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note連続小説『むかしむかしの宇宙人」第15話

前回までのあらすじ
時は昭和31年。家事に仕事に大忙しの水谷幸子は、宇宙人を自称する奇妙な青年・バシャリと同居することに。バシャリはすぐになじみ、家族の一員のようにふるまうのだが……

→前回の話(第14話)

→第1話

バシャリがこの家に居着いてから一週間が経った。

目立った変化といえば、わたしの生活が大幅に楽になったことだろう。今までわたしがやっていた家事を、バシャリがすべて引き受けてくれたのだ。

家事が趣味だ、と言っていたが、その言葉どおりバシャリの手際は見事なものだった。

「家事というのは、どんな惑星でも共通する規則性があるのですよ。その規則性を掴めば、どの星の家事も似たようなものです

バシャリは誇らしげに語った。

多忙な毎日から解放されたにもかかわらず、わたしは居心地の悪さを感じていた。

これまでの人生で暇がある時など一切なかった。子供のころから常に家の手伝いをしていたし、両親が共働きだったから、健吉の子守りもわたしの役割だった。

そしてお母さんが亡くなってからは、すべての家事をわたしが請け負ってきた。だから自分の時間があるこの状況は手もちぶさたで落ちつかない。

そこで数日前、わたしはこう申し出た。

「あの……家事をしてくれるのはありがたいんだけど、明日からはわたしがやることにするわ

「どうしてですか? 幸子は私の家事が気に入らないのですか

「そういうわけじゃないのよ。そういうわけじゃないんだけど……」

バシャリは怪訝な表情を浮かべていたが、やがて何か閃いたのか、にやりとわらった。

「わかりました。幸子も家事をやりたいんですね。

家事など面白くないと言っていましたが、あれは嘘なんですね」

見当違いもはなはだしい、とその間違いを正そうとしたが、バシャリはそれを制し、

「幸子、ご安心ください。たしかに幸子から家事の喜びをうばうことは忍びありません。

アナパシタリ星人は強欲だ、


という評判が銀河中で広がるのも不本意です。地球は辺境の星とはいえ、噂とは伝播するものですからね。

いいでしょう。私と幸子、家事を半分ずつにわけ合いましょう

と、勝手に結論を出した。誤解を解くのも面倒だったので、その条件で同意した。

いつものせわしない日常が戻ってきて、わたしは胸をなでおろした。

健吉を起こすと、二人で朝食ができるのを待った。ふと、茶だんすに載った封筒に目が留まる。

隅に、お父さんの会社の社名が入った判子が押されている。気がめいるのがわかったけれど、念のために中を確認した。

いつもと同じく数枚のお札が入っていた。

この封筒には、お父さんが家に入れる生活費が入っている。お父さんの収入からすると明らかに少ない。

だから、わたしの給料でほとんどの生活費をまかなっている。

どうしてもっとお金を入れてくれないの! 


その不満が、喉元までこみ上げる。でも、声に出すことはできなかった。

嫌な気持ちをふりはらい、朝食を口にした。

今朝はご飯、味噌汁、冷ややっこ、ほうれん草のごまびたし、切り干し大根だ。相変わらず見事な腕前だ、と舌をまいた。

日に日に料理の腕が上達している。

食事を終えるとわたしは皿洗いをはじめた。日曜日の今日は仕事が休みなので、いつもより時間に余裕がある。

廊下からバシャリと健吉の騒ぎ声が聞こえた。

「すごい。奇妙な髪形の少年が出現しましたよ!

バシャリの叫ぶ声があまりにうるさいので、手を拭きながら廊下を覗き込んだ。

「何を騒いでるの?」

「幸子、見てください。健吉が、髪形が二カ所鋭角な少年を見事に描き上げましたよ

バシャリが帳面を見せた。少年誌で連載している人気漫画のロボット少年が描かれている。

大きな瞳に、光沢のある一風変わった髪型、ジェットエンジンがついた足。特徴がよくとらえられていて、五歳児とは思えないほど見事な出来だ。

「よく描けてるわ。本当に健吉は絵が上手ね」

「……これが絵というものですか」

興味をひかれたのか、バシャリは目を凝らした。

「あなた、絵も知らないの?

「ええ、言葉も絵も自分の意思を伝えるための古い手段ですので、私の星ではとうの昔に消滅しました。

ですが地球人は絵を記号としてではなく、芸術としてとらえるそうですね。

たしかにそれも納得ですよ。この髪形が二カ所鋭角な少年には、人の心を高揚させる何かが秘められています」

いつもながらの妙な感想が述べられる。健吉はバシャリにねだられて次々と絵を描いた。

そのたびにバシャリは絶賛の言葉を浴びせ、最後に腕を組んだ。

「うーむ、健吉、今度一緒に街に出て、人々の似顔絵や、あられもない姿を描いて金銭を得ましょう

「そんな馬鹿なことに健吉を巻き込まないで」

わたしはぴしゃりと言った。

「そうですか……残念です。贈答品としては最適だと思ったのですが

バシャリはがっかりしたように言った。

この人の相手をすると本当に疲れる。呆れながら台所に戻ろうとしたところを、バシャリに呼び止められた。

「そうだ。幸子、行きたいところがあるのですが、連れて行ってもらえないでしょうか?」

→第16話に続く

作者から一言
父親の周一に対する幸子の不満がじょじょに明らかになってきました。周一は家に居つかず、お金も入れてくれないというわけです。
あと鉄腕アトムもこの頃に連載をしています。そしてバシャリが行きたいところが、多くの人の運命を変えていきます。

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