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FC東京2022シーズンレビュー〜旅の記録 アルベルトーキョー成長の過程〜

2022年。FC東京は大きな転換期を迎えた。

スペイン人指揮官のアルベル・プッチ・オルトネダが新たに監督に就任。今までの堅守速攻というスタイルから、ボールを保持するスタイルへの進化を目指す決断をした。

アルベル監督がキーフレーズとしてあげていたのが"viatgem junts"全員で一緒に旅をしよう。FC東京のリーグ初制覇を向けた長く険しい旅が始まったのだ。

この記事ではシーズンレビューとして2022年のFC東京の旅の過程をまとめていきます。

移籍市場

まずはシーズン開始前。移籍市場から。

新加入、退団選手一覧

移籍の動きは上の図の通り。

若干穴となっていたGKにスウォビィク、渡邊剛が抜けたCBに木本、エンリケと足りないポジションにJリーグでの実績がある実力者を獲得。この辺りの補強はかなり適格だったかと。

逆に欧州挑戦を決断した渡邊、田川を除けば前シーズンで多くの試合に絡んだ選手の放出は少なめ。オマリと中村拓海くらい。この移籍の動きからも今季は新しいスタイルに適応できる選手を見極めるシーズンと位置付けているのがわかる。ただ、拓海さんは1年はアルベル監督の下で見たかった。

ということでここからはいよいよシーズン開幕後を振り返っていきます。

シーズン振り返り

~上々の船出~

2022シーズンは等々力での川崎フロンターレ戦で開幕。アルベルトーキョーの初陣はいきなりJリーグ王者のホームに乗り込むこととなる。スタメンはこちら。

第1節vs川崎フロンターレ ● 0-1

フォーメーションは4-3-3。コロナウイルスの影響で離脱者がいるが、渡邊のSB起用などアルベル色の見えるメンバー。また、高卒ルーキー松木がいきなり開幕スタメンとなった。

試合は王者川崎フロンターレ相手でも新スタイルである後方からのボール保持に取り組んでいくFC東京。しかし、序盤は川崎の外切りプレスに苦しめられる。特にスウォビィクからWG裏のSBへの中距離パスが繋がらず何度もピンチを招いたが、最後のところで何とか無失点で凌いだ。

試合中盤からは保持においてスウォビィクを使う機会を減らし、シンプルに前線のディエゴへとボールを蹴っていく。長いボールを使いつつ、サイドを中心に敵陣へと侵入。川崎のIHを動かしたことで空いたバイタルエリアからディエゴ、レアンドロ、松木が際どいシュートを放っていくが、チョンソンリョンの好セーブにあって得点を奪えない。押し気味に試合を進めるが、終盤にコーナーキックからL.ダミアンに得点を許し、黒星スタートとなった。

負けはしたものの、川崎相手に内容で上回り、アルベルトーキョーは今後に向けて期待が大きく膨らむ船出を飾った。

ただ、個人的にはこの試合はシーズン全体とは少し切り離して考えている。理由としては単純にコロナウイルスの影響でメンバーが揃わず、この後すぐに活動停止となったこと。加えて、IHの配置が右に松木、左に安部だったこと(この後の試合ではずっと松木は左だった)や、4-4-2の可変守備を採用していたこと(この守備に関しては最後のまとめで)など、この試合だけで見られた現象が多々ある。

この試合がダメダメならば修正したということだろうが、既に書いたように内容では上回っていた。なのでこの試合は成長曲線の全体像は見えたが、細かい部分を見るとよくわからない試合というのが自分の印象である。

~俺たちはFC東京だ!~

活動停止が明け、メンバーも揃って改めて旅は再開。

第3節vsセレッソ大阪 ◯ 1-0
第6節vs横浜Fマリノス ● 1-2

この頃から割とスタメンを固定して戦っていた印象。代わっていたのは右SBが渡邊か長友かってところくらい。特にCB、中盤、CFのセンターラインは完全に固定されていた。そんな中でWGのファーストチョイスとなっていたのがアダイウトンと紺野。どちらもサイドに張ってプレーするタイプの選手だ。

そしてFC東京は保持において、ロングボールを多めに使ってビルドアップをしていった。キック精度の高い森重、木本のCBから3トップに向けてロングボールを蹴る。そのこぼれ球を強度高く広範囲を動き回ることのできる松木、安部のIHやWGで拾っていくことでボールを前進させていく。

敵陣での保持においてはサイドからの攻撃が中心。アダイウトンと紺野というドリブル得意のWGがサイドに張って仕掛けながら、IHが相手のCB-SB間を狙う。また、SBのタスクはWGのサポートやCB-SB間を狙う動きなど、大外よりも内側でのものが多くなった。この内側でのタスクをどれだけこなせるか?という部分から渡邊のSB起用に繋がったと考えることもできる。

被保持では4-3-3で高い位置からのハイプレスの施行。WGがSBへのコースを消しながら外切りでCBへプレスをかけて、相手のビルドアップを中央へ誘導。その先でIHが高い強度を活かしてボールを奪っていく。

このようにシーズン序盤は保持、被保持ともに強度の高さを存分に活かした戦い方をしていたFC東京。改革当初からいきなり難度の高い後方からの繋ぎばかりにトライするのではなく、ロングボールを使いながら素早くボールを前進させる。被保持でもハイプレスで奪ったら縦に早く攻める。

健太東京からの持ち味である”強度”と”縦に早い攻撃”を押し出した試合展開。アルベルさんは「俺たちはFC東京なんだ」ということをベースとしてチーム作りに取り掛かっていった。

自分はバルセロナやマンチェスターシティっぽいサッカーが見れるかなぁ、、なんて当初から思っていた。俺の応援しているチームはFC東京なんだということを完全に忘れていた。ここの考えが浅い部分、サッカーを甘く見ていた部分は反省である。

再開初戦となったセレッソ大阪戦ではハイプレスで相手を圧倒。松木のボール奪取から紺野が今季チーム初ゴールをゲット。後半は逆にハイプレスを回避されたところからSBの背後を取られ、カバーに回った青木が2枚目のイエローカードを貰い退場。1人少なくなるものの、スウォビィクを中心に守り切り、今季初勝利を挙げた。

続いてホーム開幕となったサンフレッチェ広島戦は相手のマンツーマンプレスに苦戦。更にロングボールも広島の3バックに跳ね返され、主導権を握ることができない。シーズン序盤では最も厳しい試合展開となる。しかし、後半にセットプレーとこれまた奪ってからの速い攻めで2得点を挙げて2連勝。

第6節はアウェイでの横浜Fマリノス戦。昨季8-0で粉砕された相手だ。開始早々に先制点を許すが、その後すぐに高い位置でディエゴがボールを奪ったところから安部がまたまたカウンターで得点を挙げて同点に追いついた。後半は永井を投入して更に前線からの圧力を高めたFC東京。しかし、プレスを回避されたところから、前を向いた仲川を松木が倒して退場。そのまま、1-2で競り負け2敗目を喫した。

このように序盤の得点はカウンターからが多く、健太東京の遺産を上手く使いながら勝ち星を重ねた。川崎と横浜FMには競り負けたものの、6試合で4勝2敗。基礎を作りながら、開幕ダッシュを決めた。

~最初の壁~

スタートダッシュを決めたFC東京。しかし、当然相手チームも対策を取ってくるわけで。最初の壁にぶつかることとなる。

第2節vs名古屋グランパス △ 0-0

延期となっていた第2節の名古屋グランパス戦。率いるのはFC東京にリーグ優勝争いやルヴァン杯制覇など多くのものをもたらしてくれた長谷川健太だ。

その名古屋は5-3-2のシステム。2トップとIHでアンカーの青木を消しながらの内切りでCBにプレスをかけに来る。この内切りプレスでFC東京のビルドアップをサイドへと誘導。誘導先のSBのところへIHやWBがスライドしてくる。

この内切り外誘導のプレスによってSBのところでプレスが嵌り、FC東京のビルドアップは機能しなくなる。ロングボールを使っての前進もあるが、そればかりだと「なんのためのアルベル?」ってことになる。簡単に蹴るだけではなく、地上からの繋ぎにも徐々にトライしなければいけない。

この時期のFC東京はIHを高めに取らせて、あまり中央を使っての前進には取り組んでいなかった。その中央を使わないという部分をSBのところでプレスを嵌めるという形で対策される。結果的に約4年間、苦楽を共にした監督に最初の壁を突き付けられることとなった。

浦和、札幌、名古屋戦と3試合連続で0-0と勝ち切れないFC東京。そんな中で迎えた第10節のガンバ大阪戦。Jリーグ初の国立開催。

第10節vsガンバ大阪 ◯ 2-0

この試合ではアンカーの青木をCB間に降ろすサリーダを使ってのビルドアップを見せたFC東京。今までの試合でもアンカーが降りることはあったが、それは状況に応じてと言った感じで限定的。保持時の形として最初からサリーダを使ったのは初めてだった。

アンカーを降ろすことでG大阪の2トップに対して3対2の数的優位を形成。3バックの右となった木本がハーフスペースからディエゴやIHへ縦パスを刺したり、プレスがずれたことで前に出てきた相手の背後をロングボールで狙っていく。

また、青木が降りたことで空いたアンカーのエリアを左SBの小川が取ることも。これでG大阪の右SHを内側に引き付けて、エンリケ→アダイウトンへのパスコースを形成。パスを受けたアダイウトンがサイドで1対1を仕掛けていく。ここ数試合は鳴りを潜めていた効果的な前進を見せた。

そしてコーナーキックのこぼれ球をアダイウトンが叩き込み4試合ぶりに得点を奪う。後半には開幕戦以来の復帰となったレアンドロがドリブルで独走して追加点。新国立競技場初戦を4試合ぶりの勝利で飾った。

4月終了時点で5勝3分2敗で4位。国立での勝利で勢いに乗り、5月はアウェイのアビスパ福岡戦でスタート。

第11節vsアビスパ福岡 ● 1-5

森重、エンリケのCBに怪我人が相次いだことで小川がCBで起用。佳史扶が怪我から復帰。また3トップはディエゴ、アダイウトン、レアンドロのブラジルトリオが初共演となった。

FC東京はG大阪戦に引き続き青木をCB間に降ろすサリーダを使ってビルドアップを試みる。しかし、CBの小川が相手に正対できなかったり、佳史扶の立ち位置が高すぎてCBからのパスコースが開通していないなど、いつもと違う組み合わせの左サイドでの保持が機能しない。

また、CFのレアンドロがゼロトップ気味にアンカーポジション辺りまで降りてくるが、そもそも中央を使って前進しないため、レアンドロにボールが入らない。などなど様々な問題が生じた。

前半は松木のプロ初ゴールもあり、1点ビハインドで踏みとどまった。しかし、後半はフアンマ、ルキアン、山岸といった強度ゴリゴリのCFが小川、青木を狙い撃ち。ミスも重なり、結果的にここまで僅か5失点の自慢の堅守が崩壊し、1-5で大敗を喫した。

ここから鳥栖戦では終盤に直接FKを被弾して0-1。磐田戦では終盤にアダイウトンの得点で追いつくが、終了間際に勝ち越しを許して1-2。3連敗。柏戦はまたも終了間際にネットを揺らされるが、VARで取り消されて0-0。連敗こそはストップしたが、踏ん張り切れずに勝ち点を落とす試合が続いた。

~踏み出した一歩目~

第15節vs清水エスパルス ◯ 3-0

4試合勝ちなしで迎えた清水エスパルス戦。ここでアンカー東慶悟、WG渡邊凌磨と今後の軸となる起用がされた。

ここまでWGは基本的にサイドに開いた立ち位置を取ることが多かった。しかし、渡邊はIHと共に中央に立ち位置を取る。これで清水の2CHに対して中盤で数的優位を作り出し、CBから縦パスを引き出していく。これまでにあまりなかった中央からの前進を見せた。

そして先制点はサイドから。松木がSHのカルリーニョスを中央に引き付けたことで空いた大外のレーンから森重→小川のパスで前進。バイタルエリアでパスを受けた渡邊がミドルシュート。GKが弾いたボールを小川が押し込んだ。中央からの攻撃をちらつかせたことでサイドが空き、序列が下がり気味だった渡邊をきっかけに得点を奪った。

後半は強度面で完全に清水を上回り、高い位置でのボール奪取から再び小川が決めて追加点。更に安部も得点をあげて3-0。ここまで今季ベストのパフォーマンスで1か月ぶりの勝ち点3を獲得した。

第16節vs鹿島アントラーズ ◯ 3-1

続く16節は首位鹿島アントラーズとの一戦。

4-3-1-2のシステムでCBとアンカーに噛み合わせてくる鹿島に対してIHの松木が低めの位置で青木と横並びとなる。これでトップ下に対して2対1でマークを絞らせない。更にWGの渡邊が中央でポジションを取り、アンカー周辺でパスを引き出していく。前節に続き、中央も使った前進。

そして清水戦と同じように空いた大外から前進。バイタルエリアに斜めに刺しこみ、ディエゴが起点となって渡邊が初ゴールをゲット。あとはアダイウトンがひたすら無双して3-1。首位鹿島を下した。

2連勝で勢いに乗っていきたいFC東京だったが、代表WEEK明けは湘南にボコられ、鳥栖に0-5と大敗と波に乗り切ることができない。

声出し解禁となった第20節の札幌戦では保持率38%と相手にボールを持たせる戦い方を選択。自分たちの挑戦から一度目を背けて3-0と快勝。そういえば国立初開催のG大阪戦でもサリーダやったり、アルベルさんはなんか特別な試合では勝つために現実的な策を取っている。たまたまかもしれないが。

続く浦和戦では再び0-3で大敗。渡邊のWG起用で中央経由の前進が見られるようになったと言っても、クオリティはお世辞にも高くない。そのため、湘南のように強度高くプレスをかけられたり、鳥栖や浦和のようにかっちり人を捕まえられると、低い位置でロストしてしまう場面が目立った。

~夏の移籍~

ここで夏の移籍を軽く。

夏の移籍一覧

エンリケ離脱により足りなくなったCBに木村が復帰。松木、安部が完全に固定されていたIHに川崎から塚川を獲得。層の薄いところをしっかり補強できた。そしてCFにはフェリッピを期限付きで加入。ボックス内で勝負するCF。山下と近いタイプ。なのでこの補強は実質的に山下があまり戦力として考えらえれていないと言っている気がした。本人にはちょっとキツイものがある。

退団した選手では小川が海外へ挑戦。なんか苦戦しているようで。そして高萩、永井と長くFC東京を支えた選手との別れとなった。寂しさが大きいが改革とはこういうもの。そこに目を背けては一生強くなることはできない。

ということで新たに3人を旅の仲間として加えてシーズンは終盤へと突入する。

~レベルアップした姿~

第23節vsサンフレッチェ広島 ◯ 2-1
第27節vs柏レイソル ◯ 6-3
第32節vs湘南ベルマーレ ● 0-2

2週間の中断を挟んでアウェイのサンフレッチェ広島戦で再開。ここでアルベルトーキョーはレベルアップした姿を見せる。

広島の守備はマンツーマン志向。CFとシャドーの2枚か3枚でアンカーを消しつつCBへプレスにくる。この形でプレスをかけられるとSBに誘導されて、サイドで嵌るというのがFC東京のいつものやられ方だった。

しかし、この日のFC東京は違った。紺野と佳史扶がサイドに張り、三田と長友が中央へ絞ってポジションを取る。そしてサポートに降りて来るディエゴが縦パスを引き出し、三田、長友、東あたりが落としを受けるレイオフで中央から前進していく。WGとSBが絞ることで広島のマンツーマンをずらしつつ、中央を厚くしてディエゴのサポートに入る枚数を増やした。

また、ディエゴが降りて来ることで出来た裏のスペースにIHの松木と安部が入れ替わるように飛び出す。そこに前向きの落としを受けた三田などからパスが出て、ディフェンスラインの背後を取っていった。

中断前から更に進化した中央からの前進で効果的な攻撃を見せたFC東京。そこに背後に飛び出せるIHコンビの特徴も合わさり、効果的な攻撃を見せる。しかし、森島のスーパーミドルを被弾して1点ビハインドで前半を終える。

後半に入り、早い時間に三田と紺野に代えてアダイウトンとフェリッピを投入。ブラジル人3トップにすることでターゲットを増やし、前半よりもロングボールを使う形。より前に圧力をかけにきた広島をひっくり返していく。

そして自陣で奪ったところからのカウンターでアダイウトンが抜け出し、最後はディエゴのゴラッソ返しで同点。更にアディショナルタイムにはまたもカウンターでアダイウトンが独走。GKの頭上を越えるループシュートがゴールに吸い込まれ、劇的逆転勝利を飾った。

27節の柏レイソル戦では長友、塚川、紺野の右サイドが躍動する。SBの長友が絞ることで柏のIHを内側に止める。これで木本→紺野のパスコースを創出。紺野がキープ力を活かしてサイドでタメを作っている間に、塚川や松木がIHの背後に潜り込む。柏の5-3-2のブロックを動かしながら背後を取る崩しを見せた。

特に塚川は安部、松木に劣らない強度の高さに加えて川崎仕込みの技術の高さを見せつけ、新加入ながら抜群の存在感。明るいキャラクターも相まってFC東京サポーターの心をすぐにつかんだ。

前半は右サイドから相手を崩して敵陣まで侵入し、松木と佳史扶が得点をゲット。右で作って左で仕留めるという形で2得点を挙げた。

後半は2点ビハインドの柏が圧力を高めたことで殴り合い。点の取り合い。オープンな展開になったことで躍動したのがアダイウトンとフェリッピ。自陣で奪ったところから前がかりになった柏をアダイウトンがカウンターでぶっ壊していく。まさにアダ無双。フェリッピもシュート精度の高さを披露して初ゴールをゲット。今季最多の6ゴールを挙げた。

広島戦と柏戦ではアルベルトーキョーの自陣でのボール保持、レベルアップした中央経由とサイドを起点とした前進から得点を挙げた。それだけではなく相手が前に出て来たら奪ってからの速い攻め。健太東京の特徴も活かしてアダイウトンを筆頭にFW陣が躍動。

アルベルトーキョーと健太東京。2つの特徴を併せ持つ二刀流FC東京へと進化を遂げた。

そんな中でFC東京の課題が大きく浮き彫りとなったのが第32節の湘南ベルマーレ戦。湘南は3-5-2のシステム。2トップがCBに対してアンカーを消しながらCBから時間を奪い取るプレス。SBにはIHやWBがどんどんスライドしてプレスを嵌めに来る。FC東京がずっと苦手やられている内切り外誘導のプレス。

FC東京はCB間を広げたり、東のサリーダで2トップのプレスを外して保持の安定を図る。しかし、湘南は2トップのプレスが間に合わない時にはIHが3人目のプレス隊として登場。とにかくFC東京のビルドアップ隊に時間を与えない。この強度の高い時間を奪うプレスによって何もさせてもらえず。チャンスすら作り出すことができなかった。

このようにシーズン終盤のFC東京はこの戦い方なら攻略できるけど、このレベルでやられると何もできないというのが割とはっきりしていた。例えば柏戦や京都戦、鹿島戦のように相手のプレスがビルドアップ隊から時間を奪い取るものではなければ、しっかりと回避して自分たちのペースで試合を進めることができた。逆に横浜FM戦や上で書いた湘南戦のように時間を奪い取るプレスをかけてくる相手にはなすすべなくやられてしまう。

相手によって対応可、不可が大きく分かれる感じ。なので勝ったり負けたり。良い内容だったり完敗だったりジェットコースターのような時期となった。

~ずっと俺のターンにする男~

ACLの可能性も残してシーズン最終盤。1年目からACL争いだなんて誰が想像していたでしょうか?

第25節vsセレッソ大阪 ◯ 4-0

延期分の25節セレッソ大阪戦。残り3試合の中、ACL争い直接対決。

この試合でまず取り上げるトピックは佳史扶とアダイウトンの関係性。ここまではアダイウトンがサイドに張って佳史扶が内側を取ることが多かったが、この試合では立ち位置を入れ替えてきた。アダイウトンが内側に絞ってC大阪のSBを内側に止める。そして空いた大外のレーンを佳史扶が駆け上がり、そこへ森重からボールを配球。大外から壊す攻撃を見せた。

残り3試合の段階で関係を入れ替えてきたということは来季の準備に入ったと捉えることもできる。サイドの高い位置で攻撃に貢献できる佳史扶のよさを活かす形で。その分アダイウトンは苦手な内側でのプレーを強いられるわけだが。なので2023年は大外で暴れる佳史扶が見れるかもしれない。

もう1つのトピックはIHの立ち位置。IHが低めの位置まで下がってきてビルドアップに関わる場面がいつもより多かった。IHが降りることでSBをより高い位置まで押し上げる。これによりSBのところで嵌る問題が起きなかった。シーズン序盤は高い位置でプレーをしていたIHだが、徐々に低い位置でビルドアップに関わるようになっていった。

C大阪がFC東京が対応できない時間を奪うプレスをかけて来なかったことで敵陣まで侵入することができたFC東京。そんな中で攻撃ではなく守備で躍動したのが東慶悟だ。敵陣に押し込んだ展開でボールをロストしてもアンカーの東が広範囲をカバー。高いフィルター力を見せつけて即時奪回。C大阪のカウンターを許さない。東の貢献もあり、FC東京はずっと俺のターン状態。ボール保持の時間を増やしてC大阪を押し込み続ける。

前半は0-0で終えるが、後半は渡邊のハットトリックなどもあり4-0で快勝。個人的にこの試合が今季ベストゲームです。

37節で名古屋に敗れたことでACL圏獲得は消滅。そして最終節は川崎フロンターレ戦。川崎で始まり川崎で終わる1年目。

FC東京のボール保持に対して川崎はWGの外切りプレスで対応。これにFC東京はWG裏のSBまで届けることで回避を試みる。しかし、SBには川崎のIHが素早くスライド。まるでシーズン当初のFC東京を見ているような強度の高いプレスによって、結局SBのところで嵌ってしまい前進することができない。

この試合でもIHの松木と塚川が低い位置まで降りてきてビルドアップに関わろうとする。しかし、逆に下がりすぎたことでサイドで密集して狭くなり、保持の安定を図ることができなかった。

前半途中でチョンソンリョンが退場したことで1人多くなったFC東京。その後は川崎を押し込む展開となる。引いて守られると点が取れないことが多かったFC東京だったが、この試合ではアダイウトンが2得点。特に試合を通して狙っていたファーサイドへのクロスからの2点目は綺麗な得点だった。

しかし、3つのミスから3失点を喫して黒星。2022シーズン最終戦は悔いの残る試合となってしまった。

特に2失点目のミスで森重は批判を集めたが、あんなミスからの失点は今季ほとんどなかった。ほんとによくやってたと思います。

シーズン全体をまとめて

シーズン成績はこちら

リーグ戦成績

全体的に勝ち点が低めということもあるが、とにかく6位。改革1年目にしては出来すぎな成績だ。

この成績はアルベルさんのチームの土台作りの上手さの賜物だ。シーズン開始からボール保持に着手するのではなく、まずはFC東京の得意な戦い方を大きく取り入れて勝ち点を重ねる。そして練習の中でボール保持のスタイルを落とし込みつつ、それを徐々に試合の中でも取り入れていく。

このように取り組んできたおかげ「降格」の2文字が頭に浮かんでくることが一度もなかった。いくら結果には目を瞑ると言っても降格となると話は別になる訳で。そうすると勝ち点を取るために改革から離れなければならない試合を出て来る。この長い目で徐々に落とし込むスタイルは遠回りのようで近道だった。

保持面を全体的に見ると序盤は4-3-3の配置を崩さないシンプルな戦い方。中盤からは渡邊や三田、レアンドロなど中央でプレーするWGを起用。そして最終盤にはIHもSB裏に降りるなど低い位置でビルドアップに関わるようになる。

シーズンが進むにつれて全体が立ち位置を変えて動き回るようになっていることがわかる。徐々に試合の中の取り組みのレベルを上げていくことで勝ち点を重ねつつ、チームを成長させることに成功した。

ただ、やはり得点パターンは奪ってからの速い攻めによるものがほとんどで、保持で相手を押し込んでから崩すという形はあまりなかった。サイドで持っても、張る選手と内側を抜ける選手の2枚の関係になることが多い。ここに3枚目が絡むことで、相手の目線をずらしたりなどしてポケットを取りやすくなる。その3枚目がいない、いても使えない場面が目立った。特に紺野なんかは3枚目を使うのが苦手だった印象。

そのため、自陣でセットされた状態になると手詰まり感が強く、中央やサイドから強引に突っ込んだり、クロスを放り込むなどのような期待値の低い攻撃になってしまう。まあこの引いた相手を崩すというのはサッカーにおいて最も難しい局面といっても良いし、ここにはまたこれからキャンプでじっくり取り組んでいくところだろう。

選手の方に目を向けるとベテラン・外国人勢の働きが大きかった。これまでとは違う内側でのプレーに取り組み、ものにしようとしている長友佑都。アンカーにコンバートされて後半戦MVP級の活躍を見せた東慶悟。怪我を抱えながらチームのために体を張り続けたディエゴオリヴェイラ。

そしてなんといってもアダイウトン。チーム得点王でありながら、ベンチスタートが多かった。それでもシーズン通して素晴らしいパフォーマンスで点を取り続けた。普通だったら「一番ゴール決めてるんだから俺を使えよ!!」って不満を持って、退団になっても文句は言えない。それにもかかわらず2023年も一緒に戦ってくれるということで。本当に尊敬の念しかない。

個人的チームMVPは木本さん。加入1年目ながらシーズン全試合出場。ピッチにいなかった時間は僅か16分だけ。矢のような鋭い縦パス、相手の背後を取るフィード。しかもそれを乱発しない。必要のない縦パスは入れない。スピードのあるタイプではないが、相手にぶち抜かれる場面がほとんどなかった。攻守において抜群の存在感だった。

みなさんの個人的MVPは誰ですか?

来季に残した2つの課題

最後に来季(というかもはや今季だけど)に持ち越しとなった保持・被保持の課題をまとめていきます。

~SBのところで嵌る問題~

保持での課題はSBのところで相手のプレスが嵌ってしまうことだ。シーズン振り返りを全て読んでいただければわかるが、FC東京にはずっとこの問題が付きまとっていた。

FC東京の保持に対して、相手はCBにアンカーを消しながらの内切りでプレスをかけて来ることが多い。中央を消されたことでFC東京のビルドアップはサイドへと誘導される。そしてその誘導先のSBはサイドに開いている。

このサイドに開いている位置でSBが受けると、ここでプレスを受けて圧縮されてしまう。アンカーとIHは捕まり、縦のコースも消される。例えWGへのコースが空いていても、WGが背中から相手SBのプレスを受けることになる。

広島戦や柏戦などSBが中盤のように振る舞う試合がいくつかあったので、これに対する解決策は準備されているとは思う。ここをどう変えていくかが1つの注目点だ。

個人的にはSBを片方残しての後方3枚のビルドアップをやってほしいと思う。というのもFC東京のSB陣を見ると絞る役割と高い位置を取る役割をできる選手が左右ともにいるからだ。

まず右SBだと長友と中村。長友は今季通して内側でのプレーに取り組んでいた。対して中村は対人守備の強さを見ると被カウンター時のストッパーのように保持では後ろに残すのもありだと思う。カイルウォーカー的な。また、状況を見てサイドを駆け上がっていくこともできるだろう。

逆に左SBだとエンリケを使って後方3枚にする選択もできる。CBは層が厚いし。また、徳元も3バックの左をやったことがあるようなので問題ないだろう。右SBを後ろに残す場合には左SBが高い位置を取ることが多くなると思うので、その時には佳史扶がファーストチョイスになってくるはずだ。

今季を見た感じ明確に後方3枚にすることはなさそうな気もする。ただ、どちらにしても選択肢としては持っておいてほしいなと。相手に合わせて使い分けられるようになるとかなり強くなるのではないかと思う。

~外切りプレスいまいち問題~

被保持での課題は外切りプレスの質がいまいち高くないこと。FC東京は高い位置からプレスに行く時にはWGの外切りを採用することが多かった。

WGが相手CBに対してSBへのパスコースを切りながら外切りでプレス。中央へと誘導して、CHのところでIHが厳しく潰すという守備。シーズン序盤、特にC大阪戦なんかではこれが非常に機能して、IHの松木と安部がボールを奪いまくっていた。

しかし、シーズンが進むにつれて、このプレスの質が徐々に落ちてきた印象。WGがCBへ外切りで行っているのに、割と簡単にSBを使われる場面が増えてきた。というかもはや外切ってなくね?っていうシーンもちらほら。レビューを書くときにこの試合のプレスはどうなんだ、、?って迷うことが多かった。

WG裏のSBを使われた時にはCHをマークしていたIHがスライドして出て来るのがFC東京の基本の守り方。ただ、あまりにも簡単にSBを使われてしまうとIHの負荷が大きくなってくる。そして負荷が大きくなると、次はCHも抑えられなくなってくる。IHがSBの方に気を取られることでCHのマークが緩んでしまうためだ。こうなるともうプレスをかけても、どこで奪いたいのかが分からない状態。

こういう場面がシーズン後半ではよく見られた。WG裏を簡単に使われる。そうするとIHの意識がSBの方に向き始めて、パスが出る前にSBの方に寄ってしまう。そしてCHのマークが緩み、中央を使われる。みたいな。

試合を重ねたことによるコンディション的な問題もあるのかもしれないが、ここは修正する必要があると感じた部分。

また個人的な好みの話だけど、自分は4-3-3の外切りプレスよりも4-4-2に可変しての内切りプレスの方が良いと思う。ちょうどFC東京がよくやられていたような2トップでサイドへ誘導、SBのところでSHがプレスを嵌めて奪う形だ。

可変の仕方としてはWGを片方残す形か、IHを1枚押し上げる形。松木、安部、塚川、小泉とIHはみんな2CHでも問題なく守れると思うので、個人的にはIH押し出し型が良い(というか好き)と思う。ただ、アダイウトンやレアンドロをWGで使った試合ではWG残し型でも良いだろう。

そしてこの4-4-2可変をリーグ戦で唯一使ったのが開幕の川崎戦。この時は右WGのレアンドロが前残りとなって、松木が右SHになっていた。またこっちでやってほしいなあ、なんて思ってます。

おわりに

これでどこよりも遅い2022シーズンレビューは終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました!

2022シーズンは旅の準備の年。目的地を共有して順路を確かめる。持っていくものを決めて、足りないものは買い足す。このオフに主力はほぼ残留。そして仲川、小泉、徳元など良い補強もできた。更にルーキー勢も凄く魅力的だそうで。

そして2023シーズン。いよいよアルベルトーキョーの旅は出発の時を迎える。まだまだ大きな壁が立ちふさがるだろうが、それもまた旅の楽しみ。

シャーレを掲げるその時まで。自分は旅の記録をしていきたいと思います。


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