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幸せのケサランパサラン

「ケサランパサランが付いてますよ」ふいに口をついて出たソレは懐かしく温かな気持ちになる幸せな言葉だった。

仕事で上司と話していると上司の服の腕の部分に白い綿埃のようなものが付いていた。紺の服によく映える真っ白なソレは幸せを運ぶケサランパサランのように自分の瞳には映っていた。

昔、テレビアニメ『地獄先生ぬ~べ~』でケセランパサランという妖怪?生き物?が出てくる回があった。綿毛みたいにまん丸で真っ白でフワフワ動くソレはおしろいを食べて大きくなるのだそうだ。ケサランパサランを手に入れた人は大事にしていると幸せが訪れるとか。
作中ではぬ~べ~の教え子である美樹の元にケサランパサランがやってきて、瓶の中で飼っており、おしろいをあげる度に増殖していく描写が映された。
「どんな願いを叶えようかな~」とワクワクする美樹と同じように幼い自分もあれやこれやと叶えたい願いを無数に考えたものだ。「空を飛びたい」とか「ポケモンやドラえもんに会ってみたい」とか「ゲームが欲しい」とか。ケサランパサランがいればどんな願いも夢も叶うだろうと信じてやまなかった。
願いを叶える不思議な生き物は幼少期の自分にとって夢の広がる存在だったのだ。テレビを見てからはしばらくはケサランパサラン探しに夢中だった。原っぱや野原等、ケサランパサランの居そうな所を探しまくったが残念ながら見つける事は叶わず見つかったのはタンポポの綿毛だけだった。それでも諦める事は無く、「きっといつか会えるハズ」と信じてケサランパサランを見つける事はいつかの夢となっていた。

そんな事もあって上司の服についたホコリをケサランパサランにしか見えず、思わず「ケサランパサラン」と言ってしまったのだ。ハッとして少し恥ずかしかったものの上司は特段気にする事無く「おや、綿毛かな」と呟いていた。期待に胸をふくらませたケサランパサランらしきものは結局は飼っている動物の毛だったようだ。
その後、ケサランパサランについて話してみると予想以上にその存在を知っている人が多く、そしてみんな思い思いのケサランパサランを語ってくれた。

「白くて丸いよね」
「おしろい食べるんだよね」
「おしろいってなんだっけ?」
「〇〇でケサランパサラン見た事あるよ!」
「ケサランパサランって何してくれるの?」
「瓶に入れて飼いたいね」
「あの時捕まえおけば良かった~!」
「どんな願いを叶えたいかなー」
「幸せになりたい!」
「推しに会えるならどっちの推しに会おうかな~」etc.....。

みんなケサランパサランについて知ってる事や謎についてそれぞれ話し、情報を共有したり、脳内補完をしたりした。そして、自分が叶えたい夢や願い事について話してとケサランパサランの話は意外にも盛り上がり、みんなの顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。ちょっとした出来事だったのにこんな短時間でもほっこりさせてくれるケサランパサランはまさに幸せを運ぶ生き物だなぁと思った。

もしもケサランパサランを見つけられたら瓶に入れて大事に大事に育てたい。
それまでにどんな願い事を叶えてもらおうか厳選しておかなくては!と心に決める今日この頃であった。

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