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パンクで在るため、定期的にこの国のことを考えてる【本当のインタビュー中編】

思春期が終わらない人間もいる。

肥大した自意識が邪魔をしてバンドを組めなかった高校時代。インタビュー前編ではその葛藤を語ってもらった。思春期を拗らせたまま大学入学、本格的に活動を始めたおこめマンが見つけた自分らしさとは。

※この記事はインタビュー中編になります。前編はこちら。

衣替え感覚、シーズンごとにしかチューニングをしない人間だった

ババ:大学でバンドサークルに入ってなおメンバーが見つからなかったわけだけど、活動自体を始めたのは入学した2017年からだよね?

おこめマン:何か行動しなきゃと思って、新宿レッドクロスに直接CDを持っていきました。それから月に数回、弾き語りをさせてもらってましたね。その頃は思ったように活動できてなかったから、すごくフラストレーションが溜まってたと思います。

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2017年@新宿レッドクロス


ババ:そのモヤモヤって曲にも表れてるの?

おこめマン:めちゃくちゃ出てますね。この頃の曲は自分のことばかり歌ってました。きっと1人で活動しなきゃいけないことで、意識がとことん内向きになってたのかなと思います。加えて大学で日本文学を専攻してたのでそういう文章ばかりに触れてたのも大きいです。森鴎外、夏目漱石、島崎藤村とか。

ババ:ルーツが全部、図書館なんだよなあ。

おこめマン:たしかに(笑)そこは国に感謝しなきゃいけないですね。そこから、半年くらい経って、初めておこめマンにちゃんとした出演オファーが来たんです。地元の知り合いだったんですけど「おこめマンに出て欲しい」って言われて舞い上がりました。

ババ:おお!成果が表れ始めたんだ。

おこめマン:そうとう気合入ってたから、絶対バンドで出たいと思って、サークルの人に頼み込んでサポートとして手伝ってもらいました。その時はまだ3ピースでしたけど、大塚Heartsに初めてバンド形態で出演させてもらいました。

ババ:ついに…!今のサポート体制の始まりはここだったんだ。

おこめマン:サポートだから括弧付きでtheおこめマン(z)。これは銀杏BOYZ、ももいろクローバーZの影響です。正規メンバー探さないの?ってよく聞かれるんですけど、きっかけは見つからなかっただけなんですよ…。

ババ:悲しいね…。でもそこからバンドでのライブも増えていったんでしょ?

おこめマン:2018年になってからは月2,3本、安定してバンドでライブできるようになりました。というのも、サークルの先輩が「俺が弾こうか?」って声をかけてくれたんです。そこから演奏力が格段に上がってメンバーが固定化されていきました。

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2018年2月@法政大学にて初の自主企画

ババ:1年かけてようやく環境が整ってきたんだね。

おこめマン:正直、最初はコピーばかりしてるサークルの人をバカにしてた部分があったんです。でも一緒に演奏することで、みんなこだわりを持って楽器と向き合ってることを知りました。俺はホント演奏に対して無頓着な人間だったんです。表現ばかりこねくり回して、チューニングなんて衣替え感覚、シーズンごとでしかしないようなタイプでしたからね。だからみんなの練習量を見て純粋に尊敬しました。

ババ:バンドを通じて人間的に成長している…!

おこめマン:ただ、打ち上げだけは苦手で、行きたいと思い続けながらも卒業まで参加できませんでした。お前ら結局酒飲んで騒ぎたいだけじゃねーかってどうしても思っちゃって。

ババ:ここでも立ちはだかる自意識の壁。

おこめマン:ホントは俺もわいわいみんなとジ・オーラル・シガレッツのお話をしたいんですけどね。

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「少人数なら楽しめます」

7回シコったとしても、曲ができれば意味のある1日になる

ババ:曲作りで「意識がとことん内向きになってる」という話があったけど、おこめマンの曲は、他の人だったらためらってしまう部分まで自分を曝け出してると思ってて。これに関して意識してる部分とかはある?

おこめマン:そうですね。自分を救ってあげたいという想いは強いです。例えばヒマすぎて7回シコったとするじゃないですか。寝る前は倦怠感と謎の罪悪感でグッタリ。でもそれを曲にすることで、性欲にまみれた自分が、価値のあるものとして昇華されるんです。

ババ:それって例えばの話?

おこめマン:すみません、実話です。ちょっとカッコつけました。

ババ:でもすごく腑に落ちるよ。勝手に初期の代表曲だと思ってる『君のデッサンを描いてた』(『おこめデモ令和remastered』収録)は、とくに青臭くて情けない片思いの話だけど、自分語りの野暮ったさを全く感じなくって。それはきっと“自分を救ってあげたい”って優しさがあるからだと思うんだよね。

おこめマン:あの曲は確かに情けないけど、数年経って客観視すると少年時代の淡い恋物語に見えてきたのがきっかけです。「好きな子に告白できなくて、夏休みにファミマで写真をプリントアウトしてデッサンする」ってストーリですけど、実は後日談があって。

『君のデッサンを描いてた』歌詞抜粋
忘れられない夏休み
空き缶にハエがたかってる
乾いたティッシュ丸まってる
ツイッター君の写真眺めてる

そうカーテンを閉め切った部屋にゃ
夏の太陽なんか届きゃしないから

光が欲しくて 君にいて欲しくて
ファミリーマートに君の写真
プリントアウトしにいった

ババ:お!なにそれ?

おこめマン:この曲に出てくる“君”は高校時代に好きだったヒトミちゃんって女の子なんですけど、卒業式で写真を撮ってもらって以来、会ってなくて。でも、それから2年くらい経って急に連絡が来たんです。「バンドやってるんだってね。曲すごい良かったよ!」って言ってもらえて。しかも、その曲が『君のデッサンを描いてた』だったんです!

ババ:運命じゃん!

おこめマン:でもそこから何も起こらずに何通かやりとりして終わりました。ホントは「君のことだよ!!!!」って言いたかったですけど、これが現実です。

ババ:勇気振り絞ってでも踏み出して欲しかったなあ。

おこめマン:ここで「会おうよ」とか言えてたら、きっと当時デートに誘ってますよ。だからこそこの曲が生まれたとも言えますが。

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勇気を出せなかったおこめマン(17)

タイで見た、神様のお膝元でババアの生活が救われている光景

ババ:一方で『ババアに花を』(『おこめデモ令和remastered』『Nobody likes you』収録)くらいから、明らかに自分以外をテーマにした曲が増えてきてると思うんだけど、心境の変化とかはあったの?

おこめマン:仰る通りで、この曲から題材を外に求め始めました。ババさんは日本で1番おこめマンの楽曲に向き合ってますね!

ババ:めっちゃ聴き返したもん。これは海外で目にしたものを切り取った曲だよね?

おこめマン:友達とタイに行った時の曲ですね。ある神社で乞食のババアが花を売ってたんです。参拝客はお供物だと思ってその花を買っていくんですけど、実際はなんの関係もないババアが、金を稼ぐため勝手に売ってるだけ。でも神主は見て見ぬふりをしてる。そんな風景を目の当たりにして、このタイトルが思いつきました。

『ババアに花を』歌詞抜粋
デカイ空港 エアコン付きのバス
カミサマは笑わない
はだしのこども ゲリしてる日本人
カミサマは救わない

蓮の葉 石蹴り 水切り 歩けば
昇るタマシイよ 無意識に還るのだ

ババアに花をアゲましょう ムラサキのスイレンを
旧正月を祝いましょう ココロに降った金の華

ババ:観光客をカモにしてたんだ。

おこめマン:イリーガルなことではあるけれど、ババアの生活が守られてることも確かで。神様がいるかどうかはわからないけど、神社とババアの間を神様が取り持つことで、人ひとりの生活が救われてる。この関係性がとにかく衝撃的に映ったんです。

ババ:小学生の時に書いてたアジの開きの曲といい、目の付けどころがエッジ効いてて深いよね。

おこめマン:歩くの遅いから、周りをよく観察してるのかも。それで旅行の時、友達と喧嘩になっちゃったし。「ねぇ、待って!もうちょっとゆっくり歩いてよ!」って(笑)

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タイ旅行を楽しむおこめマン

ババ:めんどくさい彼女みたいになってるじゃん。

音楽の夢を追うより、納税してるやつの方がかっこいい

ババ:この頃からワードセンスにも独自性が出てきたと感じてるんだけど、これについてはどう?

おこめマン:ライブハウスで演奏ができるようになって、他のバンドの曲をたくさん聴いたことで、他の人がやらないことをしたいという気持ちは大きくなったかも知れません。

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スタジオペンタで開催した氷結100本飲み放題ライブ

ババ:というと?

おこめマン:どのバンドも邦楽ロックが長年擦り続けてきた、男女の関係性ばかり歌ってるなあと。それを聴いて共感するのも、涙する気持ちもわかるし、俺もみんなと同じように普通に生活してるから、気を抜くとそういう曲ばかりになってしまう。でもそれは俺の役目ではないと気がついたのがこの時期ですかね。“光”側のバンドマンじゃないし。

ババ:バンドに清涼感を求めてる人はおこめマンを聴いてもピンとこないと思うし、このまま我が道を突き進んでほしい!その中でも『2120』(『ぢごくへん』収録)は、そこらの歌詞では見れないワードのオンパレードとエッジが最高に立ってて震えました!

『2120』歌詞抜粋
公用語は中国語 冗談は英語
ビジネスはカタカナで進む
ちょんまげポリスがこっちを見てる
右翼はラジオの軍歌で泣いてる
令和から100年

人は肉を食うのをやめたよ
生きるだけで罪に問われるから
バンドなんかやめたよ
怒り方も忘れてしまった

おこめマン:これはパンクなことをやらないといけないという焦りに駆られて作った曲です。前編でも話しましたけど、自分の中でのパンクは大きい敵と戦うことなので、未来の日本を切り取ることで恋愛の曲ばかり書いてた自分の中にパンクを呼び戻そうとしたんです。

ババ:この社会に対する姿勢と、さっき触れたエッジの効いた目の付けどころが重なってこのワードセンスになるのか。感服しました。

おこめマン:めちゃくちゃ褒めてくれますね。でもこれは本気で日本を変えたいと思ってるわけではなく、自分が住んでる国についてを知らないことが不安なだけなんです。パンクで在り続けるためと同時に、自分が日本で暮らしていくための自己防衛本能的な部分だと思います。俺は音楽の夢を追ってるやつより、納税してる人の方がかっこいいと思ってるんで。

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自身だけでなく、周囲に目を向けた大学時代。バンドでの活動を通じて、アウトプットの視野が大きく広がったおこめマンが作り上げた1stアルバムは一転、執拗なまでに自分自身を見つめ返した作品になっていた。

本気で人を好きになった。パンクじゃないと言われた【本当のインタビュー後編】に続く。
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おこめマン(22)(新卒)と愉快な仲間たちによるDIYパンクバンド。季節の風景を歌うこと自体が俺自身を季節の風景たらしめ、私事の羅列がゆくゆくは普遍となるのだ。(訳:音源の自主制作や氷結100本飲み放題スタジオライブなど精力的に活動中!)(Twitterはこちら)

インタビュー前編はこちら
負けっぱなし。それでも音楽にしがみつきアルバムを作り上げるまで【本当のインタビュー前編】
おこめマンセルフインタビューはこちら
the おこめマン(z)(22)、狂気の10000字セルフインタビュー(上)
the おこめマン(z)(22)、狂気の10000字セルフインタビュー(中)
the おこめマン(z)(22)、狂気の10000字セルフインタビュー(下)

インタビューラスト「本気で人を好きになった。パンクじゃないと言われた【本当のインタビュー後編】」は8月20日公開予定です。

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