゆく膝に孤独を滲ませながら
冷水が湯になるまでのひとときに蝉の子どものねむりを思う
ながいながいおいのりだった真っ黒い海になんども砂糖を入れて
ラベンダーソフト あなたに続く道が螺旋階段だったのならば
穴あきのジグソーパズル飲み込んで完成したらそこで会いたい
クリスマスツリーを飾る玉すべて私をうつす私がゆれる
金沢のいつかは晴れる場所として水路の結び目の点々と
はじめての広島駅に降り立てば瞬間どれも子鹿のようで
白菜が羽をもがれるわたしたちああいうふうに抱き上げられた
弟の部屋をかじって去ってゆく朝九時半の真っ白の牙
透明なドアベル不意に聞こえきてわたしも冬の客として行く
服を着た犬や夜道に光る犬わたしの分も愛されておいで
春よ来い春よと祈るように書く演じるひとのいない戯曲を
残業を終え振り向けば抜け落ちた乳歯のような私であった
私も、と言いそうになりふたつめのチューインガムを口に放った
ひとつずつ大豆を拾う母親の箸はどうして飛ばない小鳥
語ろうとするほどプール深くなりあなたは水面ばかりをなでる
降り注ぐ葉擦れの音で思い出す囁きあえる距離の広さを
完結を見届けたのちため息の白さに気づく冬のバス停
あこがれが山手線の内側に閉じ込められるさまを見ていた
雨粒が雪へと変わる瞬間が勝手に置いてしまう 句点を
一歩ごとどう踏み出すか迷いつつ図書館までの道の乳色
町が詩に食べられていく 雪の日の空の向こうのビルほそぼそと
そこらじゅう名のわからない木で満ちて(わたしから名乗るべきだろうか)
カフェオレのぬるさに夜は絆されて髪を滴る戦争のこと
ももいろの馬がどんどん透き通る みんないるのにわたしだけいる
駅前の矛盾つぎつぎ暴かれる朝を綺麗と思う私も
Door-to-door 一度も星に降られずにあなたと泣いた送迎車内
何もかも何かの器 雨粒に詐欺師の一部始終がうつる
何もない道がジュースと花束と立て看板のある道になっていた
ネモフィラの画像流れて去っていき順番に暗くなる天国
本を編む手つきで今と今までの私のことも束ねてほしい
録りためた映画のことを思う 死の淵が青いと気づいたときに
「全員が幸せでありますように」※ここでバターが溶ける演出
練乳を一口ごとにつけるように繰り返し押す再生ボタン
花を踏むことを恐れて花畑を動けずにいる人をとらえよ
ひび割れた踵に小川持ちたくて点字ブロック飛び越していく
落ちていきそうな夜には受け止めてくれるくらいのワッフルを敷く
怒れない人なのだろう 木星に降り立つような相槌をして
客席が傾けば風、ささやき、が、ピアノホールを転がってゆく
絶滅と人が決定するまでの間だけまぶしい走馬灯
イーゼルを組み立てる手のもうすでにキリンをなでるようなよろこび
黙り込む私が黙り込む猫に近づいていくあなたの膝で
昨日コントロールできなかった感情へ 瓶の底は案外あかるいよ
真ん中に捨てられていく焼き鳥の串つぎつぎに春を看取って
根腐れるほどの涙の末やっと庭師は次の庭へと発った
追熟を見届けるごと読みさしのページの染みの乾くまで、夜
花は散る 運転免許更新に並ぶ私の鈍った舌に
ペトリコール、とだけ残して君は去りここからしばし幕間となる
壊すこと殺すこと焼き尽くすことの反射光まぶしい桜花
花冷えに果たされえない約束がバックミラーの中散っていく
いま君が僕の身体に飛び込んで死はうつくしい波紋に変わる
ああ、あそこ、鳩小屋だったのか、とふと働く人を見て気づきおり
桜 まだ君がドイグの絵の中に降る雪だったころを教えて
生きていく道に雑草きらめいて明日、私が抜くのだろうね
風景を抱きしめられぬ悲しみに殴られているように春風
あなたからあれは梨だと教わった花木のベッドルームひろがる
牛乳のように言葉を散らかしていつか文献になってやります
フレンチの余白をあげる 余白さえあれば女神になれたあの日へ
喉元にクレヨンハウス押し寄せて夕刻 部屋の薄暗いこと
謙虚さであなたが下がる一歩分幅のレールをゆく握り寿司
心音が私の部屋の壁からも聞こえる 壁も生きているのか
愛されていた バス停で仰ぎ見る泡のすべてが放課後だった
抗議することのぜんぶに抗議して庭になりたい ぼろぼろの庭
夜の絵を捨てるなら夜 筆先のボルドーレッド乾きはじめて
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