見出し画像

ケーリー・グラントのスター性~「赤ちゃん教育」「コンドル」「ヒズ・ガール・フライデー」

いまはハワード・ホークス集中期間で、初期作品から鑑賞中(配信されているものだけ)。
ハワード・ホークスというと、「赤い河」や「リオ・ブラボー」などの西部劇の印象が強かったのだが、初期はいわゆるスクリューボールコメディに注力していた。
そのコメディ劇で活躍し、スターの座に上っていった俳優の一人がケーリー・グラントだろう。今回は初期に彼が主演した三作を紹介したい。
まずは1938年公開「赤ちゃん教育」

赤ちゃん教育と言っても人間の赤ちゃんではなく、ドタバタの元となっている豹の赤ちゃんのこと。別に教育はしていないとは思うのだが、原題も”Bringing Up Baby”となっているので強ち間違いではないが。
もう一人の主演のキャサリン・ヘップバーンもとてもコメディエンヌぶりを発揮していて魅力的だ。二人の畳みかけるようなセリフの応酬は、今見ても違和感はないが、当時は文字通り目が回るような展開に感じたことだろう。
この作品でのケーリーは、終始右往左往して振り回されるばかり。でもその上品な物言いや佇まいのおかげで、作品全体の品を落とさないようにしているのが、主演たる器とも言うべきか。

次は翌1939年公開「コンドル」

前作とはうってかわって、かなりタフな男性像を演じている。自身を抑制しながら厳しい決断をする、寂しさを抱えた男性。今後の西部劇の男性像にもつながるキャラクターでもある。個人的には今回の三作の中では本作がベストだった。
もう一人の主演はジーン・アーサーだが、この時30代後半。魅力的ではあるのだが、脇役のリタ・ヘイワースと並ぶと少々分が悪いか。いや、演技はいいのだけれどね。

最後はさらにその翌年1940年公開「ヒズ・ガール・フライデー」

「赤ちゃん教育」ではスーザンに振り回されっぱなしの役だったケーリーだが、本作は彼自身がかなりエキセントリックなキャラクターを演じている。
それでも「赤ちゃん教育」と同じく下品にならず、観ようによっては”洒脱”でさえあるというのはスターの素質なのだろう。
物語はほぼ室内だけで展開される会話劇。これも「赤ちゃん教育」同様のスクリューボールコメディの名作として語られるが、ホークスのコメディはこうしてみると、会話劇と言いつつかなり身体性の強い傾向にあるようだ。それは時代のせいかもしれないけど、現代日本の感覚からするとコメディというよりコントに近いのではないか。

こうしてみてみるとケーリーは、都会的でタフではない面のアメリカ男性像をうまく体現してきているように感じる。それはホークス作品以降でも同様で、悪く言えばどれを見ても”ケーリー”的な役どころばかりになってしまってもいる。安定した品質は保たれているが、平面的でやや深みに欠けるキャラクター像。この時代のスターが求められていたものがそうだった、という点は否めないが、結果アカデミー賞とは無縁のキャリアとなってしまったのかもしれない。

それでも多くの映画ファンに愛され続けるケーリー。本当にスター然としているんだよなあ。

この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?