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#人生
琳琅 創刊号より「かんう」武村賢親
小羽千尋の視点1
吐き戻したものはいつもより黒かった。お昼に食べたおにぎりの海苔だろうか。渦を巻いて流れていく様子は鳩尾の気持ち悪さをそのまま目にしているようで不快だった。真っ黒な渦が透明に戻っていく。もとの沈黙を取り戻すまでじっと見つめていると、不意に、ふふふっ、と小さくせせら笑うような声が聞こえた。便座の蓋を閉めておでこをつけるように突っ伏すと、笑い声は少しずつ湿り気を帯びていき、やがては
琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親
鴇田重喜の視点1
いつの間にか隣に並んでいた小羽は二の腕を摩りながら白い息を吐いていた。預かっていたモッズコートを彼女の肩に羽織らせる。新宿駅西口地下広場はその無機質さも相まって地上よりも肌寒く感じた。通行人は目が回るほど多いが、僕らの撮影を気に留める人はいない。沢山の足音が広場の天井で反響し、鼓膜を包み込むように震わせて来る。右耳と左耳で聞こえる音の感触が違うため、この場所のような音の籠りや