第二話 まるごと好奇心
せかいのぜんぶが
なにもかもが
おもしろくって
しりたくって
たのしくって
うれしくって
たまらないんだもん
まるごと全部が「好奇心」みたいな娘だった。
みんなが思わず吹き出すほどの『超速ハイハイ』を搭載し、気になるものがあれば、わきめもふらず突進していく。彼女の目の前で、一体どんな世界が広がっているというのだろう。
私は、そんな娘の溢れる好奇心を満たしてあげたかった。
だけど、ところ構わず猪突猛進を繰り広げる娘。絵本の読み聞かせも、ベビーマッサージもことごとく中断されていた。
もちろん、娘は悪くない。
だけど、あるのか、ないのかも確かめられない"冷ややかな眼差し"に、だんだんと私が耐えられなくなっていった。
やがて、近所の子どもセンターも、ショッピングモールの遊び場も、なるべくひと気のない時間帯を選んで、ひっそりと出かけるようになっていた。
もはやエンタメとしか思えない「超速ハイハイ」を娘は思う存分披露してくれて、それをひとり眺めながら
なんだか少し、寂しいな。
そんなに気にしなくてもいいのかな・・・
悩める母親をよそに、人がいようがいまいが、娘は細胞の全部で生きることに夢中だった。
(私はどうだろう・・・)
そんな娘をみながら、ぼんやりと自分のことを省みる時間が増えていった。
(私には、何もない。)
娘には"好奇心の風"がビュンビュン吹いているというのに、私の心には"すきま風"が吹きこんでいる。
どうしたらその隙間を埋められるのかもわからぬまま、ありがたい「育休」は、早くも折り返し地点にきていた。
そんなある朝、私は初めて旦那さんと夫婦喧嘩をしたのだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?