すべては一行で
『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』という本を読みました。
著者は東京大学大学院教授・ソニーコンピューターサイエンス研究所副所長の暦本順一さん。スマホのピンチング、(画面の上を二本の指で広げたり狭めたりすること)に使われる『スマートスキン』を開発された方です。まあとにかく凄い人です。
その著書の中で面白いと思ったのが、『クレームは一行で』という記述だったんです。ここでいうクレームとは文句という意味ではなく、『研究対象』という意味で使われます。
モヤモヤとしてしてまとまりのないアイデアをクレームに落とし込む。その際クレームで重要なのは短く言い切れること。そしてそれが本当かどうか決着ができそうなことであると。
『DNAは二重螺旋構造をしている』
『口腔内の超音波映像を解析すれば喋っている内容がわかる』
どちらも何を主張しているのか具体的に言い切っている上に、それが本当かどうかの決着をつける方法も見えている。
逆を返せばそれができないクレームはよくないと書かれていました。
これを見てストーリーと同じだと思ったんですよ。
この『短く一行で』というのは、映画でいう『ログライン』と呼ばれるものです。
例えばあなたが友達と喫茶店に行き、この前見た映画の話をすることにします。ストーリーを熱を込めて語りますが、友達は要領を得ない顔をして首を傾げいてる。その角度もどんどん傾いていく。
最後まで言い終えたあと友達がこう尋ねます。
「長い、長い。どんな話か一行で言って」
ここで簡潔に答えられるかどうか。もしそれが可能な映画はログラインがしっかりしている証拠です。
ハリウッドでは億万長者を夢見る映画監督や脚本家からプロデューサーに、山のような脚本が送られてきますが、プロデューサーはこのログラインだけを見て、その脚本を読むかどうかを決めるそうです。
えっ、一行見たかどうかで判別するの? それはあまりにも無茶苦茶でしょ。読んだら面白い脚本もあるでしょ。
そう思われるかもしれませんが、やっぱり大ヒットしたものとか面白いものってログラインが明確じゃないとだめなんですよ。
映画ってやっぱり莫大な予算をかけて作るものなので、ターゲット層が大きい。特にハリウッドは相手が世界です。だから簡潔にわかりやすく説明できないストーリーって多くの人に刺さらないんです。
小説は映画に比べると市場規模(日本だと約百万人)が小さいのでそこまで意識しなくてもいい気がするんですが、映画・漫画はログラインが面白くないものは中身も得てして面白くないんです。
ログラインでプロデューサーの心を掴めない脚本が大勢の観客の心に響くわけがない。そう考えられているわけですね。
暦元さんの本の中でも書かれていたんですが、黒澤明監督は映画を作るときは企画を一行で説明することを心がけていたそうです。
『七人の侍』は、『百姓が侍を七人雇い、襲ってくる山賊と戦い勝利する』
『生きる』は、『あと六十五日で死ぬ男』
いやあわかりやすいし、もう一行見ただけで「その映画を見たい」と思わせられる。二作とも名作映画です。
漫画の大ヒット作のログラインを見てみます。
『ワンピース』ならば、『少年が仲間を集め、ワンピース(一つなぎの秘宝)を求めて冒険する』
『ナルト』だと、『落ちこぼれの少年が火影(忍者の頂点)を目指す』
『鬼滅の刃』だと、『少年が鬼になった妹を人間に戻すために鬼退治に出る』
やっぱり大ヒットしたものは一行で説明できる。クレーム(研究対象)と同じなんですよ。それと今気づきましたが、ジャンプ作品のヒットは全部、『少年が〇〇する』話なんですね。さすが少年ジャンプです。
ということは裏を返せば、ストーリーを作るときはまずログラインから作るべきなんです。
「あなたの作りたい話はなんなのか。一行で説明して」
これが自分でできないストーリーを、他の人が面白いと思うはずがないんです。
発明もストーリー作りも同じなんだなと改めて思わせてもらった一冊でした。
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