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【連載小説】 「私の味(サボール・ア・ミ)」  (7) ボラーレ からの抜粋

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海に面したレストランに着く。もちろん、ベラクルス料理。メキシコ湾に面した港町。シーフードが美味しい。

メイン・ディッシュをペスカド・ア・ラ・ベラクルセーナという白身魚にトマトベースのソースで煮込んだ名物料理とシーフードのパエージャを頼んで、二人でわける。

前菜のつまみの、小さめのエビを揚げて塩をふっただけのものにライムをたっぷりかけてテカテ・ビールで胃袋に流し込んだら、言葉を失うくらい美味だった。人生で一番美味しいエビ。セビーチェも美味しかった。魚とか貝とかイカとかエビをライムジュースでマリネして、小さく刻まれたシラントロ(コリアンダー)が山ほど入っている。ライムもシラントロも、ふたりが大好きな味だった。

(中略)

「それで、さっきの巡礼の話だけど、奇跡で難病が治ることだけがルルドの存在意義じゃなくて、それを助ける信者がいることで、傷病の共同体が成立した、だったよね?」

「そう。ある意味、奇跡が起こることが目的でなくて、巡礼をしていること自体が目的だったり、巡礼を支えているのが目的だったり。そんな意味でみんなが支える共同体なの」

「僕の場合、僕の巡礼での奇跡がなんであるかの定義は、とてもはっきりしているんだがな」と言ってシンイチはクーバ・リブレを一口飲む。

「その思い込みすぎが、ときどき怖くもある。でも嬉しくもある。それに答えられない自分がもどかしくもある・・・」

「ひとつ言えるのは。これ、今回の旅行であなたに言おうと思って考えてきたセリフ。私なりの、今の正直な気持ち」

麻里もピニャ・コラーダを一口飲んで言う。

「あなた以外に好きなひとはいない。あなた以外と結婚することはない。
子供は好き。普通の結婚して、子供を授かって、愛情を注いで育てる。そういうのっていいな、そういうのはあるかもしれないとおもうことがある。
・・・でも、いろいろ考えると、私の人生にほんとうに結婚という選択があるのか、私がそういう人間なのか、それとも結婚を一生しない人なのか、その結論は私の中ではまだでていないの」   ■


自己番宣(番組宣伝)でした。本文はこちら:


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