何をやっても無駄、、、学習性無力感③
これまで、学習性無力感のメカニズムと、そこから脱するための方法について2つほど記事を書きました(以前の記事①、②)。今回は、そのような状態に陥っている人に対し、周囲がどう関わると良いかについて書きます。職場を想定して話を進めますが、家族関係や子育てでも同じことが言えますので、それらで困っている人は置き換えて考えてみてください。
学習性無力感によって生じる特徴的な変化は、試行錯誤をやめてしまうことです。加えて、興味や関心、意欲、主体性が低下します。仕事では、言われたことしかやらないといった行動になって現れます。ひどくなると指示すらこなせず、うつ状態に移行したり、休職に至るケースもあります。
職場内の誰かのパフォーマンスが落ちると、他の人がその仕事をやることになります。そういう意味では、学習性無力感の従業員がいると、周囲への負担が増えてしまいます。実際に、このような同僚や部下に困るという声もちらほら聞かれます。
周囲に広がるもの?
腐ったミカンの法則のように、学習性無力感に陥った人が一人いると、他にもうつってしまうのではないかと心配する人もいます。しかし、そういった形で無力感がうつることはありません。ただし、人間は頭が良い生き物なので、観察しただけで学習します。同僚が否定され続けて、学習性無力感に陥る過程を見ていた人は「何を言っても怒られるから提案するのはやめよう」「上司が気に入る発言だけすればいい」と学習してしまいます。その結果、職場全体で主体的な行動が見られなくなってしまいます。複数の従業員が無気力になり、試行錯誤の文化が失われたら、当然、生産性も落ちます。
個人の性質ではなく、コミュニケーション
では、どう対策をとると良いのでしょうか。まずは、学習性無力感に陥った人を、個人の資質の問題として見ないことが重要です。繰り返し否定される状況が続くと、9割の人は学習性無力感に陥ることがわかっています。個人の要因ではなく、職場内のコミュニケーションによる要因が大きいのです。そこを踏まえて対策を練らなければ、学習性無力感に陥る人が出続けてしまいます。
ポイントは自己効力感
犬に電気を流す実験でも、「自分で状況を変えられる」ことを再学習すれば、回復することは分かっています。今、置かれている状況の中でも、できているところを見つけ、フィードバックしてあげることで、少しはやれている所があると感じられます。自己効力感を持てると、無力感は減っていきます。
こう書くと、「いやいや。できている所もあるかもしれないけれど、基準には到底及ばない」「他の人はもっとやれているのに、褒めるなんてできない」「会社として、最低限求めていることがあって、その基準が曖昧になる」と言う人がいます(育児でも全く同じ主張が聞かれます)。この主張を否定したいわけではありません。会社には、従業員に求める基準がありますから、そこに達していない人には努力を求めますし、指導をせざるを得ません。
求める基準と同時に、個人内の変化
ここで、一つ考えておくと良いのは、求める基準と同時に、個人内の変化にも注目してみることです。そのために、相手の状態を数値化するのがオススメです。例えば、「会社としては8点を求めていて、まだ達していないけれど、5点だったのが6点になっている」といった具合に伝えるとどうでしょう。合格点に達していなくても、前進したと感じられるかもしれません。成果だけでなく、仕事に取り組む姿勢を評価してあげると、自分の行動にも意味があると思えてきます。
一方で、営業のように仕事の成果が数値化しやすい仕事もありますが、経理や、トラブル対応などのように「ミスしないのが当たり前」「問題が起こらなくて当然」と見られる仕事もあります。変化が少なく評価基準がわかりにくい仕事です。このような職種では、「ありがとう」や「いつも助かっている」といった感謝の気持ちを伝えてみるのも有効です。これと同じ問題は、いつも家事をしているお母さんたちにも起こります。それが当たり前になってしまい、感謝されないので、だんだん虚しい気持ちになるのです。自分の仕事がだれかの役に立っているという感覚は、無力感とは程遠いものです。そうした関わりを意識すると、学習性無力感に陥りにくくなり、さまざまな問題に主体的に取り組めるようになります。