中村将大

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中村将大

https://readdesign.jp/ ■お問い合わせ: masahiro.nakamura@thu.ac.jp

最近の記事

セルフ考古学|はじめて上京した日の追憶

9月はどうしてもノスタルジックな気分になる。通常、季節は徐々にうつろいゆくものだけど、夏から秋にかけてだけは、舞台の幕間のようにシーンが一気に切り替わる。8月末日までが夏。9月になるともう秋という具合。それは、自分自身の誕生日が8月の終わりにあることも影響しているだろう。とりわけ今年の8月最終週は台風の影響で雨がつづき、あけて9月、ひさびさの晴れ間はすっかり秋めいていた。 それから、自分にとってはじめて上京したのが9月だったことが、なによりおおきい。高校三年生のとき2001

    • うさぎのクーモ|内木場映子 原案・絵 村野美優 文クルミド出版(2023)

      おとなになっても、絵本はうれしい。 とくに、子供のいない一人暮らしの僕にしてみれば、こうして新作絵本にふれる機会は、なかなかないことなので、ありがたいものです。この本は内木場さんによる、28枚のあざやかな銅版画でつむがれています。 最近、あらためて物語(もの・がたり)や神話、あるいはお伽話というものが気になります。『うさぎのクーモ』は亡くなったうさぎ クーモと、その飼い主だった少女 みづきが主人公。うさぎの国と現実世界を行き来する、そのストーリーが魅力にみえます。 村上春

      • デザイン名著よみとき|多元世界に向けたデザイン

        『AFTERNOON RADIO デザインのよみかた』最新回が更新されました。 今回はひさしぶりのデザイン名著よみとき。この春に刊行されたアルトゥーロ・エスコバル『Designs for the Pluriverse』の日本語訳版『多元世界に向けたデザイン』(翻訳: 増井エドワード、緒方胤浩、奥田宥聡、小野里琢久、ハフマン恵真、林佑樹、宮本瑞基/監修: 水野大二郎、水内智英、森田敦郎、神崎隼人/株式会社ビー・エヌ・エヌ)をあつかっています。 テクストだけで500頁を超える

        • デザインの本歌取り

          デザイン仕事のとき、いわゆる本歌取りというか。アーカイヴをどのように活用してゆくか。最近、とくにかんがえています。某SNSがまだ青い鳥だったころ、デザインをはじめとして各種アートシーンや音楽領域において、魔女狩りのごとく、やれパクりだの元ネタだの吊しあげてからの大炎上……と。非人道的なおこないが日常化していましたが、それはそれとして。 デザインされゆくものごとは、環境や時代にわたしたちが即してゆくためのいとなみである以上、共通したプロセスや結果となることは、あたりまえにあり

        セルフ考古学|はじめて上京した日の追憶

          講義のつくりかた

          たまに講義のつくりかたを尋ねられます。もちろん講義のつくりかたと一言いっても、その範囲はさまざま。本来的にはプログラムを検討するような長期視点が必要になります。ここではもっともちいさな範囲。ひとつの講義を作成するプロセスについて触れてゆきます。 僕の場合、講義なりプレゼンテーションをおこなうとき、用意するのは基本的に以下のものです。 ・スライドショー ・資料 ・スクリプト ここでの資料とは、基本的には講義内でふれる現物のことをさします。ここからはスクリプトとスライドショ

          講義のつくりかた

          丹野杏香 作品集「採集I 野山にて」ブックデザインのはなし

          丹野杏香さんのイラストレーション集「採集I 野山にて」。ブックデザインを中村が担当いたしました。6月15日から愛知・豊田市HUUKUで開催される、同名の展示にあわせ刊行されたもの。展示案内・会場ロゴタイプは古屋郁美さんの仕事。 A5版変形・52頁/本文墨1色/小口折り製本 印刷は精興社 和文書体は秀英明朝M 欧文書体はエリック・ギルによるPerpetua 版型はThe Nonesuch ‘Selected Poems of Alice Meynell’ (1930)を参考に

          丹野杏香 作品集「採集I 野山にて」ブックデザインのはなし

          活字書体のブラックネス——追記|Theaster Gates: アフロ民藝|森美術館|

          『シアスター・ゲイツ: アフロ民藝展』の追記。展示で印象ぶかかったことのひとつは、英文キャプションにフレディック・ガウディ系の活字書体が採用されていたこと。これにゲイツ自身の意図がどのくらい反映されているのかは不明ですが、まぁ、無関係であることはなさそうです。 ガウディ活字は膨大に存在しますが、筆致や小文字の「e」を参考にすれば、おそらくそのなかでケナリー系とされるものだと推測しています。Goudy活字は、いわば近代のアメリカにうまれた活字書体。現在もアメリカ国内ではかなり

          活字書体のブラックネス——追記|Theaster Gates: アフロ民藝|森美術館|

          Theaster Gates: アフロ民藝|森美術館

          このしばらく、さまざまな場面で「民藝」ということばを目にするようになりました。いわば本流となる柳宗悦の系譜はもちろん、ことなる領域における援用まで。当事者たちの手をはなれ、それがひとつの「みいだしかた」と捉えられはじめているのかもしれません。 森美術館で開催されている『シアスター・ゲイツ: アフロ民藝展』。今回の展示にかぎらず、これまでのゲイツ自身の活動をみれば、たしかに民藝なるものをみいだすことができます。 民藝とひとことにいえど、そこには「もの」「運動」「思想」の要素

          Theaster Gates: アフロ民藝|森美術館

          ルネサンス年表を配布します

          気まぐれにルネサンス年表を作成しました。 主要人物と代表的な仕事を主観でまとめたもの。 ひと段落したのでPDFを共有します。 こちらのリンク先からダウンロード可です(もちろん無償) ご意見などありましたら、適宜反映してゆきます。 (その際はこちらに記載しておりますメールアドレスからお問い合わせください) ルネッサーンス🥂 — 5 May 2024 中村将大 記

          ルネサンス年表を配布します

          「用即美」の「即」

          民藝——柳宗悦による「用即美」の「即」。これをどのように解釈すると、わかりいいか。 工藝風向 高木崇雄さんによる著書『わかりやすい民藝』[ D&DEPARTMENT ] でふれられているよう、柳宗悦自身の文章からは「用の美」ということばは(いまのところ)みつけられないとのこと。世間的に定着してもいる「民藝=用の美」というイメージ。それが意外にも当人の発言になかった(かもしれない)……というのは、いろいろな意味において興味ぶかい。とはいえ、柳のかんがえをみてゆけば、たしかに「

          「用即美」の「即」

          デザイン教育のデザイン——番外編: 当時とすこし変化したこと

          note記事。2019年にお話ししたものが、この数日、けっこう読まれているようです。ありがとうございます。ちょうど文化におけるモダニズムについて考えはじめたころのこと。この段階では西洋と東洋を対比的にみていて、解像度あまいところがあります。いまとなっては差異もあれば、共通項もあるという解釈。 それは視覚の優位性についてのはなしかもしれない。人類史における革新的な時代をみれば、不思議なほど視覚優位な文明にもみえてきます。 たとえば谷崎潤一郎『陰翳礼讃』にみられる近代の課題。

          デザイン教育のデザイン——番外編: 当時とすこし変化したこと

          デザイン教育のデザイン——4: 教員と受講生の対談①タイポグラフィ編

          「デザイン教育のデザイン」として、筆者が2009年から2021年まで携わった美術系専門学校4年制デザイン学科の教育プログラム、その設計プロセスについてこれまで四回にわたり記事を公開しました。想像以上に読んでいただいていること、とてもうれしくおもいます。 これからしばらくは各領域における、担当教員と受講生の対談記録を紹介してゆきます。デザイン教育プログラムを実践するにあたり、教員がどのような意図で授業を設計し実施したのか。そして受講生の立場から、その教育効果や経験はどのように

          デザイン教育のデザイン——4: 教員と受講生の対談①タイポグラフィ編

          デザイン教育のデザイン——3: デザイン基礎過程の考察と実践

          「デザイン教育のデザイン」として、筆者が2009年から2021年まで携わった美術系専門学校4年制デザイン学科の教育プログラム、その設計プロセスについてこれまで三回にわたり記事を公開しました。想像以上に読んでいただいていること、とてもうれしくおもいます。 前回はそのデザイン教育プログラムの最終系を紹介しました。そのプログラムにおいて基礎過程を構築することが、ひとつの課題となったこともあわせてお話ししたかたちになります。ここでは「デザイン教育のデザイン——3: デザイン基礎過程

          デザイン教育のデザイン——3: デザイン基礎過程の考察と実践

          デザイン教育のデザイン——2: デザイン教育プログラムの設計と可視化

          「デザイン教育のデザイン」として、筆者が2009年から2021年まで携わった美術系専門学校4年制デザイン学科の教育プログラム、その設計プロセスについてこれまで二回にわたり記事を公開しました。 前回はその基礎となるデザインの定義。またコミュニケーションデザインという学科の冠について検討し、またその要としてタイポグラフィ系授業を設定したことについて、お話をしています。 最終的なデザイン教育プログラム 今回は本格的な各論にはいる前、2020年段階のデザイン教育プログラムについ

          デザイン教育のデザイン——2: デザイン教育プログラムの設計と可視化

          デザイン教育のデザイン——1: デザインの定義をする

          (続き)この美術専門学校に着任した2009年ごろ。当時のデザイン教育の状況を振り返ってみます。いわゆる大手美術大学出身のデザイナーは、それまでと変わらず活躍していました。一方、慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパスや早稲田大学 文化構想学部など。いわゆる総合大学においてもデザイン領域と呼べるプログラムが実施され、そうした卒業生の活躍もかなり目立つようになりました。 またウェブデザイン——特にAdobe Flash——を経由して、いわゆるインフォーメーションアーキテクトなる範囲の方

          デザイン教育のデザイン——1: デザインの定義をする

          デザイン教育のデザイン——はじめに

          はじめに 2009年4月に新卒で入職し、その後、2021年3月までの11年間。東京都内にある美術専門学校の4年制デザイン学科教員を勤めました。ここでは授業を担当したり、非常勤講師の窓口をしたり、日々、学生の面倒をみたりすることが、その主な仕事でした。しかしこの11年をあらためて振り返り、筆者としてそこでもっとも印象に残っている仕事は、デザイン教育プログラムの設計と実施でした。 これは、いつの間にかはじまった仕事のひとつです。また筆者一人で実施したものではなく、専任・非常勤

          デザイン教育のデザイン——はじめに