見出し画像

チャーリー・カウフマン スピーチ Part.11 最終回 質疑応答③

質問者2(聴衆から):自分の映画や、それを分類して1番まともな映画について話をされましたが、具体的に自分の映画の中で1番まともな作品はどれだと思いますか? また、その理由も聞かせてください。
 
CK:実際のところ、自分のどの映画も嫌いに思うことはありませんから、その質問にどう答えればいいかわかりません。ほとんどの作品では、その制作過程に深く関わってきましたので、私はどの作品にもとても愛着を持っていますし、責任のようなものも重く感じています。ですから、今まで取り組んできた映画すべてが好きです。1番愛着のない作品は1番手を抜いた作品と言えるでしょう……。「私は自分の映画が好きだ」と言うのは自惚れているように聞こえますが、自分の映画を嫌いに思ってはいません。
 
質問者3(聴衆から):あなたの話を聞いて、私の中にあった失望感がある程度解消されました。影響力のある立場にいる中でごくわずかな人だけが、疑いの余地なく、本当に誠実であり続けていて、あなたはその1人だと思います。そういう立場になると、あなたを執筆に至らせた疑問に何かしらの救いがあるのでしょうか?
 
CK:私を執筆に至らせた疑問ですか?
 
質問者3:長い間、あなたの頭の中で考えていた疑問です。脚本を書き上げ、賞賛を受けると、その疑問に対して何かしら救いはあるのでしょうか?
 
CK:いいえ、私の場合は、ありません。ですが、1つ言えることがあります。有名になったからといって、自分の問題は1つも解決されるわけではありません。私はそのことを知りませんでした。以前は解決していくものと思っていました。また、そうなることを想像していました。実務的なことでは解決できた問題もありました。例えば、無名な人に比べて映画が作りやすくなったりすることです。可能性は高くはありませんが、それなりの可能性で作れるようになりました。
 
私自身の個人的な問題ですが、私を私として存在させることに関して、問題はまだあります。その問題を知っておくのは良いことです。それが自分の身に起きて気づくことがなくても、自分の問題を知っておくことができるかどうかはわかりません。私は自信というものがありません。私はとても不安になる性格なのです。今までずっとそうでしたし、今もそうです。ひとつ教えましょう。10年前だったら、今夜私がやっていることは、どうあがいても無理だったことでしょう。ここで話したり、ここに座ったり、ステージに上がったりすることなんて絶対に無理だったはずです。ですから、私はその問題にずっと晒されてきたからこそ、今ではどうにかしてうまく対処できるようになったのだと思います。それは私にとって良いことだと思います。なぜなら、それは大きな問題だったからです。

最初の脚本の仕事をもらった時、私はライターたちの作業する部屋で話すことができませんでした。ホームコメディに取り組んでいたのに、話すことができなかったのです。話さないことにしようとしたのではありません。話すことができず、口を開けられなかったのです。言葉がひとつも出てきませんでした。それが6週間も続きました。私は解雇されるものと思っていましたし、そうされるべきだったのかもしれませんが、結局解雇されませんでした。ですが、私は6人のライターがいたあの部屋でとてもおびえていました。それが昔の私でした。
 
質問者4(聴衆から):あなたはこれまでの人生の中で、思想や作品に音楽から影響を受けているように見えるのですが、いかがでしょうか?
 
CK:そうでもない、と思います。子供の頃にはミュージカルをたくさん経験しました。その時には、歌のない1番大きな役を演じましたね。その理由は歌が下手だったからです。コーラスの中に入った時は、歌っている全員が歌声をチェックされて、私は「声を出さずに口だけ動かしなさい」と言われました。こんなことは一度なんかではありません。そういうことがあったので、私は歌うことについて意識し過ぎてしまい、今では歌うことなんてできません。確かに、過去にミュージカルをたくさん経験したので、そのことについてはいろいろと知っています。ですが、子供の頃はのめり込んでいたが故に、今となっては気まずい思いがあります。ですが、大きな役をやったことはありません。
 
質問者5(聴衆から):2つ質問があります。まず1つ目は、『マルコビッチの穴』はどんなアイディアの芽や発想をまとめ上げたことで、制作に至ったのかをぜひ聞きたいです。これが1つ目です。もう1つは、『マルコビッチの穴』がロサンゼルスの至る所で検討され、最終的に制作へと至る状況を見ていて、あなたはどう思っていましたか?
 
CK:そうですね、ただ単にあの脚本を書いただけなんです。当時、私はホームコメディの仕事から離れていて、仕事の依頼が増える時期が来るまでの合間に書いただけなんです。私の考えは、何か脚本を書いて、それを利用して脚本執筆の仕事を得ようというものでした。それが私のやったことです。誰かが他人の頭の中に入れるポータルを見つけるというアイディアがありました。また、誰かが同僚と浮気をしているという噂を聞きつけた人物についてのアイディアもありました。ですが、どちらのアイディアも私の頭の中で出口を見失っていたので、その2つを組み合わせたらどうなるのかを見てみることにしました。それで、あの脚本を書いただけなんです。

正直なところ、この作品は非常に好意的な反応を得ました。そのため、私は業界で少し知られるようになりました。その脚本を読んだ人たちは、それがどれほど面白いかを話してくれましたし、ミーティングに私を呼び出しては、誰にもその映画は作れないだろうと私に言ったものです。そういったミーティングが15回ほどありましたので、私はその言葉を信じるようになり、あの作品が実際に作られるとは思ってもいませんでした。私は「まあいいや、これで何か仕事のオファーがあるかもしれない」と思っていました。ところが、それからどういうわけかスパイク・ジョーンズにその脚本が渡ったのです。彼は当時映画を作れる立場にあり、その脚本が彼の作りたい映画だったのです。

それが現実になったとき……覚えていませんが、私たちはただ映画を作っていました。私は本当にそれがすごいことになるとは思ってもいませんでした。そのおかげで本当に私には様々な変化が起きましたが、私はそれを予想だにしていませんでした。スパイクもそれを予想していなかったと思います。ヴェネツィア国際映画祭でこの映画が初お披露目になったときのことを覚えています。私は招待されませんでしたが、スパイクとキャメロン・ディアスとキャサリン・キーナーは映画祭に行きました。それから…マルコビッチがそこにいたかどうかはわかりません。おそらく、キューザックは行ったと思います。

そして、私に電話がかかってきて、映画が一大事になっているという連絡を受けました。それから、映画について書かれた記事をいくつも見ました。あれはすごかったです。ドキドキしました。これで君の質問に答えたかどうかはわかりませんが、満足していないようですね。
  
DC:あともう1問だけ時間があります。では、壁沿いでマイクを持っている紳士の方、お願いします。
 
質問者6(聴衆から):数年前に「The Theater of the New Ear」(訳注:朗読劇のようなもので、チャーリー・カウフマンによる作・演出と、コーエン兄弟によるものの2部構成の舞台)を聞けたのは幸運でしたし、今晩、ご自身に数学的な才能がないことや、作劇について聞けたのも幸運でした。そこで、疑問に思うことがあるのですが、率先的に共有したい真実を伝えるために言葉を使う作家として、将来、小説や演劇、詩などの映画以外の形態で執筆することはあるのでしょうか? 作家として、真実を伝える言葉と繋がりがあると感じますか?
 
CK:私は自分が作家だとは思わないと先ほど言ったのは、真面目な気持ちです。それは自分自身にレッテルを付けたくないだけではなくて、誰かの執筆物を今後読んだ際に、「ちくしょう! どうすればこんなものが書けるんだ」と羨ましく思うことになるはずだからです。なので、どうでしょうか、私には物を書く才能があるとは実は思っていません。ですが、もちろん、これからも書き続けていきます。私は引用というのが好きで、ロバート・ベンチリーに次のような引用があります。「私は書く才能がないことに気づいた時には、あまりにも有名になっていたので、それを止めることができなかった」と。とにかく、私は舞台を書くことになるのは間違いありません。それが私のプランです。小説は書きたいのですが、どうすればいいかわかりません。私はそのことを考えてきました。本当にやりたいことなのですが、それをしようとすると、いつも怖くなってしまうのです。
 
DC:申し訳ありませんが、時間が来ました。皆さんに来場していただき感謝いたします。また、チャーリー・カウフマンに皆さんで盛大に感謝いたしましょう。
 
CK::ありがとうございます。ここに来て、よくわからないようなことを見ていただき、本当に感謝しています。心から感謝します。
 
DC:とても楽しかったです。
 
終わり

このスピーチは2011年9月30日に行われたものです。

スピーチ原文および映像の著作権はBAFTAに帰属し、BAFTAから許諾を受けて翻訳をしています。

スピーチ原文の全文

スピーチの映像

#映画 #チャーリーカウフマン #コンテンツ会議 #脚本 #スピーチ #マルコヴィッチの穴 #脳内ニューヨーク #エターナルサンシャイン #作家 #翻訳 #シナリオ #作劇 #Im_thinking_of_ending_things


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?