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偽りのプレゼント(恋模様2年1組#9)

出席番号7番 紀野カエデ


 私はずっと、言えないでいる。
 腕についた傷は、ミツキのせいではないということ。

 あの日、置き去りにされそうになった私は、ミツキの背中を追いかけた。ミツキは、うんざりした顔で私に「すぐ戻るから」と言った。それから、いくら待っても、ミツキは帰ってこなかった。私はその時、悟った。自分は、ミツキのお荷物だということを。

 私は駆け出した。ミツキがもう、二度と戻ってこないような気がしていた。どこを探しても、ミツキは見つからない。私は、呆然とした。

 そのまま川辺に立ち尽くしていると、ふと、水面に映る虹が見えた。手を伸ばせば触れることができるほど、それは近くに見え、私は、ミツキのことなど忘れて、ゆっくりと手を伸ばした。虹はとても綺麗だった。

 幼い頃、私はよく一人で留守番をした。クッキーとジュース、忙しい母は、いつもそれを机に置いた。いつも私は、ジュースをシンクに流すと、太陽の光にコップを照らし、反射して出来た光を見つめるのが好きだった。魔法がかかったようなキラキラとする輝きに、私の心は奪われていた。

 川辺に映る虹はあの時の光に似ている。手を伸ばし、掴みそうになったその瞬間、何かに躓き、私は、大きく尻餅をついた。同時に、腕に激痛が走る。落ちていた瓶の欠片で腕を切った私は、その場で動けずに泣き続けた。

 しばらくすると、大人たちが集まり、救急車がよばれ、私は病院に運ばれた。忙しくしている両親も、この日だけは二人そろって病院に駆けつけた。

 沢山の質問。頭の中は、真っ白だった。咄嗟についた嘘。「発作が出て、転んでしまった」と。

 ミツキは、青白い顔をして私を見つめている。何度も泣きながら謝るミツキに、私は本当のことが言えなくなっていた。

 あれから、ミツキはずっと私の隣にいる。私の横で、うん、うん、と優しい笑顔で頷いている。ずっとミツキといたい。その願いは、あの日から魔法にかかったように、現実になった。

 最近、虹を見ると、時々苦しくなることがある。あの時についた嘘が、ミツキを縛り付けている。私は、あの日から、何も知らない顔をして、笑い返すことしか出来ないでいた。

 一人にはなりたくない。ミツキは、孤独だった私への神様からのプレゼントなのだ。だから、今はまだ手放したくない。ごめんね、ミツキ。

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