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本気で人を好きになった。パンクじゃないと言われた【本当のインタビュー後編】

「本気で好きだったんですよ」

これまでのインタビューで、自意識と自己矛盾に苦しんだ学生時代を語ってくれたおこめマン。そんな彼から純粋の極みである「本気で人を好きになった」言葉が出てくることに驚いた。3編に渡って綴ってきたインタビューのラストはNewアルバム『YOU ARE NOT PANX』が生まれた日、そして現在進行形の悩みに迫っていく。

(インタビュー前編はこちら)
負けっぱなし。それでも音楽にしがみつきアルバムを作り上げるまで【本当のインタビュー前編】

(インタビュー中編はこちら)
パンクで在るため、定期的にこの国のことを考えてる【本当のインタビュー中編】

キレ散らかして彼女を泣かせ、罪悪感から自分も号泣

ババ:ここまで2時間以上、前編、中編に渡って人生を振り返ってきましたが、ようやく本題のアルバムの話に入りたいと思います。

おこめマン:ついたくさん話しちゃいました。すみません。

ババ:おかげでかなり人間性の部分が垣間見えた気がするよ。ざっくり振り返ると、自意識に悶え続けながら自分にとってのパンクを考え続け、サポートメンバーとの出会いによって人間的に成長、思春期の青臭さだけでなく、表現力の向上によりオリジナリティに磨きがかかってきた。そんなおこめマンが『YOU ARE NOT PANX』というタイトルのアルバムを作ること自体がすごい興味深いなと思ってて。

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『YOU ARE NOT PANX』ジャケット

おこめマン:気がついてしまったんですよ。これだけ情けない自分を晒しながらグチグチ考えてる時点で、「俺、ぜんぜんパンクじゃねえな」って。これは俺の曲作りの根幹だから、1,2曲作ったくらいで昇華されるものではなくて、アルバムにするしかありませんでした。

ババ:中編で話してくれた、自分を救ってあげたいって話だね。アルバムじゃないと収まりきらないカルマだったんだ。

おこめマン:そして一番のダメ押しが当時付き合ってた彼女から言われた「おこめマンってパンクじゃないよね」という言葉です。正確には彼女の知り合いが言ってたらしいんですが、居酒屋でそれを聞いた俺は、キレ散らかして彼女を泣かせ、自己嫌悪に駆られて俺まで号泣。こんなんもうパンクでもなんでもないですよね。

ババ:図星つかれたみたいな気持ちもあったのかな?

おこめマン:確実にあったと思います。これまでも「何それお笑い?」みたいな文句は散々言われてきましたけど、好きな人に言われると俺の心はこんなにも揺れ動くのかというパニックも大きかったです。

ババ:これまでに好きになった人とは違ったの?

おこめマン:肉体関係があったからだと思います。ふざけて「童貞じゃなくなった」と言ってますけど、自分の身体を丸ごと曝け出して、受け入れてもらえることで得られる自己肯定感を実感してしまいました。

ババ:単純に卒業できて嬉しいとはならなかったんだ。

おこめマン:本気で好きだったんですよ。毎週会いたいとか、彼女が終電逃すと心配でしょうがない、会いたくて会いたくて震えるみたいな気持ちになってたんですよね。どちらかと言えば自分が今までバカにしてきた感情に、まさか自分が振り回されることになるなんて。でも、好きだから会いたいのか、セックスしたいから会いたいのかがわからなくなって。

ババ:めちゃくちゃわかる。性について考え始めると必ず一度はそこにたどり着くよね。

おこめマン:こういう論争って好きってキレイな気持ちが上になりがちじゃないですか。でもそれだけじゃなくて、性欲しかり嫉妬しかり、黒い感情も必ずあって。こうした心のグチャグチャを『生欲』って曲にまとめています。曲を作り初めて何年も経ちますが、邦ロックが擦り続けてきた君と僕の恋愛をようやく知りました。

『生欲』歌詞抜粋
ドス黒いの全部 そぎ落とした後 残る悲しみ
愛と呼べたなら抱きしめさせて

真っ白いの全部 ぶちまけた後 パンツのシミを
愛と名づけたなら抱きしめさせて

生きる欲望 絶望を超えてけ

ババ:これまで自分を題材にした曲はたくさんあったけど、“自分の気持ち”自体にフォーカスした曲はあまりなかったんじゃない?

おこめマン:そうかもしれないです。オナニーとか、青臭い恋愛とか基本的に「こんなことやっちゃいました」ってスタンスでしたからね。ここにきて自分の1番恥ずかしい部分を曲にしてると思います。

自分が言ってあげなきゃ、だれも俺のことを認めてくれない

ババ:中編では曲の題材を外に求めたという話もあったけど、一転、アルバムではとことん内向きになってる印象がありました。

おこめマン:さっきの彼女とのエピソードの他にも、就活をきっかけにこれからの人生を考えたことで2020年はひたすら内省モードだったと思います。それが「おこめマンってパンクじゃないよね」という言葉で吹っ切れました。なのでこのアルバムは「聴く人がどう思おうが知ったこっちゃない!とにかく俺が見た2020年はこれだ!」って気持ちで作りました。

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2020/12/25@越谷イージーゴーイングス

ババ:まさに自分を救うための1枚だね。中でも『死せる生活詩あらば幸せ』は生活という普遍的なテーマを、おこめマンにしかできない切り取り方で描いてて、うるっときちゃいました。

おこめマン:就職という人生の分岐点で、俺は音楽で生きていく道でなく仕事と折り合いをつけながら生活していくことを選びました。もちろん選ばざるをえなかった部分もあります。本当にこれでいいのかと迷うこともありますが、「俺が選んだ場所へ行く」と言い切らなければならないと思ったんです。

『死せる生活詩あらば幸せ』歌詞抜粋
俺は選んだ負けさえもこの口で噛み締めた
電車がさらう日々を
街が拒む言葉を もう戻らない

ああ いつものあなたをくれた
言葉、やさしさ、人生バラ色!
思い出せず消えるなら
死にゆく日々を 詩よ閉じ込めろ

さあ最後はまだ来ない 今日も続けなくちゃ
俺が選んだ場所へ行く 死せる生活の中で

ババ:自分の選んだ道に後悔を抱えている人ってすごく多いはずだから、そんな人たちの支えになる曲だと思う。加えて、これまでで話してくれたように、バンドをやりたくても中々メンバーが見つからず、たくさんの負けを味わいながらも音楽にしがみついてきたおこめマンが言うからこその説得力もあるし。

おこめマン:ありがとうございます。自分自身の過去を曲にしてきたこれまでとも重なると、話してて気がつきました。パンクじゃないと言われようとも、“詩あらば幸せ”と言い切る。これから先も、自分自身を奮い立たせる曲になりそうです。

ババ:自分の創作活動の原点を総括しつつ、次を提示する、見事なアルバムの締めでした!

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2020/02/25@越谷イージーゴーイングス

評価されないことが音楽を止める理由にはならない

おこめマン:『死せる生活死あらば幸せ』で大円団といきたいところなんですが、実はアルバム作ってもこの気持ちが全く昇華しきれていなくて...。仕事が始まって、千葉県に引っ越して、制作時間が少なくなって。サポートとして人にお願いしてまで音楽にしがみついてるんだろうって気持ちです。

ババ:最後に今後の目標を聞こうと思ってたんだけど、絶賛悩み中なんだね。

おこめマン:音楽と生活の両立という逃れられない問題に直面しています。これまでは学生だったから生活の基盤に音楽を置くことができたけど、就職するとそうもいかなくて。いつも「新卒 やめ方」でググってます。

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撮影中は元気な姿を見せてくれました

ババ:これまでの話を聞いてると進学とか音楽を辞めるタイミングもあったと思うけど、それでも続けてきたのはどうして?

おこめマン:それが今の1番のテーマです。なんででしょうね...。

ババ:なんででしょうね...?(オウム返し)

おこめマン:ひとつ言えるのは、“誰も俺の曲を聴いてくれない”とか、“メンバーが見つからない”、“評価されない”ってことは、モチベーションが下がる理由になっても、音楽を辞める理由にはならないってことですかね。スタートは最初に話した表現したいという気持ちなので、たぶんバンドを辞めても音楽は作り続けると思います。

ババ:おこめマンは悩んでもがいて苦しんだ方が、絶対いい曲が生まれると思う。大変そうだけど。

おこめマン:そう、思ってたのがリリース直前までです。

ババ:実際にアルバムを出して心境が変わった?

おこめマン:とにかく評価されたいと思ってしまいました。この前開催したレコ発(2021/07/03@越谷イージーゴーイング)は、盛り上がったんですけど、せいぜい30,40人くらい。来てくれただけですごく感謝してるんですが、あの場にいた全員が俺のCDを買わない理由はなんだって考え込んで頭を抱えてます。わざわざキラカードまで作ったのに。

ババ:K-POPアイドルみたいな売り方してる...。売れたいって気持ちが噴き出てきちゃったんだ。でもそう思えるのは自信作が作れたって証拠じゃない?

おこめマン:自分では良いと思ってるからもっと多くの人に聴いてほしいです。ずっといつか売れたらいいなと思ってたけど、そのいつかっていつですか?って、よくある悩みですよね。

ババ:この悩み、ぜんぜんパンクじゃないね。

おこめマン:相当グジュグジュしてるしてるので次の曲は期待しててくださいね。

ババ:頼もしい言葉!次回作も期待しています!

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おこめマン(22)(新卒)と愉快な仲間たちによるDIYパンクバンド。季節の風景を歌うこと自体が俺自身を季節の風景たらしめ、私事の羅列がゆくゆくは普遍となるのだ。(訳:音源の自主制作や氷結100本飲み放題スタジオライブなど精力的に活動中!)(Twitterはこちら)

おこめマンセルフインタビューはこちら
the おこめマン(z)(22)、狂気の10000字セルフインタビュー(上)
the おこめマン(z)(22)、狂気の10000字セルフインタビュー(中)
the おこめマン(z)(22)、狂気の10000字セルフインタビュー(下)

theおこめマン(z)最新アルバム『YOU ARE NOT PANX』は各配信サービスで視聴可能です!


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