医者は患者を毎日診察している
[要旨]
会社の課題については、財務諸表から読み取れるものもありますが、もっと深いところにある真の課題は、銀行職員や経営コンサルタントなどの第三者的、かつ、専門的な立場にいる人の方が、的確に指摘できることがあります。そこで、そのような専門家に意見をきいてみることは、自社の改善のために有用です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営共創基盤CEOの冨山和彦さんのご著書、「IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。冨山さんは、会社の課題については、財務諸表から読み取れるものもあるが、そういう課題は表面的なものであり、もっと深いところにある真の課題は、コンサルタントも直ちに把握することは難しいし、経営者自身も把握できていないこともあると述べておられます。
「経営者は、現場も知っているし、自社の数字も押さえているにもかかわらず、自分で的確な判断が下せないとしたら、それは経験量の差が原因である。人間の病気に例えると、1人の人間が癌になるのは、一生に1回か、多くても数回しかない。(中略)たとえ自分のことであっても、大きな病気にかかった経験はほとんどないから、どうしていいかわからない。
(一方)医者は、毎日、患者を診察しているので、経験量がまったく違う。圧倒的な回数を診てきているから、患者に対して的確な診断が下せるのだ。リアルな経営分析では、数字の背景を見るだけではなく、相手の言い分の背景も見なければいけない。経営者に、直接、ヒアリングしても、最初から『私は病気です』と言う人はいない。病気とわかっているなら、医者はいらないし、相手は経営のプロであり、自信もあれば、プライドもある。
(コンサルタントが)信頼を勝ち取るには、こちらの能力も、相当、高くないといけないし、こちらの能力がわからないうちは、いきなり、本音で話すわけがない。(中略)ただ、こちらとしても、相手がやたらと強がっているときは、そこに何か問題があって、経営者も悩んでいるというのはわかる。そこは問診の技術、コミュニケーションの技術だから、経験を積めば本音を聞き出す方法も身につくものだ」(60ページ)
銀行職員や経営コンサルタントは、融資相手の会社や顧問先の会社の個別の状況や、その会社の属する業界のことについては、その会社の社長が持つ知識と比較すれば、その情報量は圧倒的に少ないでしょう。しかし、冨山さんも述べておられる通り、会社の抱える課題や、それへの対処法については、一般の会社の社長と比較して、たくさんの事例を見る機会があります。
したがって、会社経営者の方は、銀行職員や経営コンサルタントに、自社の真の課題や、それへの対処法について、虚心坦懐な気持ちをもって見解をきいてみることは、ある程度の価値はあると思います。もちろん、銀行職員や経営コンサルタントの見解が、必ずしも正しくなかったり、また、能力が低くて、満足の行く回答でなかったりする場合もあると思います。しかし、自分自身のことは自分自身では見えないところもあるので、第三者の目線からの意見を聴こうとする姿勢は、決して、無駄にはならないでしょう。
一方で、銀行職員や経営コンサルタントも、冨山さんがご指摘しておられる通り、融資相手の会社や顧問先の会社の社長からの信頼がなければ、なかなか耳を傾けてもらえなかったり、説得力のある提言を行うことができなかったりします。したがって、銀行職員や経営コンサルタントに重要な資質は、経営者の方から信頼を得られるような人間性であるということも言及するまでもありません。
2022/9/21 No.2107