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シン・九州 転 九~とある次元の物語~

転 日常
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2023年9月4日(月)14:52pm
ピアクレス配給店街 アーケード  京子

晩御飯のお刺身とサラダの野菜と、あとが大好きなおこげ煎餅も仕入れたし、さぁ帰ろう と健軍町電停へ向かうと、
いつもは気にもとめずに通り過ぎる、アーケードから西へ伸びる閑散とした横丁の3軒目、「あすか」と手書きの看板の下、廃れたスナックの扉から、モコモコと出てくる真っ赤なドレスのお尻に足が止まった。えっ!?
順にゆっくりと姿を現す真っ赤なキャバドレス「あのドレス!?」
真っ白な肩とうなじ「わっ」
巻き巻きの茶髪 そして綺麗な顔が「ん?」
口をへの字にして、紫のベルベット地のソファーを外へ引きずり出すと
「よぉーし」と手をパンパンしながら扉へ戻った。
「何 なに ナニ?」京子は恐る恐る扉に近づいて中を覗くと、薄暗い店の中からテーブルを引きずる赤いドレスのお尻がこっちへやってくる。

そのお尻へ思わず「何しているの?」と聞いてしまった
ゆっくりと振り返った綺麗な顔が「何ね、アンタ」とキツめの視線を向ける
「あっ、ごめんねいきなり。そのドレスね、私も着てたから、池袋で」
まるで久しぶりに会った友達に話すみたいに
「なんね、アンタもキャバ嬢やったとね」
ニッコリとうなずきながら「私 京子。池袋の熟女キャバクラでキャバ嬢してて、5月にジャバン(邪蛮)から逃げてきたの」

「ウチは明日香。小倉のCLUB Liveでキャバ嬢しよったと。バッテン、独立したらこん国からキャバクラが消えたケン、6月にコッチに帰ってきたと」
笑顔に変わった明日香の瞳を見つめながら『たぶん、ドモダチだ』
とすんなり想えた、九州に来て初めて
「で、何してんの?」と、いきなりのタメ口に
明日香は「んー、話すと長くなるバッテン」
京子はニコッと「聞かせてよ」
明日香もニコッと返して小倉の話を始めた。


15:24pm 健軍1丁目X-Y 東家
鍵の掛かっていないドアがバァーンと開いて「ただいまぁ~」と元気な声で真っ黒に日焼けした一年生の が笑顔で小学校から帰ってきた。
靴を脱ぎながら「ママぁ~今日ねサトシくんちに…」
シーーーン
「あれ?」キョロつきながら「ママぁ~ 」居間に入り窓から庭を見ると「ママぁ~ 」洗濯物がヒラヒラと風にそよいでる。「ママぁ~!?」
あたりをキョロキョロと見回して「まだ帰ってないの?」とつぶやく。
いつもなら「おっかえりぃ~」と笑顔が待っててくれるのに
ランドセル姿の丈が、ひとりだけの広い居間でポツンと、
「ママ どうしたんだろ?」


15:36pm 陸軍 健軍基地 正門前交差点
「おーぃ、吾郎ぉ〜」
咲雷 吾郎は振り返り「なんねぇ、駿も早番ねぇ」と返す。
大栗 駿は吾郎に追いつくと「久しぶりにドガンね」
と手で真似たコップをグビッと誘う。
吾郎は「よかねぇ、ピアクレスでメシにすったい」と並んで歩きだす。
駿「ドガンね、ジャッカル電撃隊のリーダーは?」
吾郎「ドガンもコガンもなかバイ、やることの多かケン目の回りよったい」
駿「エースやケンしかたなかバイ、で サイボーグ手術はうまくいったと?」
吾郎は右肩を撫ぜながら「ようやく馴染んだかねぇ」
駿の「そこに小型原子炉の入っとっとね?」に吾郎は
「しっ!声ん大きか。国家機密バイ」
駿は笑いながら「すまんすまん、もうそいば使って変身の訓練もしよっちゃろ、スピードエースに」
吾郎は驚いた顔で「ビックリしたバイ、この前スピードエースに変身してちょっとジャンプばしたら、5階のビルの屋上まで飛んでしまって、思わず『ウワァァァ』っち悲鳴ばあげてしもうたバイ」
「アハハハ、スゴかぁ」
「笑いごとやなかバイ。もう毎日毎日事件ばっかタイ」
「大丈夫大丈夫、吾郎はもうスーパーマンなんやケン」
吾郎は溜息をひとつついて「駿はどうね、陸軍には慣れたね?」
駿は真面目な顔で「こっちは筋肉バカの多かぁ」
「なんちゅうことを!」吾郎は目を剥きキョロつき慌てて
「 陸軍にそがんとば聞かれたらボテくらわさるっバイ。海軍から派遣されとっとやケン、もうちょっとドローン操縦隊のリーダらしく、大人しくしとかんね」
「筋肉バカに繊細なドローンの操縦は無理バイ」と軽くあしらう駿
「コラァァァ! ヤメんねぇー。イケメンでおられんようになるバイ」
と本気の吾郎に「アハハハハ さぁて晩飯は何んにすっかねぇ」
陽気な駿につられて「月の初めやケン、USKカードにはたっぷり入っとっと。ガッツリいけるバイ」と笑顔になる吾郎。
ふたり並んでピアクレスのアーケードに入っていく。


15:46pm スナックあすか 京子と明日香
京子が「じゃあこのモノ凄い量の洋酒は、帰ってくるときに小倉から運んできたの?」と廃れたスナックの奥、棚や洗い場や床にぎっしりと並んだ高級品ばかりの洋酒を眺めながら聞くと、
明日香は「うん、2トントラックいっぱいやったと」答える笑顔の裏で
『退職金と手切れ金代わりタイ』と心の中でペロッと舌を出した
そして洋酒の山を見ながらあっけらかんと
「でさ、今からこん酒ばじぇーんぶアーケードのみんなへ振る舞うと」
???
京子は目を剥きながら、「は?」と、ゆっくり明日香を振り返る
「外にテーブルとソファを出してさ」
「へ?」頭が追いつかない
「一夜限りのオープンキャバクラ あすかの店開きタイ」

「な 何言ってんの? オープンキャバクラ? 振る舞う? この高級品を? 正気なの?」と京子は 頭大丈夫? の顔で聞いた
「正気も正気、本気の本気タイ」
と真顔の明日香に京子は困った顔で「な・ん・で? 意味わかんない」
明日香は大きな瞳で京子を見つめると「今朝のKHKおはよう九州で守下 恵梨奈アナが言いよったタイ『洋酒の輸入は連邦政府が審議中で、まだしばらくあの味はお預けのようです』っち。そいやったらこん洋酒たちの使い道はしばらく無かケン、じぇーんぶこの街ん人に飲んでもらおうっち想ったと」
京子は唖然と「...バカ…なの?」
明日香は「なんね、ヒドかね、バカやなかバイ」と京子を睨む
「何の意味があんのよ?」と睨みかえす京子に明日香は遠くを見る目で
「いっつも思いよったと、こん国ん人は
皆んな貧しくはなかバッテン 贅沢ば我慢して、
皆んなマジメばってん なんか気の晴れんで、
皆んなと同じように違わんようにって 陰にこもって、
皆んなヤマトん頃の平和で平等な優しい人々ば演じとっとやなかかねって?
【シン・九州 序 から読んでみて】

皆んな健全過ぎるっち思わん?
京子も素直にウンウンとうなずいた
「ガスば抜いて、傷ばなめ合う そがん場所が必要っち思わん?」
いつのまにか明日香の目に涙がたまってる
「今夜限りでよか、街ん人みんなで騒ぎたか」
京子ももらい涙の瞳で明日香を真っ直ぐ見て
「うん、うん、よぉし 私もやる やるよ ドレスと靴 まだある?」
明日香は涙の笑顔で「白と黒のどっちんよかね?」


16:10pm 健軍1丁目X-Y 東家
「ただいまぁ」これまた真っ黒な3年生の東 武が元気な声で帰ってきた。
「あれ?」と靴を脱ぐ動きが止まると、居間から「お兄ぃちゃぁぁん」と丈が涙目で出てきた。
武が「ドガンしたと」板についてきた九州弁で返すと、
丈は「ママがぁ ママがいないのぉ」
「えっ、まだ帰っとらんとママ?」
丈は泣きながらうんうんと答える。
武は少しのあいだ遠くを見た目をニコッと丈へ向けると
「よし、いくぞ」と丈の腕を掴んで、
ランドセルを背負ったまんま二人で玄関を飛び出した。


16:25pm スナックあすか前 京子と明日香
店から運び出した木目調のテーブルと紫のソファー 3セットを、アーケードを通る人から目立つように店の前に並べた。
テーブルいっぱいに、お洒落なクリスタルグラスと、オシャレなガラスのピッチャーと、氷を山盛りにしたアイスペールを並べる。

「なんしよっとかね」とアーケードを行く人がポツリポツリと足を止める。

ほどなく店から、マッカラン30年、サントリー山崎25年と白州25年、ポートエレン24年などなど、高級洋酒を無造作にギッシリ乗せたワゴンを、赤いキャバドレスの明日香が白く長い素脚でゆっくりと押しながら出てくると、アーケードがザワつきだす。
そしてもう一台、高級洋酒たっぷりのワゴンを、露出度の高い真っ白なキャバドレスの京子が細く長い素脚でゆっくりと出てくると、
「おぉぉぉ」「うおぉぉぉ」「うわぁぁぁ」
と大きなドヨメキのあと「なんねなんね」と人だかりが増えていく。

その人だかりへ赤いドレスの明日香が大きな声で
「みなさぁーん いっつもいっつもマジメにご苦労さまでぇーす。
今からここで 今夜限りの オープンキャバクラ あすか ば開くケーーン」
人だかりは 何ば言いよっとねコイツ の顔で周りをうかがう
明日香は両手をメガホンにして叫ぶ
「お金は要らんし、USKカードも要らん、じぇーんぶタダやケン
たくさん飲んで、たくさん愚痴って、たくさん笑って、たくさん泣いて
今夜は みぃーんなで 騒がんねぇーー」
「えぇぇぇ」「おぉぉぉ」「ほぉぉぉ」とどよめき
「さぁ、飲まんねぇ〜」と明日香が右手にマッカランを色っぽく掲げると
「うおぉぉぉぉぉ」の雄叫びが夕暮れのアーケードに響き渡り、
人だかりが崩れてふたりへ押し寄せる。


16:31pm ピアクレス アーケード 大志
「腹んへったバイ」
この3日間、なんショッカー幹部 慈国 大志は陸軍 健軍基地の周りで聞き込みを続けてきたが成果は何も得られていない。九州連邦のめぼしい基地を調べている他の幹部からもそれらしい情報は入ってこない。
「いったい何処にあるとやろ、AIツクシノシマんコンピュータは」
なんショッカーのサイバー部隊が、Knetにツクシノシマを探すコンピュータウィルスをバラ撒いているが、連邦のコンピュータ抗体の抵抗でいまだ辿り着けていない。
「こがんなったら、バッタ男と一緒に基地ん壁ばジャンプして、基地んコンピュータばじぇーんぶ叩き壊せば、ツクシノシマがおったかどうがハッキリするバイ」と空腹も手伝って頭の中に非効率な破壊妄想が浮かんだ。
頭を振り「まずは飯タイ」とアーケードに入ったところで後ろから

「大志? 大志やなかね?!」

振り返ると高校時代の悪友 大栗 駿が驚いた顔で手を振っている。
「駿?! こんなとこでなんば...」駿の迷彩服に言葉が止まった。
「大志こそ、こんなとこでなんばしよっと?」
大志はハッと「仕事でこっちん来たと。なんね、駿は軍に入ったとや?」
久しぶりの大志の顔を眩しそうに見ながら「あぁ、高校んあと色々あったバッテン、海軍ば選んだと。ジャバン海軍に入隊してからは佐世保基地におったバッテン、独立ん時に崎山元帥に魅かれて九州連邦に残ったっちゃ」
訝しむ大志「ここ健軍は陸軍やなかね」
駿「今は海軍からコッチに派遣されとっと」大志ん目がキツか
「陸軍でなんばしよっと」大志の間髪入れぬ質問に駿は眉をしかめて
「なんかぁ、そがん怖か顔で」
「まぁまぁ」と割って入る吾郎を睨んで「誰な、あんたは」と凄む大志
駿が低い声で「同僚の咲雷 吾郎タイ」と紹介すると、吾郎は明るく
「どうも咲雷です。基地ば警備するジャッカル電撃隊員ばしよっとです」
「ジャッ..カル..だと」その名前に大志の躰は反射的に掴みかかろうとする
「なんねさっきから、大志らしくなかバイ」
と止めに入った駿にハッと我に返り、無理やり作った笑顔で大志は
「すまん、仕事で色々あったケン」と顔を伏せると吾郎が気を利かせて
「よかよか、どがんね一緒に晩飯でも」
大志が伏せた顔でニヤッとしながら、うなずいた。

しばらく3人で話しながらアーケードを南へ歩くと人だかりができていて、人だかりの先の横丁がなにやら騒がしい。
「なんかね」
背伸びをしたり、人の隙間から覗いたりしていると、3人の横を
刺身をたんと盛った大皿を両手で抱えた魚屋のおやじが、「ちょっとどかんね」と笑顔で人だかりに押し入っていく。
スルメと貝柱を両手で抱えた乾物屋のおっさんも、「ちょっと通さんね」と笑顔で入ってく。
おかきやカレー煎餅 ゴマ煎餅を山ほど抱えた煎餅屋の兄ちゃんは、「京子ちゃーん」と笑顔満開で通り過ぎる。

3人は ウン と目配せして人だかりに分け入った。


16:53pm オープンキャバクラ あすか
3人が人だかりを抜け出すと、
「はーいお兄ぃさーん、水割りおかわりどうぞぉ~」
「うわぁうれしかぁ こがんおつまみは大歓迎ターイ」
お兄さんやおっさんやオヤジの群れが
「明日香ちゃーん、おかわりぃ」 ガヤガヤ
グラスを片手に
「綺麗かぁねぇ、こっち向かんね」 ガヤガヤ
笑いながら群れていて
「京子ちゃーん、一緒に飲まんねぇ」 ガヤガヤ
その群れが目の前でドンドン膨らんでいる。
「明日香ちゃん、綺麗かぁ~」 ガヤガヤ
その群れの真ん中に
「次はオイたぁい、京子ちゃーん」 ガヤガヤ
男たちの目をクギづけにする露出度高めのタイトなキャバドレスの二人
「こがんうまか酒は久しぶりタイ」 ガヤガヤ
ひとりは真っ赤なドレス、もうひとりは真っ白なドレス
二人ともスレンダーで白い肌、細い素脚に高いヒールの長い脚
「もう辛抱たまらんバイ」 ガヤガヤ
二人が踊るように男たちへ水割りを振る舞ってる、
キラキラと光るクリスタルグラスの光をまとって。

「キャバクラっちヨカとね? だいたいなんね あん酒は あがん洋酒はまだ輸入されとらんはずバイ」
と訝しむ駿など目もくれずに吾郎が引き寄せられていく
「おい、吾郎 コラなんしよっと」
吾郎に聞く耳は...ない
「すごか酒バイ、ありゃマッカランの30年やなかね」
と大志も吸い寄せられる
「おぃ、大志までなんね」
と言いながら、駿もキャバ嬢をチラ見しながら二人を追っていく。

笑顔で「はいどうぞぉ」大きな瞳で「はいお兄さん」
次から次へ振る舞われる水割りを、マヌケな笑顔の男たちが女の手をさりげなく触りながら受け取っていく。
吾郎が白いキャバ嬢から、大志が赤いキャバ嬢から、そして駿の番
白いキャバ嬢が「あれ?」と目を剥いて駿の顔を覗き込む
周りの男たちがザワつく ザワザワ
「あの、大栗さん…ですよね、海軍の」と京子
吾郎が睨みながら駿を振り返る
「なんね、こんイケメンば知っとっと?」と明日香も口を挟む
「あー、えぇーと...誰かね?」駿の顔がグッと京子の顔に寄ると
「グゥォラァ」「なんかぁ」「近かッ」と外野がウルサイうるさい

「5月26日の下関動乱でお会いしました 輸送艦「由布院」で。
 私はあの亡命難民のひとりでした」と京子は真っ直ぐ駿を見つめた。
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しばらく京子を覗き込み、アッ と目を剥く駿
「あぁぁ、あん時のぉ たしか可愛か息子さんば二人連れとらしたぁ」
に「はい」と京子は笑顔を返し、駿の手を握りながらグラスを渡すと
「うるぁぁぁ」「なんかぁぁぁ」「離れんかぁぁぁ」
と外野が怒る怒る
「昔っからこうバイ、最後は駿がもって行きよっタイ」
と大志が睨んで吐き捨てる
「違う違う、海軍の関門開門作戦でさ そん時にさ、ねっ?」
「はい、本当に優しくしてもらって」と京子  えっ?
「あぁぁぁ?」「ほらみんかぁぁ」「なんかぁぁぁ」
怒り顔の男たちが駿の周りを取り囲む
「でも、その服は陸軍の制服ですよね?」手を離しながら京子が尋ねると
「今は海軍からコッチに派遣されとっとです」
大志が「陸軍でなんばしよっと」と抜け目のなく誘導する
周りの男たちも口々に「なんしよっとかぁ」と乗っかかってくる。
駿はヤレヤレの顔で男たちをチラ見しながら
「健軍基地で陸軍にドローンの操縦ば教えとっとです」
京子が驚きながら「ドローンの…操縦 ひょっとして下関で巨大な大統領を映してたあのドローンは…」
「はい、あんドローンはオイが操縦しよったとです」
嬉しそうに答える駿を、大志が横から冷めた目で見つめる。
京子の「嬉しい!また会えるなんてぇ」にネガティブに反応する外野たち「うぅぅぅ」「ムゥゥゥ」「グルルルル」
京子は夕暮れの帳が下りてきた横丁の真ん中で、煌めくクリスタルグラスを高く掲げて「みんなぁ カンパーイ」と笑顔を振りまくと、
「カンパーイ」「パンカーイ」「カンパーーイ」が返ってくる。

突然、大声が響く 「こいはぁ いったいなんかぁ~」
と肩で息をするデッカイ警官がふたり、目を剥いている。
何倍にも厚くなった人だかりを掻きわけて出てきた二人に、グラス片手の酔っ払いがひとり弱々しく「なんかぁ~」と絡んだ。
ひとりがその胸ぐらを掴んで片腕で軽々と持ち上げると、足をバタバタともがく酔っ払いの顔に「なんかぁ~」と怒鳴り、顔じゅうを唾まみれにした。
酔っ払いを持ち上げたまま、車座の男たちへ そして明日香と今日子へと視線を移し、睨んだままゆっくりと近づきながら
「いったいこれはなんかぁ、なんばしよっとかぁ」と怒鳴り散らす。
男たちも黙っていない「あぁ?」「なんかぁ」「警官がやかましかぁ」
と取り囲むが、低く唸るような警官の
「こがんマネばして、どがんコツになるかわかっとっとか」に思わず怯む。
明日香が「お巡りさん、ご苦労様です。たまにはこがんお祭り騒ぎもよかタイね、お巡りさんも一緒にドガンね」と笑顔で近寄るが
警官は睨み顔を崩さず「こん酒はなんかぁ」と低く凄む
明日香「こいはうちがもっとった酒たい、なんも怪しかコツなかバイ」
警官「なんかぁ、そんキャバ嬢んごた格好は」
明日香「こいもウチんドレスたい、可愛かっちゃろ」
警官は表情を変えずに「どがんことになるかわかっとっとか、こがんキャバクラまがいのことばして。キャバクラはこん国の仕事リストに入っとらんちゃ! 署まで来んかぁ」と明日香の腕を掴むと、男たちが
「コラァ」「ふざくんな」「なんスッとかぁ」
と警官のアチコチに掴みかかった。

「何がいけないんですか!」
と京子が警官と明日香の間に割って入り、真っ直ぐ警官を見て
「この国の人はサァ、皆んなマジメに毎日毎日ガンバってるジャン、贅沢もしないで社会のためにって、建国理念を信じてサァ」
「ただサァ、健全過ぎるよ この国は」警官もみんなも、黙る
「クダを巻いて、息をついて、ガスを抜いて、傷をなめ合う。
そんな場所が、キャバクラみたいな処が必要でしょ この国には」
男たちはウンウンと言葉にならない。
「明日香と決めたの 今夜限りでいい 街の人みんなに飲んでもらおって お祭りみたいに騒ごうって キャバクラみたいに楽しんでもらおって。
だから今夜だけは、その目を瞑ってて下さい」
と困った顔の警官に涙目の笑顔を向けた。
その笑顔で明日香を振り返り
「決めた いま決めた。この国でキャバクラやるよ、明日香と一緒に。
連邦に認めさせようよ、立派な仕事だって」
「うわぁぁぁ」「よかたーーーい」「京子ちゃーん」「明日香ちゃーん」
横丁は興奮のるつぼと化した。と、そこへ

細い声の「ママ?」は騒ぎにかき消される
「ママぁ?」も届かない
二人は精一杯の声で「ママぁぁぁ」
騒ぎが一瞬静まり、 京子が露出度高めの真っ白なドレス姿で振り返ると、
真ん丸な涙目で驚きながら「何やってるのママ」
と見上げる、ランドセル姿の武と丈
「あっ」と驚いた顔がだんだん緩み
「ア ハ、アハ アハハハハハ」
と頭を掻きながらゴメンゴメンとふたりに謝る京子だった。

結 壱 「やがては、ヤマト時代の筑紫島まで戻したい」 につづく

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