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映画を早送りで観る人たち

『映画を早送りで観る人たち』という新書を読みました。

最近の若者たち、いわゆるZ世代と呼ばれる人たちがなぜ映画や映像を早送りで観るのかについて取材・考察した一冊ですね。

なぜ早送りで観るのか? その大きな理由が、時間とお金ですね。とにかく今の若者は以前の世代よりも両方が足りないんです。

まずお金はわかりますよね。大学生の親からの仕送り額はこの三十年間で4分の1になっているそうです。

バブル期の大学生はスキーや海外旅行などを楽しんでいましたが、今の大学生にそんな金銭的余裕はありません。

その中で一番安い娯楽が映像です。YouTubeならば無料、NetflixやAmazonプライムも月に数百円から千円ほどで死ぬほど観ることができます。

それと時間。

今の大学生はとにかく忙しい。現代の大学は出席にとても厳しいそうです。仕送りも減っているのでバイトの時間も増やす必要があります。とにかくやるべきことが以前の大学生よりも多い。つまり時間がないんです。

あるものに費やす時間に対してどれほどの満足感を得られるか。それをタイムパフォーマンスと呼びます。略して『タイパ』です。

映画を二倍速で観れば、半分の時間で楽しめます。つまりダイパが高くなるわけです。

あとは現代のコンテンツ量が多すぎるという問題もあります。

例えば映画を観るという行為ならば、以前ならば映画館に行かなければ観れなかったわけです。映画館の数も少なく、シネコンのように複数の映画が上映されるわけではありません。つまり供給量が少なかったわけです。

ところが今はサブスクでネットで見れます。もう見ても見ても見終わらないほどの量があるんです。一本の映画をちんたら観ていたら時間がいくらあっても足りません。

コンテンツの供給量が増えればどうなるか? 作品の価値が下がるんです。

ダイヤモンドが高価なのは希少価値があるからです。もしダイヤが世界中に山ほどあれば、石ころぐらいの価値にしかなりません。

映画に以前のような希少価値はないんです。価値が下がれば、こちらの接し方も雑になります。そこで倍速で観ようという行動に至るというのもあるんじゃないでしょうか。ここは僕の推察ですが。

これで映画を観たことになるのか? 前の世代の人間ならばそう考えるのが当然ですが、現代の状況を考慮すれば、いたって自然な行為なんですよね。倍速で観ない方がどうかしていると言われてもおかしくないんです。

ラノベやなろう系の小説のタイトルが異常なほど長くなっている理由もこれで説明できます。もうタイトルだけで面白いかどうかを判断して、タイパを高くしたいんです。

作品を一行で説明することをログラインと呼び、noteでも何度かログラインの重要性を書いています。

ハリウッドのプロデューサーの元には脚本家達から山ほど脚本が送られてくるそうですが、全部読むかどうかを判断するのに、ログラインの面白さで決めるそうです。

たった一行のログラインが面白くなければ、脚本も面白いわけがない。そう判断され、脚本は目を通されることなくゴミ箱行きとなるわけです。プロデューサーもタイパを考えているわけです。

ラノベ・なろう系小説のタイトルは、もうログライン化しています。

だから今は普通の人がハリウッドのプロデューサーのように、一行で見るかどうかを決めるんです。何せ時間が足りないから。

その他にも説明過多の脚本、観たいのではなく知りたいという欲求、ラノベのチート系などの快楽主義的な楽しみ方など、現代の若者のエンタメ作品の受け取り方を解説しています。

現代の作り手はこういう方々に向けて作品を作っていかなければならないわけです。

大変な時代だなあと思いつつも、ここを面白がって作れるクリエイターが次の時代の勝者になれるんでしょうね。

興味のある方はぜひご一読を。

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浜口倫太郎 作家
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