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閻魔様と魚

「残念、タイムリミット」
 時間切れの後で頬を伝う汗の感触。顔中に張り付いた無数のナメクジ達が蠢いているみたいだった。
「かわいそうに」
 閻魔様が私の顔を覗き込む。
「地獄はあの突き当りを右に曲がったところだから。さようなら。それとね、君の来世は魚だ」
 声も出せない。本当は閻魔様に向かって一生分の憎悪を全部ぶちまけてやるつもりだったのに。せめて命一つ分の重さで呪ってやるつもりだったのに。
 私は弱々しく頷いて、薄暗い廊下を歩き始めた。苦しみを避けて通れるならそれに越したことはない。けれど、苦しみはどこにでもある。苦しみに囲われている。だから苦しみをどのように受け入れるかのほうを考える。それは別に理想ではない。溺れる人が知りたいのは安全な海域ではなく、生き延びる方法だ。
 絶望できないから辛い。絶望は痛みを緩和してくれる。痛いのは、嫌いだ。助かりたいなら、助けを呼びな……。
 目が覚めると、私は魚になっていた。壊れた水槽の底で空気に溺れる金魚。

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