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感動ヒストリーに顔埋めて呼吸してる私の激情と、いちごのパンツに顔埋めて呼吸してる君への軽蔑


『○○君って、小さいときにお父さんが家出てって、お母さんは男癖悪くて、新しい恋人ができる度に○○君ほったらかして遊び歩いてたんだって。』

○○君って誰?ああ、新入社員。

『新しいお父さんにDVされて○○君の手首にある赤い点々、あれ煙草の焼き跡らしいよ。』

へえ。壮絶な過去ってやつ。

『かわいそうだよねえ、だからあんな大人しくて虫も殺さないような顔になったのかね。』

色白で華奢な身体。
弱々しく悲しげな表情。
人見知りって顔に書いてある。

でもどこか懐かしさを感じる。
伝わってくる空気、匂い、温度。

そうだ、この人は、昔の私にそっくり。

私の過去とまるっきり同じ。
まだ話したこともない君に情を抱かずにはいられなかった。


-p.m.19:07--

繁華街
下品な人間
ピンクのお店に群がる雄
女の口説き方も知らないくせに快楽だけ求める豚共

『夜の男はね、そういう生き物なのよ』
誰かが言ってた気がする。
いや、私だっけ?

20時から私の顔は夜嬢に変わる。
男性快楽を処理する嬢に。

『△△ちゃんさ、苺ちゃんって知ってる?』

苺ちゃん?なにそれ? 

『20歳のセクシー女優だよ。トレードマークが苺のパンツなんだよ、人気だよ?』

セクシービデオはテクニックを磨く為に鑑賞する。女優の顔は覚えていない。

『これこれ、見てみ。』

無理やり動画を見せる客に少しの殺意を抱きながら画面に目をやった。

黒髪のツインテール、透明感のある太ももから覗かせるのは可愛らしい苺のパンツ。


そして、女優の隣にいるのは見覚えのある男優。
色白、虫も殺さないような顔、手首の焼き跡、
苺のパンツに顔埋めるこいつは


○○君だ。

🍓

聞かないほうがいい 
聞くべきではない
そう思いながらいつだって選んでしまうのは
天使の声より悪魔の声。


『○○君ってさ、』
顔をあげる君。

『いちごのパンツ好きだったりする?』

流れる沈黙。

なに言ってるんだ、この女
そう言ってくれ。
朝一でこんな質問を投げかける私を
頼むから軽蔑してくれ。


微笑む男優。
私の願いは綺麗に裏切られた。

『そうですよ。だってほら、ここにも苺が。』

シャツをめくって見せてきたのは
壮絶な過去。
煙草の焼き跡。
寂しい、苦しい、手首の点々。
赤い、赤い、苺の点々。

感動ヒストリーに
顔埋めて呼吸してる
私の激情と

いちごのパンツに
顔埋めて呼吸してる
君への軽蔑



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