あずきちゃんこんにちは
毎夕30分ほどウォーキングしている。
ルートは特に決めていない。その時の気分で小学校の方に行ったり、寺の方に行ったり、川の方に行ったりしている。
以前、川の方を母と歩いていた時、柴犬を散歩させているおじさんとすれ違った。
「(犬の)名前、なんていうの?」
母がおじさんに尋ねると、「あずきっていうんよ。」と教えてくれた。
あとで、「あのおじさん、誰?」と母に聞いたら「知らない。」と言う。ええーっ?!てっきり知り合いだと思ってた!
そういえば誰かとすれ違う時、母は必ず「こんにちは。」と言う。その度、私は「さっきの人は誰?」と聞くのだが、何回かに一回は「知らない人。」
「でも挨拶した方が、自分も相手も気持ち良いでしょ。」
一人でウォーキングを開始した日。あずきちゃんによく似た柴犬(犬はだいたい同じ顔だ)とおじさんが、川沿いをこちらに向かってトコトコ歩いてくるのが見えた。
でもなんとなく、おじさんがしっくりこない。印象が少し違うのだ。
うーむ。挨拶するか、しないか、とても迷う。
もしも、前に会った『あずきちゃんとおじさん』のペアだったら、是非とも挨拶したい。
でも、もし他人(犬)の空似だったら?
変な人だと思われるのでは?
そんな問答を繰り返す間にも、柴犬とおじさんは容赦なく近づいてくる。ええーい!ここは母のモットーに従い、思い切って挨拶だ。
「こんにちはー!あずきちゃんですか!?」
(やばい!「こんにちは」だけで良かったのに、「あずきちゃんですか」まで付けてしまった!)
突然の質問に、おじさんは一瞬固まったが、すぐに笑顔になり、
「ははは。似てるやろ。でも、あずきちゃんちゃうで。これはロンっていうんや。この前、わしもあずきちゃんに会ったけど、よう似てたわ。あずきちゃんは女の子。ロンは男の子や。」
「そうですかあ!ロン君ですかあ!あははは。」
あずきちゃんじゃなかった!やっぱり別犬(別人)だった!
おじさん、ごめん!!
「それじゃ、あの、しっ、失礼しまーす!」
右手と右足が同時に出そうになりながら、私はその場を立ち去った。気まずさMAXだった。でも同じくらい爽快感もあった。
こんな風に、赤っ恥挨拶デビューを果たした私だが、今では、知らない人にも普通に挨拶出来るようになった。
畑の中から知らないおばさんがこちらを見ている。「こんにちはー」と言うと、「こんにちはー」と返してくれる。
ちょっとだけ良い気分になって歩いている。
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