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チャーリー・カウフマン スピーチ Part.8 映画脚本を書く必要性

ストーリーテリングは本質的に危険なものです。君が自分の人生で深く心に傷ついた出来事を考えてください。それを経験した時のように考えてください。そして、1年後に君がその出来事を誰かに伝える時、どうやって伝えるか考えてみてください。また、百回目にそれを伝える時の方法について考えてみてください。それは同じではありません。変わってくる部分があります。その1つは視点です。ほとんどの人は、視点が物語の中にあるのは良いことだと考えています。君たちはキャラクターアークを理解できるし、教訓を当てはめることもできます。俯瞰から見て、理解と文脈を持って視点を見分けることができます。問題は、視点が出来事を曲解するということです。それは意図をもって再構築され、事実とは似ても似てつかなくなっています。

ストーリーテリングで起こるもう1つのことは、時間が経つにつれて観客に応じて内容を調整することです。ストーリーのどの部分がうまくいっているのかがわかると、どの部分の話を膨らませるべきなのか、どの部分を切り捨てるべきなのかもわかります。そして、君はストーリーを作るのです。君たちの目標、物語を伝える君たちの目的は、人を楽しませることであり、共感を集めることです。これはディナーパーティーで語られる話にも当てはまりますし、映画で語られる話にも当てはまります。

ちょっと今、残りの時間で話しておきたいことを選ぼうと思いますが……もう講演はやめるべきですか?

観客:ノー!

チャーリー・カウフマン:それでは、関係するような部分があるから、それをこれから話しましょう。それで、先ほどの話に関連しますが、ストーリーがどんなものなのか、どんなことがそれに含まれるべきなのか、どんな形を取らなくてはならないのかといったことを誰かから教わってはいけません。実験として、自分のストーリーの作り方を変えて、つまらない話を書いてみてください。それでもきっと物語になっていると思いますが、今までとは違う物語になる可能性があります。私たちの脳は物語を作っています。息をするのと同じように私たちにとって不可欠なことです。そうでなければ私たちは物語を作れません。自分自身を解放しましょう。 ひいては、君の力で私たちのことも解放しましょう。指示の細かい課題を自分自身に与えると、作業に手をつけられなくなってしまうでしょう。物語に導かれる場所に向かいましょう。ホームレスについて書くとして、最終的に人間性を示したいのであれば、その作品は説明的でおそらく教訓的なものになるでしょう。

もし「自分の心の叫びを表現できる言葉がないが、心の中を漂って、何が起こるか確かめる」と君が言うなら、真実味のあるものができるでしょう。ですが、真実の既定概念を捨てなくてはなりません。その結果、君が百万ドルで売れる脚本を書けるわけでもなく、批評家がこぞって君の作品を気にいるというわけではありません。それが君の目標なら、それに向かって書いても構いません。そのプロセスで、君は自分自身を見失うかもしれませんが、それはそれでいいと思います。批評家たちが君に何か個性を与えてくれることでしょう(観客、笑)。

脚本で君たちは世界を作り出しているのです。あらゆることを考えてください。その世界を具現化したものとして、あらゆるキャラクターやあらゆる空間、あらゆる編集のつながり、経過していく時間すべてを考えるのです。フィルターを通してそういったことすべてを見るのです。そして、すべて一貫しているかどうか確認しましょう。絵画の場合であれば、あらゆる要素が構図全体の中の一部分です。実際の世界では分けられるものがないように、君の作り出す世界でも分けられるものは何もないべきなのです。

ちょっとメモしてきたものがあるんです。単に私の個人的なことなんですが、とてもね…… どうかな、君たちには分かってもらえると思います。でも、私は嫌なんです。だから、私が嫌いだということを君たちと共有します。「脚本のト書きにはその読み手に向けて冗談を書いてはならない」。私が言いたいことはわかってくれますよね。これをやってしまう人がいます。でも、君たちはやらないでください。君たちの仕事は雰囲気を作り出すことです。ムードを確立しようと一生懸命にやっています。物語を書く上で君たちがやろうとしていることは、大衆が君の映画の雰囲気や意図、印象を理解するのを手助けすることで、その結果、大衆に一体感が生まれ、映画を最後まで楽しめるのです。そのことに、君たちは自分の時間を捧げるべきで、媚びたりしてはダメなんです。大衆に媚びてはならないのです。

これから君たちに小話をしますが、どうしてこれを話すことにしたのか自分でもわかりません。ですが、私にとって興味深いものであり、映画的なことが内包されているかのように思うんです。私は自宅の近所をランニングしているんですが、ある日逆方向から走ってくる男とすれ違いました。その男は年配で、図体が大きく、本当に苦しそうにしていました。ハーハーと息を切らせていたんです。私は小高い丘を降りていて、彼は昇っていました。とは言っても、その勾配はたいしたものではありませんでした。彼はヘッドバンドを頭に付け、スウェットシャツを着ていたんです。

それで彼は私とすれ違い際に、「間違いなく、そっちはずっと下り坂だよ」と言いました。私はそのジョークが面白いから好きです。好きな理由はそれだけなく、彼から話しかけてきましたということもそうですし、あの言葉がちょっと気の利いたものだったからです。それで、私は彼を気に入り、クールな男だと思いました。それからは、彼は私の友達になりました。それから数週間後、私はまた彼とすれ違うことになったんです。私たちはお互いに反対の方角に進んで、遠くから彼が近づいてくるのが見えました。そして私は思ったんです。「あの時の男だ。これはいいぞ」と。そして、すれ違い際に彼は言いました。「間違いなく、そっちはずっと下り坂だよ」と。そして、私は「あっ、そうか。彼にはお決まりのジョークがあって、わからないんだ。私はそれほど特別な存在じゃない。彼はおそらくそのジョークを他の人にも言っているんだろう。恐らく、彼は私を覚えていない。彼は年配だ。多分いくつか……、でも大丈夫」。私は笑いました。ですが、今回のその笑いは少し不自然なものでした。私の頭の中では、いろんな考えが湧き上がり、私は気落ちしてしまいました。

後日、また彼とすれ違うと、その男は同じことを言いました。ただ今回は、彼が降っていって、私が昇っていたんです。だから、その言葉はもう筋が通らなくなっていましたし、全く何の意味もありませんでした。そこで、私はそのことでかなりの痛みを感じ始めたんです。というのも、彼のことできまりが悪くなったからです。そして、彼に何かが起きたんじゃないかと思いました。それからも同じことが何度もおきて、向こうは下り坂でした。同じことを7、8回聞いたと思います。だから、私は彼に近寄らないようにしました。彼が前方から向かってくるのを見ると、通りを渡りました。だってわかってもらえますよね……。もし通りを渡らなかったら、私はランニングにとても集中しているようには見えます。そして、彼が私を通り過ぎる時には、とにかく彼はあの言葉を言う。たとえ私と目を合わさなくても。

私がどうしてこの話を君たちにしているのかは、わかりません。ただ、時間の経過と共に変化していく気持ちが好きなんです。そして、変わったものは何もありません。変わったものは私の頭の中にすべてあり、私の性格が時間の経過とともに作り出されていくことに繋がっていきます。ここには表面的な物語はありませんし、それは1つの形をもってのみ語られます。絵画では語ることはできません。それが私が強調したいことなんです。どうやってそれをやればいいのかは、わかりません。言いたいことを言えるところにやっとたどり着けたと思いますが、映画をやりたい、脚本をやりたいなら、それが映画である理由を君たちは知らなくてはならないんです。もしそれが映画である必要がなければ、君たちはそれを作るべきではありません。

君たちのすることが取り組んでいるメディア特有であることがとても重要なんです。さらに、作品を作るためにそのメディアの特徴を利用することも重要です。もしそれがこの方法で取り組むべきなのか、取り組む必要があるのか、その理由を考えつかなければ、それはその方法で取り組む必要はありません。まずは、それが何なのか、自分はそれをやりたいのか、映画の形で語られる必要があるのか、そういったことを理解するべきです。

YouTubeのことは考えたりします。本当に考えています。このスピーチがYouTubeにあげられることになりますからね。世界中の人から馬鹿な奴だと言われるでしょう。人前に出て何でもしているのに、YouTubeを自分の争う相手と見なしているなんてとてもおかしなことです。それは、ネットに存在している心のない攻撃の一種なんです。

他にもたくさん話したいことがありますが、8時2分なので、ここでストップして、質疑応答に入りましょう。話せなかったことは補足的なものです。ありがとうございました。

Part.9に続く

スピーチ原文および映像の著作権はBAFTAに帰属し、BAFTAから許諾を受けて翻訳をしています。

スピーチ原文の全文

スピーチの映像

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