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【足利セレンディピティ】コレクション展2024 足利市立美術館

とにかく、昔から赤瀬川原平さんが好きで追い続けている。
今年は没後10年。
情報を追うためにしていることの一つに所属ギャラリーのInstagramアカウントをフォローするという方法がある。
そんな事をしていたら5月某日、足利市立美術館で作品展示があるという投稿が。


お、なんかあまり見た事ないコラージュだな?
でも現物が出てるなら見たい。
今年使い切らねばならない有休もまだあるし、夫の出張が増えてワンオペ予定期間が迫っている。その前に私による私のための有休消化実行である。
都内から2時間かけて栃木県足利市へ行ってきた。

足利市駅のロータリー

足利市立美術館

東武伊勢崎線、足利市駅から徒歩9分。
渡瀬川をアーチ型で飾る中橋を渡ったらすぐである。
が、その方向から行くと建物の裏手に到着する事になるのだが、まずその建築に度肝を抜かれた。

バーン!
そして縦方向に入る「足利市立美術館」の文字


なんと集合住宅と合体している。
都内だったらビンテージマンションと謳われ内部をガッツリ今っぽくリノベされてそうな集合住宅。

足利市立美術館は、平成6(1994)年4月に開館しました。
市街地のほぼ中央に位置し、市の管理運営する集合住宅と併設されています。

足利市ホームページ

なるほど、美術館の上に住めるのか…
なんかいいな。
この美術館建築、実はすごい珍しい建物という。
まぁそうだ。見たことないもの。
あぁ、目黒区立美術館のタワマン併設美術館建て替え構想もこんな感じか。(いや違うだろ)

表に回ったら、ちゃんと美術館建築としてのファザードはしっかりあった。

こちらがファザード
ちょっと美術館っぽさが感じられてホッとした



広場には彫刻も。隈研吾氏が関わった歌舞伎座みたいな感じ。後ろに商業タワー背負ってる代わりに市営住宅を背負う。
でも生活と美術を切り離さないって実は大事なんではないかな。

開館時間の10時オープンと共に入場

ガチ勢的な行動をしてしまったので他の来館者はおらず、展示室は貸切であった。

今の時期、所蔵品ですべての展示室を埋めてある。
足利市立美術館、渾身のお宝が以下の2パターン楽しめる。最高。

Part I 南画 憧れた景色へのかけ橋 ―大山魯牛を中心―
Part II 前衛のかなたへ 浅川コレクションと現代の美術

展示室内写真撮影は全て禁止。館内の撮影も展示品が入らないようにすればOKとのこと。

ミュージアムショップ前の休憩コーナー

Part I 南画

 概要はこちら。

「南画」と聞くと何をイメージするでしょうか。中国の深山幽谷や仙人たちが住む理想郷、あるいは古臭くて取っ付きにくいというイメージを持つ人もいるかもしれません。南画は、江戸後期から幕末にかけて流行しましたが、明治になって「つくね芋山水(いもさんすい)」と揶揄され、その人気はだんだんと下火になっていきました。
そこで南画家たちは、なんとか南画を存続させようと工夫を凝らします。足利の田﨑草雲(1815-1898)もそのひとりで、琳派や南蘋派を取り入れ、その孫弟子にあたる大山魯牛(1902-1995)は、抽象画の要素を加えることで、南画の危機を脱しようとしました。

足利市立美術館

つくね芋山水…なんか旨そうじゃあないか。

大山魯牛
ここに来て初めて見た南画の作家だが、これがまた良かった…。
あっ!と思ったのは描きかけ、習作と言われている年老いた柿の木の作品。
完成品はどうやら現存していないらしい。
見たかったとも思うけれど、この未完の状態?練習の状態、もうそれだけで十分素晴らしい。

描き込んである木の幹と簡素にまとめている柿の実。
その落差がよい。素晴らしい余白。

思えばこの「途中感」に自分は惹かれる傾向にある。
続きがありそうでなさそう感というか。
中高生の頃、ポンピドゥー美術館展でみて一番惹かれたピカソの「アルルカン」も色の塗られていない部分に衝撃を受けたことが理由だった。

南画の表現から始まり途中スランプに陥り画風が迷走しつつも最後は「南画の抽象」という、今までにない境地・ジャンルに到達する。

購入した図録の見開き。ここに載っている絵は全部同一人物の作品である。ん?なんか猪熊弦一郎みたいな猫の絵があるな?



展示室をぐるりと回ると生涯が追えるわかりやすい展示だった。

Part II 前衛のかなたへ 浅川コレクションと現代の美術

概要はこちら

「浅川コレクション」は1950年代から半世紀以上の間、画商として近・現代美術の展覧会企画や作品売買に携わった浅川邦夫氏(1932- )から足利市立美術館が寄贈を受けた、数百点の作品によるものです。浅川氏は最初、画家を志しますが、縁があって、日本における現代美術画廊の草分けの一つである南画廊の創業を手伝いました。

足利市立美術館

ここ最近、コレクターによる、公的美術館への寄贈寄付が増えている。(高齢化等の理由などが多い)
大事に育ててきたコレクションを公のものとして寄贈することで、広く様々な人が見れる様になる。ありがたい話である。
財政難により年間購入予算が数十万円という市立美術館にとっても大変ありがたい話になるのではなかろうか。

作家ピックアップ


赤瀬川原平
足利市まではるばるやってきた一番の目的がこれである。画像は先に載せた画像参照。
「あいまいな海シリース」とは違うコラージュの作品。
現物を見て思ったのだが1963年の作品にしては色が大変鮮やかであった。
原平さんのコラージュ作品はちょっとカサっとしているというか、紙の風合いの劣化も作品の個性のようなところもあり。
今回はその劣化感がない。なにか、昨日作ったばかりなのでは?という感じさえする。
良い状態、ってこういうことを言うのだろうか。

中西夏之
コンパクトオブジェ

これ、コンパクトオブジェの型、原型なのではないか?緑色のミクストメディアで作られたコンパクトオブジェ。
つくづく先日見たブランクーシの眠れるミューズ系列の形だよなぁと思う。
これを浅川さんがコレクションした経緯が知りたい。
作品の背景、どういう道をたどって今、私の目の前に展示されているのだろうか?
そこに思いを馳せるのも自分が美術を見る時に好きな部分である。

コレクション展示室から退室しようとしたところ係の方から、今回のコレクション展の図録があることを案内された。

なんと!!!!コレクション展で図録作成しているなんて素晴らしい!

図録

(東京都現代美術館も見習うべき。コレクション図録作ってくれ!)

区立美術館などでも作る時と作らない時があるのだがこういう文献資料がしっかり残る、あとから読み返せる紙の形態で残るというのは尊いことだ。
しかも企画展ではなく、所蔵品について、である。足利市美術館自体が自コレクションを研究し大事に扱って、一般公開していることが伝わるではないか。

足利市立美術館ミュージアムショップ


上記の案内を受けて鼻息荒く図録の売り場へ直行。
逸る気持ちを抑えられず多少早足、見えない圧を発していたと思う。
売り場をゆったりと整えてらっしゃった店員の方がハッと顔を上げてレジに向かってくれた。きっと(なんか勢いある人きた!)と思ったに違いない、スミマセン…。

図録の販売コーナーを見る限りこの浅川コレクションは複数回展覧会が開催されていたことがわかった。2019年と2023年。
2019年の図録見本をパラパラとめくると、コレクション者浅川さんが作品・作者の思い出や蒐集経緯を語った面白い記載がわんさかあった。

2019年の時の図録


(これが知りたいのだよ私はー!)と心の中でガッツポーズをし購入決定。
内容の濃い図録である。編集者の視点ツボだなー!
でもこういうコレクター視点の展示って昨年(2023年)どこかで見たな?と

角川武蔵野ミュージアムでみたタグコレ展だ。あの時は「蒐集家が表に出る美術展って珍しいなと」思ったがここ栃木県足利市では5年も前にこういう企画をやっていたのだ。すごいな。

余談:ここでひょんなことが起きる

さて、図録を4冊ほど勢いよく買い物カゴに入れたが、腕がしびれ始めたのでレジに預け、あまりに見本誌が面白くて誰が作ったのだろうか?と最終ページの編集者の名前を見ていたら、(ん?アレ?この方?)というお名前が。

20年ぐらい前に年賀状を出した事がある気がするお名前である。

かつて都内G駅にあったギャラリーのオーナーのお名前では?
そのギャラリー主催のグループ展に毎年作品を出品していた時期があって、気さくなオーナーが開くオープニングパーティーや忘年会(ギャラリー内でやる鍋の会w)が楽しくて参加していた。まだ20代の頃の話だ。過去の会話で栃木にゆかりがある、というとこも聞いていた。
ギャラリー自体はもう現在はない。

ギャラリーを閉める話もオーナーから直接聞いていて、主催していたグループ展はご近所のギャラリーへ引き継いでいた。その後、私も作ること自体が仕事になったことにより創作意欲を仕事で発散させていたためか、いつしかグループ展には出品しなくなった。

同一人物なのだろうか?閉じる時、学芸員になる、という話は聞いていなかった気がする。
いやでも、こんな偶然あるのか?たまたまフラッと足利市まで来ただけなのに?
と思いつつ、恐る恐るshopの方に「ここに書いてある方って…」と尋ねてみた。「あ、当館の学芸員のAですね」。事情を説明すると、
「あら、もしかすると同一人物かもですね?本日も出勤してると思うのでお呼びしますよ」と。
え!お忙しいだろうし、もう20年の前の1出品者の名前など覚えてないだろうし、そもそも人違いかもしれないしと思って恐縮し、尻込みしていたら、あれよあれよと受付の方が話を通してくれて「A、いま来ます〜」と。
わ、ちょっと緊張する…。

ロビーに来てくださったAさんはあのギャラリーのオーナーだったAさんだった。
なんと…感激すぎる、20年ぶりの再会。
「おー!あの頃の、久しぶり」と変わらぬ気さくさでにこやかに迎えてくれた。
はるばる足利までなぜー?という話や、G駅周辺の懐かしい話をしつつ、編集された図録の話題へ。
「この内容、ここの年表のページでお酒飲めます!最高です」と伝えたら笑いつつ「嬉しいねぇ」と。
今回の展覧会(浅川コレクション)の経緯やおもしろい裏話なんかも交えながらコレクションの大事さをお話してくださった。
私の第一目的だった赤瀬川さんの作品についても小話を聞く事ができ感無量。うれしい。

しかし…びっくり。こんなことって起きるのか。
だって20年ぶりだし、ここ栃木県だし。

ギャラリーを閉めた後、会社員の時期を経て、現在足利市立美術館の学芸員をされているそうだ。この日は私が訪問した時間帯でしか在館の予定ではなかったらしく「一歩タイミングがずれたら会えなかったねー」と。
これ持っていきなー!と担当された本を一冊お土産で頂き、「お子さん連れてまたおいでよ」と見送ってもらい足利市立美術館を後にした。

5月の青空の下、渡良瀬川を渡る

購入した4冊の図録と頂いた1冊、合計5冊を胸にかかえ、次なる移動先、目的地は群馬県立館林美術館である。ぜんぜん重く感じない。(多分ドーパミンが出ていたせいだろう)

美術館近くにあったパン屋「マルタカパン」でカツサンドを買って、お昼を過ぎた駅のホームのベンチで食べた。

マルタカパン
カツサンド。320円。分厚い。


眼の前は晴天の渡良瀬川。小脇には5冊の本。
思いもよらなかった偶然の幸運。
まさにセレンディピティな5月の足利市。

青空のホーム


※東海地域の方へ朗報!
2025年1月4日[土]―2月24日[月・祝]
足利市立美術館所蔵・浅川コレクション 夢を追いかけた“前衛”の鼓動
と題して「碧南市藤井達吉現代美術館」にてこの足利市立美術館の浅川コレクションが出張するそうだ。かなりの点数が見れるらしいのでぜひ。
私も寄贈品第一弾は見てないから碧南市まで行こうかな、、と画策している。

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