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成功体験が自信になった。これからは自分を支えてくれたコミュニティを形成したい

2021年に設立された「株式会社フーテン(以下フーテン)」。企業理念に「お前じゃなきゃダメなんだ!」を掲げ、現在は浅草に3店舗を構えている。カフェ、スナック、バーとそれぞれの業態は違うものの、一貫しているのは人と場所がつくり上げる「コミュニティの強さ」だ。そこで今回は、スタッフである斉藤舜太郎(さいとうしゅんたろう)さんに入社の経緯から現在の働き方、そしてこれからの展望について聞いてみた。

●趣味に没頭していた青春時代

――はじめに、これまでの経歴を教えてください。

斉藤舜太郎(以下、斉藤):僕は埼玉県坂戸市で生まれ育ちました。学生時代から話しますと、10代は音楽にどっぷりでしたね。特に高校はSNSでつながった友人とバンドを組み、学校にはほぼ行かず、健全な不登校生活を送っていました(笑)。

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▲フーテンが運営するバー「ギフ」の店長・斉藤さん。愛称はアメコミ

――音楽に熱中していたと。アルバイトはされていましたか?

斉藤:コンビニでバイトをしていました。正直バイト先はどこでもよかったですね。当時、僕の目的は「お金を稼ぐこと」だけでしたから。また、大学進学後もバンド活動は続けていましたが、4年生になったタイミングでバンドを続けるか、就職をするか、選択を迫られまして……。

――どちらを選びましたか?

斉藤:バンドをやめ、物流会社に就職することにしました。ただ、このときの目的もお金。適当に決めてしまったのでやる気は0に近かったです。

――では、当時は何に熱中していたのですか?

斉藤:ずっとクラブイベントの運営に携わっていました。オーガナイザーとして、DJ イベントや、コスプレイベントを企画していましたね。学業を放ったらかしてバンド。仕事をサボってイベント。自分でも恐ろしいほどに本業が疎か(笑)。

――仕事よりも趣味に力を注いでいたわけですね。イベントはどういうきっかけですか?

斉藤:SNSがきっかけです。大学時代にハマった、アニメのオフ会に参加した際「お前もイベントを一緒にやってみないか?」と誘ってもらえまして。

その後、そろそろ自分も手に職をつけたいと思うようになり、編集プロダクションに転職しました。まさかのブラック企業ではありましたが、ライティングをはじめ、編集や撮影など頑張っていましたよ。そして、入社から2年が経ったころ、今度はフリーのカメラマンとして独立したくなり、上京することにしたんです。

――フリーランスはいかがでしたか?

斉藤:コロナウイルスの影響で最悪でした。仕事はないですし、貯金も底をつきましたね。なので、仕方なく上野のアイリッシュパブでキッチンのバイトを始めました。

――厳しい時期でしたね。フーテンとの出会いというのは?

斉藤:上野で働くようになり、浅草にも遊び行くようになりました。そして、たまたま浅草の飲み屋で佐藤さんに出会ったんです。

――それでフーテンに誘われたんですか?

斉藤:そうですね。ある日、佐藤さんに「会社をつくるから一緒に働かない?」と声をかけていただきまして。僕は二つ返事で引き受けましたね。じつは密かにギフ(※)で働きたいと思っていましたから。

※ギフ…フーテンが経営する浅草のバー

――どんなところに惹かれましたか?

斉藤:1つはギフの店内がカッコ良かったこと。僕、ネオンが大好きでサイバーパンクの世界観とか夜の香港を見ると惚れ惚れしちゃうんですよ。自分でもよく撮影していたほどで。

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▲斉藤さんが撮影した夜の街

斉藤:あとは、佐藤さんを信頼できると思ったからです。発言や人柄が面白く、直感的に「あ、この人についていけば間違いないだろうな」と思えたんです。

くわえて、僕は自分が面白いと思ったことを突き詰めたい性分なんです。だから、フーテンなら、働きながらでも「音楽」「イベント」「カメラ」など自分の好きなことが続けられると思ったんですよね。

――でも、アイリッシュパブのバイトでも続けられるのでは?

斉藤:バンドやイベントもそうですが、僕ってどこかに属することが好きなんです。そして、フーテンのお店はお客さんとの距離感が近く、強いコミュニティで形成されています。だから、フーテンの仕事、フーテンのコミュニティに惹かれたんだと思います。

●自分を変えてくれたフーテン

――いつ入社されましたか?

斉藤:入社したのは2021年3月。当初はギフで佐藤さんと2人体制で働いていました。ただ、飲食業の接客は初めてだったので佐藤さんには水商売のイロハを教わり、接客を一から叩き込まれましたね。

――未経験だと学ぶことも多そうです。

斉藤:例えば、お客さんからいただいたお酒は乾杯して飲むのが通例じゃないですか? でも、当時の僕は口をつけない。今では当たり前ですけど、そんなところから学びました。

――でも、約1年で店長に就任されました。相当な努力をされたみたいですね。

斉藤:入社まもなく、フーテンの社員旅行があったんですよ。そこで佐藤さんと飲んでいるときに「お前は今のままではダメ。絶対に変わらないといけない」と言われたんです。僕自身は一生懸命やっていたつもりでしたが、一緒に働く佐藤さんの目にはまだ中途半端に映っていたのかもしれません。

――意識を変えろと?

斉藤:そうですね。でも、僕はまず見た目を変えてみようと思ったんです。

――意識ではなく、外見?

斉藤:はい。30年近く生きていると、発言や性格をすぐに変えるのは難しいじゃないですか?でも、外見を変えることで少しずつ意識も変わるのかなと。また、バーは人前に立つ仕事です。佐藤さんからも「ここはステージ。お客さんからの印象は評価に直結する」と教えられたので、いいきっかけだと思ったんですよ。

――お客さんからの反応はいかがでしたか?

斉藤:とても好評でした。やはり、印象が違うだけでお客さんからの見え方も変わったでしょうし、僕自身もより一層身が引き締まりましたよ。今ではこのスタイルでキャラ立ちできたと思います。

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▲イメチェンする前の斉藤さん

――店長になった今の業務内容を教えてください。

斉藤:お店の営業はもちろん、シフト作成、ドリンクの発注、料理の仕込み、レジ管理…裏方から表舞台まで業務全般を行っています。

――店長になり、プレッシャーも大きくなったのでは?

斉藤:ずっと言われていましたよ。「お前が人気でないと、この店の売上は落ちるんだからな。俺におんぶに抱っこじゃ、しょうがないぞ!」って。

――手厳しい……。辞めたいと思うことはありましたか?

斉藤:ないですね。佐藤さんには感謝していますし、尊敬もしています。でも、何より絶対に負けたくなかったんです。だから、辞めたいと思う前に売り上げを伸ばす方法を考えていました。もちろん、店長という責任感も大きかったです。ここで辞めてしまったら、きっと佐藤さんに迷惑がかかるし、周りにも格好がつかない。期待されている分、もうやるしかないなと。

――どのようにその壁を乗り超えましたか?

斉藤:常に佐藤さんの行動、言動をチェックしていましたね。それと外見だけでなく、仕事に対する意識の変化が大きな要因だと思っています。

――どんな変化があったのでしょうか?

斉藤:佐藤さんの一言が胸に響いたんですよね。「お客さんに対して愛を持って接しなさい」。確かに佐藤さんを見ていると思うんです。「この人は本当に人が好きなんだな」って。僕が見て思うなら、お客さんも絶対に思うじゃないですか? だから僕も上部だけでなく、本当に愛を持って接することにしたんです。

――なるほど。でも、愛の伝え方も難しそうです。

斉藤:愛って表現しづらいんですよね。「〇〇をしたから愛を持って接している」とはならないじゃないですか? なので、まずはお客さんと密に会話をし、関係性をしっかりと築くことに注力しました。

また、浅草で飲食店をやられているお客さんも多いため、顔を出すようにしました。もちろん、営業という気持ちはさらさらないです。それよりも、やはり感謝の気持ちですね。いつも来ていただいているので、少しでも恩返しをしたいなと。

――とても大事なことだと思います。

斉藤:あの言葉はずっと身に沁みています。だから、これからもお客さんにはギフを楽しんでもらいたい、幸せになってほしいと心から願っていますよ。しかも、その想いで仕事をすると、人と接することが楽しくなってくるんですよ。

――特にどういうところが楽しいですか?

斉藤:知らないお客さん同士が僕を介して仲良くなるときですね。この前も音楽好きのお客さんとアニメ好きのお客さんがいたんですよ。初対面同士だったんですが、僕が紹介したことで意気投合していたんですよね。

好きなカルチャーは違えど、人ってどこかで繋がれる部分があると思うんですよね。そのきっかけをつくる役割を担えるのが、やりがいですし、めちゃくちゃ楽しいです。

――交流を生んでいるわけですね。そうなると、一人でも行きやすくなりそうです。

斉藤:そうですね。最近は外に達磨のオブジェを出すようになり、新規のお客さんも増えてきました。なので、これからもお客さん同士はつなげていきたいですし、どんどんと楽しい場所にしていきたいです。

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▲ギフのアイコンに使われている達磨のオブジェ

●最高の誕生日プレゼント

――意識の変化後、お客さんに愛が伝わってきたと思いますか?

斉藤:そうですね。店長に就任した当初は「今日、佐藤さんいないの?」と聞かれていましたが、最近ちらほらと「今日、アメコミいないの?」と聞かれるようになりましたね。

――結果が伴ってきましたね。

斉藤:はい。その評価は今年の僕の誕生日にも表れたと思います。

――どんな誕生日だったのですか?

斉藤:誕生日に営業って、いろんなお客さんがお祝いしにきてくれるんですよ。だから、佐藤さんには「1年近く店長をやってきたが、その成果を得られるのが誕生日だぞ!」って。

――すなわち1年の頑張りが数字に表れるわけですね。

斉藤:そうです。一朝一夕ではどうしようもないですし、良くも悪くも結果が目に見えてしまうのはプレッシャーで……。正直、全く自信がなく、1ヶ月前から悩んでいました。だから、売り上げ目標も弱気でした(笑)。

――結果はいかがでしたか?

斉藤:予想に反して、売り上げ目標の3倍を達成することができたんです。しかも、ギフ史上一番の売り上げで。みなさんから「アメコミと乾杯しにきたよ!」と言っていただき、本当に感謝の気持ちでした。当日は嬉しすぎて泣きましたもん(笑)

――良かったですね! 

斉藤:不安で一杯でしたが、信じて頑張ってきた成果だと思うと、喜びもひとしおです。この結果が最高の誕生日プレゼントになりました。

――佐藤さんからも何か言われましたか?

斉藤:「お前がやってきた結果だから誇っていい。すごい!」と褒めていただきましたね。続けてきて良かったです。

――佐藤さんも「任せて良かった」と思ったことでしょう。

斉藤:また、誕生日の成功体験が自信につながったことは間違いないです。というのも、これまでは、佐藤さんを真似ることも多かったのですが、誕生日を境に自分なりの営業もできるようになってきたと思うんです。お客さん曰く、顔つきも変わったそうです。

――人生の糧となる経験でしたね。

斉藤:そう思います。これまで音楽、アニメ、イベント、カメラなど好きなことを突き詰めてきましたが、全てが「+」で「=」がなかった。つまり、結果がついてこなかったんです。でも、ギフで初めて「=」が生まれたように思います。

●変わりたい人も大歓迎

――どんな人がフーテンに合っていると思いますか?

斉藤:1つは体力がある人。やはりバーは夜の仕事ですし、お酒を伴う商売です。そのため、体力は大事ですね。もちろん、体調管理も仕事のうち。自分が健康でいないと、お客さんに対しても愛を持って接することはできないですから。

――斎藤さんは体力に自信がありましたか?

斉藤:フーテンに入社する前は、タフだと思っていました。でも、スタッフである佐藤さん、松橋さん、小島さんに出会い、上には上がいることを思い知らされました(笑)。

――フーテンはタフ揃いですね。他にはありますか?

斉藤:もう1つはコミュニティを大事にする人。フーテンにはお客さんがつくった、たくさんのコミュニティがあります。僕もラーメン、サウナ、麻雀、スケボー……最近はバスケにも参加しています。そういったコミュニティに所属することを苦と思わない人はフィットするでしょうね。

――面倒ではないですか?

斉藤:全然、面倒とは思わないです。もちろん「自分の時間を充実させたい」という人もいるでしょう。だから、属することは強制ではありません。でも、属したほうが仕事も楽しいでしょうし、違った視点で自分の時間が充実すると思いますよ。

――人が好きな人は向いてそうですね。

斉藤:そうですね。人と親密になるのが得意な人は向いています。毎日いろんなお客さんと話しますし、プライベートでもよく遊びに行きますから。それを心から楽しめる人は天職ですよ。

――例えば、喋るのが苦手な人は難しいですか?

斉藤:コミュニケーション能力は自ずと身に付くでしょう。体験談として言いますが、空気の読めない発言をしてしまってもフォローしてくれますし、その対応力も磨かれますよ(笑)。

――料理の経験は必要ないですか?

斉藤:料理のスキルがあることに越したことはありません。ただ、フーテンでは料理を出した後、どれだけお客さんとコミュニケーションがとれるかが重要ですね。

――まさに、ただの飲食店ではないと。

斉藤:そうですね。ただの飲食店なら、僕も見た目を変化させたり、仕事に対する意識も変わらなかったでしょうから。だから、コミュニケーションが苦手の人でも「変わりたい」という意思があれば大歓迎です。

●今後の展望

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――斉藤さんの展望を教えてください。

斉藤:コロナウイルスが落ち着いたら、お店でイベントをやりたいです。知り合いのコスプレイヤーを呼んだり、近隣の飲食店とコラボしたり。常連さんにも新規の人にも喜んでいただける催しをしたいですね。

――きっと、斉藤さんもお客さんも楽しいことでしょう。

斉藤:その延長でいつかはハコを借りて、音楽イベントも開催したいです。もし、フーテンで定期的にイベントができたら、それこそフーテンのコミュニティがどんどんと広がっていく予感がします。

――そう思います。独立の未来も描いていますか?

斉藤:うっすらとは描いています。やはり、僕は音楽やアニメなどのカルチャーが好きなので、そういう人が集まれる場所をつくりたいです。今の理想としては、店内にDJブースを置き、夜な夜な音楽好きが集まれる場所を提供したいなって。

――参考になっているお店はありますか?

たくさんありますよ。例えば、浅草の「Rastaman's Cafe」、湯島の「CASTLE-RECORDS」などは理想とするお店です。お店の雰囲気はもちろん、店主さんのオーラというか、喋り方、空気の読み方、距離感、今の僕には全てがお手本なんですよ。

――行ってみたいと思います。ちなみに場所やリミットは考えていますか?

斉藤:決めていないです。ただ、佐藤さんが独立したのが34歳なんですよ。いま僕は29歳なので、5年後には答えを出していこうと思います。

――5年後が楽しみですね。

斉藤:独立をせずとも、ギフないしフーテンの新店舗には携わっていることでしょう。いずれにせよ「愛を持って接すること」。この初心は忘れずにやっていきたいと思います。その上で自分の好きなことも追求し、自分をずっと支えてくれたコミュニティを形成していきたいと思います。