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スターティング・オーヴァー/ジョン・レノン (Just Like) Starting Over / John Lennon

高校へは地元のローカル線を使って通学していた。
自宅から駅までは歩いて5分、走れば3分という距離だった。
まあそういう駅近に住む高校生あるあるだけど、
ギリギリまで寝ているのでいつも駅までダッシュになる。
今では考えられないが、
駅前交差点を曲がって駅までの直線に入ると車掌さんは俺が乗るまで出発を待っていてくれたりした。

田舎だからね。

そんなこんなで俺は朝起きるのがとにかく苦手で、
自営の父親が仕事の合間に店から裏の自宅まで毎日俺を起こしに来た。

「おい、早く起きないと遅刻するぞ」

次の日も
「おい、早く起きないと遅刻するぞ」

次の次の日も
「おい、早く起きないと遅刻するぞ」

次の次の次の日も
「おい、早く起きないと遅刻するぞ」

次の次の次の次の日も
「おい、早く起きないと遅刻するぞ」

もう毎日こうなると慣れてしまってちょっとやそっとじゃ起きなくなっている。

ところがある日
「おい、早く起きないと遅刻するぞ。
ビートルズのポール・マッカートニーって人が逮捕されたぞ」

えええええええええええ?
俺は飛び起きた。

テレビのニュース。
来日公演のため日本に来たポールが大麻を所持していたので空港で逮捕されたと。

驚いたが早く学校へ行かないと遅刻する。
ニュースの内容もウヤムヤなまま学校へ急いだ。

そして月日は流れたが相変わらず毎日毎日父親の
「おい、早く起きないと遅刻するぞ」
は繰り返された。

ある日、またしても起きない俺に父親が言った。

「おい、早く起きないと遅刻するぞ。
ビートルズのジョン・レノンって人が亡くなったみたいだぞ」

俺は眠くてぼんやりした頭で
「またまたー、お父さんこの前のポール・マッカートニーの逮捕の時、
俺が飛び起きたから味をしめてまた適当なこと言って俺を起こそうとしてるな?」
騙されないぞと思いながらも
起きてテレビを見たらほんとにジョンが亡くなっていた。
しかもファンに銃で撃たれたという。

えええええええええええ?
どういうこと?

驚いたが早く学校へ行かないと遅刻する。
ニュースの内容もウヤムヤなまま学校へ急いだ。

ジョンは長いこと音楽活動を休んでいたので当時は気にもかけていなくて、ニューウェーブの時代に突入していた俺の印象としてはもう過去の人になりつつあった。
しかしダブルファンタジーのアルバムをリリースして、さあここから復活だ、という時にこの悲劇。

あれからもう43年。
自分はジョンが亡くなった40歳より20も歳を取ってしまった。
俺なんかが生きていていいのだろうか?
でもジョンはいつも歌ってくれる。
どんなに歳を取っても新しく何かを始めることができるんだ。
スターティング・オーヴァー。

毎年命日の12月8日(日本では9日だったそうだ。正確に覚えてはいない)には追悼のためケーキを買ってきてジョンの曲(ビートルズの曲含む)を流しながら食べることにしている。

そしてもう一つこの曲に関するエピソード。
35年も前になるが、俺は妻との新しい生活を迎えるにあたり、
結婚式の入場曲にこの「スターティング・オーヴァー」を選んだ。

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