【住劫楽土】の物語を書き始め、【鬼凪座暗躍記】の二作目が終わりました。 読んでくださった方々に、まずは心より感謝申し上げます。 ただ、【住劫楽土】シリーズは漢字量が多く、文章が堅く、内容が重いため、読者の皆さまの中には、とっつきにくい印象を持たれる方も、多くいらっしゃると思います。 そこで、箸休め的に、新たな取り組みをすることに決めました。 以前から温めていて、まだ文章化していない作品の『あらすじ』だけを、この場でご紹介してしていきたいと思うのです。 その名も【物語
【汪楓白、意地悪な神に愛されるの巻】 さて、これは後日談だが、宮内大臣は、息子の鬼憑き嫌疑に端を発し、開始された身辺調査で、過去の不正や現在の不正が次々と明らかになり、到頭、失脚……自害したそうだ。 逆に神々廻道士は、鬼憑き太子の武勇伝で、さらに名を上げ、市井の民から英雄視されるようになったし、愛する女性・紗耶さんとも晴れて夫婦になり、とても幸せそうである。 あれだけ汚く、荒れ果てていた廟も、紗耶さんが来てからというもの、見ちがえるほど、綺麗になった。隅々まで掃
【汪楓白、師父の恋路を応援するの巻】 僕は、『早く! 早く!』と、呑気な神々廻道士(と醸玩)を急かした。 何故だか、胸騒ぎが収まらない。不安と憂患にさいなまれ、仕方がない。 どうしてだろう……例の忌地事件のあとから、僕の勘は妙に当たるんだ。 ところが……嫌な予感、的中! 「あ……雁萩太夫」 「おんや、まぁ……他の男に、落籍されたか」 「そ、そんな! 紗耶さん!」 なんと見世から、煌びやかな衣装に身をつつんだ、上臈の男に手を引かれ、雁萩太夫が丁度、出
【汪楓白、最強の功力を発揮するの巻】 …………………………………………………………………………………………………… 「喂、邪魔だ! そこをどけ!」 「役立たずは引っこんでろよ!」 「一緒に吹っ飛ばされたいか!」 怒り散らす隊員たち。 「おやぁ? どうやら、お目覚めのご様子ですぞい」 目を細めて笑う醸玩。 「……先生?」 眉をひそめる燕隊長。 怪訝そうに見つめる一同の前へ、進み出た《汪楓白》は、穏やかな口調で云った。 「やめなさい、最早……あ
【汪楓白、忌地で人外の者を見るの巻】 神隠しの森――それは、天凱府で最も広大かつ強大な、鬼業禍力で汚染された上忌地だ。 今までの清浄な黒い土壌が、森の入口を境目に、くっきりと切り分けたが如く、深紅に染まっている。これを赤腐土と云う。鬼の血と呪いが染みこみ、赤く穢された土壌である。 忌地の中は、常に危険で一杯だ。上忌地となれば、なおさらだ。 僕はまだ、一度も入ったことはないけれど、噂でよく耳にする。尤も、ひとたび足を踏み入れれば、常人なら無傷ですまない。無事に
【汪楓白、愛妻の鬼難に発奮するの巻】 しこうして、一刻ほどのち――、 地下牢へ戻された僕を、神々廻道士は、相変わらずの鷹揚さで迎え入れた。 「よぅ、早かったな。どうだった?」 「……散々でした。いきなり殴られるわ、屈強な隊員たちに、寄ってたかって厳しく尋問されるわ、その途中で、例の鬼生虫が出て来ちゃうわ……あいつ、脱走しちゃいましたよ」 僕は、燕隊長に云われた通り、神々廻道士を騙すための演戯を始めた。 バレたら怖いけど、落ち着いてやれば大丈夫だ、楓白
【汪楓白、男色の危機に晒されるの巻】 そんなことになってるなんて、まるで知らない僕は今、最悪の状況に身を置いていた。 「……はぁ」 「……ヤレヤレだな」 ここは、百鬼討伐隊本陣『白宿・冥府曼荼羅堂』の、暗く冷たい石造りの地下牢。 そこへ、隊員たちによって、手荒く放りこまれた僕と神々廻道士は、青息吐息であった。 雨音が聞こえる。降り出したのか……まるで、僕の運命を悼む泪雨のようだな。 「チッ……どっかの阿呆のせいで、散々だぜ、まったく」 「えぇ、えぇ、
【汪楓白、官兵に誤認逮捕されるの巻】 神々廻道士は、相変わらず瓢箪酒をあおっている。 遊郭を出て半刻……すでに夕闇迫る帰り道、口を開くのは鬼去酒を呑む時だけだ。つまり、ずぅ――――っとだ。信じられない……酒豪を通り越して、酒乱だなぁ、こりゃ……。 だけど、ここに来て僕は、ようやくあることに気づいた。 アレ? 往きと道順がちがうみたい。なんだか、随分と人気のない場所に来ちゃったな。 まさか……昨日からの嘘や演戯、やっぱり全部バレてて、ここで制裁を? いや、
【汪楓白、人生初の悪所落ちするの巻】 そんなこんなで、翌日。 僕は朝も早から神々廻道士に呼び出され、迎えに来た蛇那と一緒に彼の居室へ向かった。 嫌な予感がする……まさか、もう昨夜の演戯がバレたのか? 僕と琉樺耶たちが、裏で協力関係を結んだことも、すでに露見してるのか? だとしたら、ヤバい……ヤバいぞ! 啊! どっちみち、僕の首輪を見たら、一目瞭然か! 〈楓白……あくまで、平静を装うんだよ。心を水面にたとえ、細波立たぬよう律するんだ。これだけ乱暴にあつかって
【汪楓白、唐突に再婚を迫られるの巻】 ……清けし月の面にも、 写す九献の面にも…… 華々しく始まった婚礼祝唄『九献の言寿』……蒐影が箜篌を弾き、呀鳥が鞨鼓を打ち鳴らし、蛇那が美声を披露する。そして、円卓上へ、豪勢に用意された料理。金屏風の雛段に、曲彔が二つ、夫婦の契りを酌み交わす合巹の瓢……それにしても、それにしても、だ。 まさか、本当に、こんなことに、なるなんて……展開が早すぎて、思考が追いつけない。 だって、まだ出会って一刻だよ! 僕には、妻だっ
【汪楓白、羞恥心の限界を超えるの巻】 その後、神々廻道士の働きで、鬼騒動が収まった村落では、ささやかな宴席が設けられ、村長の邪鬼祓い成功を祝い、集まった住民たちにより、こんな会話がなされていたそうだ。 「それにしても、神々廻道士さまは、素晴らしい御方だなぁ」 「本当ですね、お父さま。人は見かけではないのだと、よく判りました」 「そうそう! 現れた当初は正直、不安だったがねぇ……よくやってくれたよ!」 「身形はとにかく、強くて精悍で勇敢で……顔立ちも、なかなか男前
【汪楓白、鬼憑き芝居に加担するの巻】 『あなた……楓白さま』 『その声は、凛樺! 戻って来てくれたのかい!』 『ごめんなさいね、私……あなたのそばを離れて、ようやく判ったの』 『なにをだい?』 『私にとっての運命の相手は、榮寧なんかじゃない……やっぱり、あなただって』 『啊、凛樺! やっと、そこに気づいてくれたんだね!』 『こんなワガママで、ふつつかな女だけれど、また……妻としてそばに置いてくださる?』 『勿論だよ、凛樺! 僕はずっと、君を待ってたんだ! と
【汪楓白、道士を志すも挫折するの巻】 住劫楽土において、道士とは古来より廟に住み、邪鬼祓い、悪霊祓い、果ては妖怪退治などを生業とし、人々の幸魂を願い、世の信望を集め、畏敬の念をいだかれる……そんな、偉大な存在であった。長年の苦行や荒行で、人並み外れた功力、霊力を持し、武術に長け、道士によっては、典薬医術、加持祈祷を行う神通力までそなえ、迷える人々に生きる道を説き、常に自戒し、とにかく……この国で『道士』と呼ばれる以上、身も心も強くあらねばならない。仙道を志す者なら、なお
【汪楓白、最愛の妻に逃げられるの巻】 『旦那さま、私……強い殿方が好きなの。あなた、ご存知でしょう?』 ――うん、勿論だよ、凛樺。だから僕も、強くなろうと努力して来たんだ。 『だけど結局、あなたには無理だった……いつまで経っても、あなたは弱くて情けない夫』 ――そんな……僕は僕なりに、君にふさわしくあろうと、頑張って来たんだよ? 『私が掏摸の被害に遭っても、あなたは犯人を、捕まえようともせず……』 ――仕方なかったんだ! 相手は匕首を持ってたし、深追いするのは危
「真魚さん、すまねぇ……あんたの期待にそえず、腹のヤヤ子まで、不幸にしちまった」 廃村を照らす恋火月が、悪相座長の琥珀眼に浮かぶ、真摯な光を、まぶしく輝かせた。 真魚は泪をぬぐい、首を振った。あの場合ではやむを得なかった。 彼女自身の咎なのだ。 【鬼凪座】を責める気持ちなど、微塵もない。 「いいえ。皆さまは、亡くなった四人の縁者からも依頼を受けていたのでしょう? これも、彼を本気で愛してしまった私へ、兄や四人の亡魄が与えた、罰なのかもしれません」 廃村奥に真
〈貴様ぁ……俺を、描いたのか? ふざけるな! 今すぐその画帳をこちらへよこせ!〉 ……なにを怒ってるんだい? やめろよ…… ――不明瞭な声―― ――すれちがう会話―― ――つながらぬ心―― 〈ワケの判らんことを、ほざくな! 貴様は、聾唖者だな!? だが、その目は晴眼だ! 絵師が、俺の素顔を見た以上、生かしてはおけん!〉 ……その格好、君は【緇蓮族】なのか!?…… ――邪悪な凶相―― ――危険な匂い―― ――怒気にゆがむ唇―― 〈命乞いなど、無駄だぞ! 覚悟