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デキル人とデキタ人の二重構造が重要

[要旨]

シェル石油や日本コカ・コーラなどで要職をお務めになられた新将命さんによれば、新さんは、かつては、自分がデキルリーダーであると勘違いし、部下の反発を受けたことがあり、リーダーにはビジネススキルだけでなく、高い人間性も求められということを悟ったそうです。すなわち、リーダーはビジネススキルと人間性の両方を備える二重構造の人でなければならないということです。

[本文]

シェル石油(現、昭和シェル石油)、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップなどで要職とお務めになられた、新将命(あたらしまさみ)さん(2022年9月にご逝去)のご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を拝読しました。新さんは、同書で、リーダーにはスキルと人格が求められるということについて述べておられます。「人生の勘違いは、貴重な時間を大幅にロスするし、ビジネス上で勘違いをすると、時間とともに、ヒト・モノ・カネという大切な経営資源までロスさせることがある。

この勘違いは、さまざまな場面で起こる。特に、若いうちはなおさらだ。その大本にあるのは、小知を得たも過ぎないにもかかわらず、それですべてをわかった気になるという大きな勘違いである。生兵法は大けがのもとである。私自身も、若い頃には勘違いが多かった。30代の私はデキル人に憧れた。勉強ができる、スポーツができる、仕事ができる、英語ができる。そうい人が30代のころの理想であった。デキル人がリーダーになるものと思い込んでいた。

私なりに、理想の人に近づこうと、会社に入ってからも、終業後、夜にビジネス講座に通って勉強していた。余談だが、若い頃、会社の帰りに何らかのビジネススクールへ通っていたという経営者は意外に多い。しかし、実際にリーダーの立場になってみると、リーダーはデキルだけでは務まらないことを痛いほど知ることになる。よく、『デキル人よりデキタ人』という。デキル人というのは才人である。スキルの高い人、技能に長けた人で実績もある、『手に職のある』人でもある。

一方、デキタ人とは、『論語』でいう君子である。人間力の高い、徳の人である。デキルだけの才人リーダーでは、部下の信頼は得られない。部下が、『この人のためなら……』と、心を許してついて来ないからだ。といって、デキタ人というだけでも、部下は安心してついて行けない。安心してついて行くには、リーダーに部下を納得させるだけのスキル(才)が求められるからだ。自分はデキルリーダーと思い込んでいた若き日の私は、部下の反発を受けて、自分の勘違いを悟った。

リーダーはデキル人というだけでは不十分。デキタ人というのもリーダー失格。『デキルデキタ人』という二重構造の人でなければならない。デキタ人になるための教科書は、『論語』や『貞観政要』をはじめとしてあるにはあるが、最も効果的なのは、『人という教科書』である。幸い私は、生きた教科書といえる立派な先輩に恵まれた。その先輩の言動を真似ることで、少しずつ自分をデキタ人に近づけ、結果として部下の信頼を勝ち取るということができた」(16ページ)

新さんの、リーダーは、スキルも必要であり、人格も必要であるというご指摘は、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、そのようなことを、新さんが改めてご指摘しておられるというのは、新さんご自身も、「自分はデキルリーダーと思い込んでいた若き日の私は、部下の反発を受けて、自分の勘違いを悟った」ということをご経験しておられるように、スキルさえあればリーダーを務めることができると考えてしまう人が多いからだと思います。

では、リーダーやリーダーを目指す人が、どうすれば人格を高めることができるのかということについては、これは言語化が難しいことや、また、机上で学ぶだけでは身に付けることができないことなので、それぞれの方が実践しながら身に付けていくしかないでしょう。そして、それに取り組んだとしても、漠然としていたり、なかなか効果が得られないことでもあることから、優秀なリーダーになることが難しいという面もあるのだと思います。

ところで、唐突ですが、「経営学」という学問についてお尋ねします。読者のみなさんは、経営学は何を目的とする学問だとお考えでしょうか?多くの方は、いわゆる「お金儲け」をするための学問と考えているかもしれません。そう考えることは必ずしも間違ってはいないと思うのですが、私は、経営学は組織のパフォーマンスを高めるための学問だと考えています。

ただ、日本語では「経営」という言葉が使われているので、ビジネスに関わる学問だと思われてしまいがちですが、経営は英語ではマネジメントであり、マネジメントとは、必ずしもビジネスだけに限らず、あらゆる組織活動にあてはまる活動です。では、ここでなぜ経営学のことに言及したのかというと、前述したように、経営学は組織が対象であるからです。例えば、経営学は、組織を構成している人間についても研究の対象となっているということです。例えば、リーダーシップになどは、しばしば議論の的になります。このリーダーシップを発揮するには、いわゆるビジネススキルとは異なるスキルが求められます。

すなわち、「お金儲け」とは別の分野でのスキルです。これも前述したように、新さんは、かつては、ビジネススキルに大きな関心があったわけですが、後に、それだけは不十分であり、事業活動は組織的活動であるので、組織に関するスキルも求められるということに気づきました。したがって、上から目線で恐縮ですが、「経営」とは、お金儲けのことだけではなく、組織のパフォーマンスを高めることであるととらえていれば、ビジネススキルがあれば十分という誤解をする人が減るのではないかと、私は考えています。

2024/10/9 No.2856

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