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オトコのメガネ考「ティアドロップ」編

 この20年間、僕はメンズファッション誌を中心にライター業を営んでいるが他方、メガネに関する記事も沢山執筆し、特に多くの海外ブランド・デザイナーたちの取材を重ねた数少ない日本人ライターとしての自負はある。しかしながらそうして執筆した原稿は僕の個人的な想いを語るに不十分だったと言える。だからあえて肩書に「メガネライター」を冠することは控えていた。いよいよコロナ騒動が引き金となって、メガネについて熱く語る機会もどんどんなくなるだろうと思い、noteで自分の頭の中にある引き出しをいったん活字にして整理しようと思うに至った。

 であるからして、いささか偏った趣向ではあるがオススメのフレームデザインやブランド、そのこなし方を提案してみようと思う。題して「オトコのメガネ考」。

 


ティアドロップは好きですか?

 オトコのメガネ考、その第一弾は「ティアドロップ」。いきなり難易度の高いカタチを指名打者とする。なにしろ欧米では"超"がつくほど定番なのにドメスティックブランドだと、作っても全然売れないといわれるクセモノ。だが僕は数あるアイウェアの中で、もっともティドロップが好きだ。正確には"アヴィエイター"と呼ばれるこのデザインが、ファッションからのアプローチからではなく"ギア"として生まれた、質実剛健さがそうさせるからだ。 
 アヴィエイターとは飛行士を指す古くからある呼び名。今ではパイロットというのが一般的だが、アメリカ海軍では今も飛行士をアヴィエイターと呼ぶ。なぜなら彼らがパイロットと呼んでいるのは"水先案内人”を意味するためだ。ちなみに万年筆のパイロットもこの水先案内人を由来とする。

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My Sunglasses Hero.  映画「コブラ」のスタローンは本当にカッコよかった。この映画がキッカケで、海外に行く度にレイバン(ボシュロム時代)を買い足して、ティアドロップだけで15本は所有していた。ほとんどが売り払ってしまったが最後に1本だけ残っている。そいつをタイトル画像に使った。



昭和の功罪

 ティドロップ(ここでは便宜上、親しみやすさを鑑みて、こう表記しておく)は前述の通り、日本では掛けにくいフレームの筆頭にある。その元凶になっているのが某軍団の刑事ドラマだ。確かにカッコよかった。ヒロイックだった。しかしあまりにカッコよすぎて現実味がなかったことがハードルを高くし、我々一般人が掛けることを躊躇させてしまった。それを厭わず挑戦した御仁は、たちまちのうちに「やっちまったな〜」と後ろ指さされるか、正面切って「もしや大門ですか」となじられた。この思考回路は令和に入り、多少風化したように思えたが、ここへきて軍団解散のニュースが流れたことで再加熱することだろう。



ティアドロップ、ギアとしての歴史

 その毒性を知ってもなおティドロップは男のロマンをかきたてるアイテムに変わりはない。それは先に述べた通り"ギア"として生まれた出自にある。その代表として、いの一番に名前が挙がるのが「レイバン」。同ブランドの歴史をかいつまんで説明すると、その始まりはアメリカ陸軍航空隊のジョン、マクレイディ中尉の依頼を受けたボシュロム社が、眩しさを抑えつつ目標物を目視できるシェード(というかレンズ)を開発したことなら。その有効性が認められ、1930年に陸軍航空隊が採用したという。

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1941年採用のAN-6531。ANとは陸軍・海軍の共用を意味する。 引用:THE EYEWEAR BLOG


 このレンズに対するフレームは、当時の標準だった革、もしくは布製のヘルメットの視野に沿ったサイズ感、高高度を飛ぶ際に装着する酸素マスクに干渉しないシェイプが求められた。それによって生まれたのが涙滴型のフレーム&レンズシェイプだった。

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第二次世界大戦時の陸軍航空隊パイロット。革製のヘルメット(衝撃から頭部を保護するという概念がまだない)と、酸素マスクに干渉しないシェイプが求められ、ティアドロップの形状が誕生した。


 その後、航空機がレシプロからジェット推進に進化し、ベイルアウト(脱出)時にコクピットのシートごと射出されるシステムが開発されると、頭部を保護するハードシェルヘルメットが採用される。そのヘルメット形状に合わせた、やや小ぶりなフロントシェイプと、ヘルメットを着用したまま着脱ができるようバヨネットテンプル(いわゆるストレートテンプル)を装備したサングラス「HGU-4P」が1958年に採用。以降、このデザインが現在まで継承されることとなったのである。

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昭和の呪縛からの開放。そのメソッド

 これだけ質実剛健なヒストリーをもちながら、ティアドロップは敬遠される。その理由の根源と解決策を以下にまとめてみた。

1.顔のサイズに合っていない

 小顔、痩せ顔に対してフロントサイズが大きいものを選ぶと、チンピラ感が出て危険度が増してしまう。その逆に、顔幅が広いのに小さなフロントサイズを選ぶと、顔にめり込む感じと汗臭い印象を与える。

 解決策➡自分の顔の大きさを知り、適合するサイズを選ぶべし。


2.レンズカラーが濃すぎる

 芸能人でもないのに、目線が見えないほど濃い色のレンズは正体不明感が出る。その正体不明感がむしろティアドロップを掛けた、妙な男を浮き彫りにしてしまう。さらに室内でも掛けてしまうと不審人物確定。

 解決策➡室内でも掛けたままでいられるほどの薄色のレンズを選ぶ。目線が見えることで他者からの安心感を得る。ここ数年定着しているブルーやグリーン、イエローのカラーレンズでカスタムすべし。

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Johnny DeppはRandolph Engineeringが大のお気に入りで数本所有。そのひとつに薄色レンズを取り入れている。 画像引用:https://ellegirl.jp/article/johnny_depp_joins_instagram_20_0417/


3.アウトサイダーな髪型

 角刈り・パンチパーマ・スキンヘッド。これは御法度である。その他、俗にいうヤ〇キー系が好む髪型・髪色は、先に述べたラギッド感溢れる歴史を木っ端微塵に破壊し、悪人のイメージを周囲に植え付ける。

 解決策➡上記以外の髪型でどうぞ。自らの意思に関係なくスキンヘッドを余儀なくされている御仁は、ちょっとクタッとしたトラッカーキャップを着用のこと。その際に注意すべきはニューエラのベースボールを今どきのストリートっぽく被らないこと。



今選ぶべきティアドロップ5選

以上のメソッドを踏まえたら、いよいよティアドロップを手に入れてみよう。以下は僕自身が製作者にインタビューを行い、その実物を品定めしたモノだけをセレクトした。


RANDOLPH ENGINEERING

HGU-4P

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’80年代以降、アメリカ全軍および西側諸国軍のサプライヤーとなったランドルフ エンジニアリングが、実際に軍へ納入したもの。現在は民間へ市場を開いており、その初陣となった国際展示会でのインタビューで、創業者の曾孫で現CEOのヴァスケヴィチ氏は、僕の目の前でフレームを力いっぱい捻りあげた。それでもパーツが折れることがないんだぜ! と誇らしげに語っていたが、さらに噴霧状の塩水に3000時間も晒し続けるテストなども行っているという。MIL.SPEC(軍が定めた仕様書)を遵守するということの凄さを思い知らされた瞬間だった。 画像出典:http://www.american-classics.jp/


EFFECTOR

PATTON

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 今でこそ一般に浸透している「黒縁太枠のセルフレーム」を他に先んじて発表し、ストリートファッションブランドのデザイナーやクラブDJなど、クリエイティブな人々が目を付けたことで眼鏡業界に一石を投じたブランド。そのティアドロップは、スウェットバー(2つのレンズをつなぐブリッジ上に設けたプラスチック製のパーツ)を配した、往年のレイバン“アウトドアーズマン”を彷彿させるデザインだが、素材を現代のスタンダードであるチタンへ変換。このデザインで2種類のサイズがある(PATTON Ⅱ)のも嬉しい。


THIN GLASS

TAKA

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 世界でも珍しくなった、伝統的な光学着色ガラスレンズを今も生産する大阪眼鏡硝子というレンズ工場のブランド。現在は染色したプラスチック製レンズが主流だが、溶解したガラス原料と金属酸化物を混ぜて色を付ける昔ながらの手法を継承する。現在はプロのフォトグラファーが使用するカメラや、医療現場で使われる精密機器のレンズを主に生産している。代表の堤氏によると、その優れたレンズ性能を知ってもらうために、レンズ付きフレームとして立ち上げたという。ボシュロム時代のレイバンの名機、カリクローム・イエローレンズも同工場で生産を請け負っていたという逸話を残す。


8000

8M1

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 8000と書いて“オットミラ”と読む、ラグジュアリーブランド。ティアドロップの定型からは外れるが、デザインソースは8000メートル級の山と対峙する登山家のサングラス、というだけあってダブルブリッジの無骨な面構え。サテンフィニッシュと銘打った艶消しゴールドの変則丸型シェイプに、ゼロフラットカーブのミラーレンズというスペックは、プロダクトとしてかなりのインパクトを与えるが、レギュラーのティアドロップで場数を踏んでいったあかつきには、ぜひトライしてほしい。



JACQUES MARIE MAGE

GONZO COLLECTION "DUKE"

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 間違いなく、いま世界で最も注目されているブランドであり、世界のアイウェアトレンドに風穴を開けたと言える存在。“ジャック マリー マージュ”。フランス出身でL.A.在住のJerome Mage氏はフランス人としてのアイデンティティ、フランスから見たアメリカ文化、フランス人だから共鳴する日本の職人技術をプロダクトに落とし込む天才だ。その彼がゴンゾライターとして歴史に名を残す、Hunter S Thompsonへのオマージュとして、そのトレードマークのティアドロップを「作品」にした。元ネタはレイバンの名作シューターだが、思い切ったデフォルメが目を見張る。限定生産だけに、すでに売り切れてるかも? 余談だが、日本で初めてMage氏にインタビューをした眼鏡ジャーナリストは僕で、現時点で彼のアトリエまでお邪魔して取材した唯一の日本人ジャーナリストも僕、というプチ自慢だけは許してほしい!



ティアドロップを筆者はこう使う(オマケ)

 以上が仕込み・バーター・ステマ抜きで、僕がオススメしたいティアドロップ5選。一部はインターネットの通販で購入できるが、可能なら実店舗でフィッティング調整や度付きレンズやカラーレンズへのカスタムなどを依頼するのがベストだ。では最後に僕自身が愛用するティアドロップコレクション(オマケ)をどうぞ。


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gotti グッドデザイン賞を筆頭に、いくつものアワードを獲得する、スイスのイノベーティブなブランド。小ぶりなデザインと軽量なチタン、クリーンなデザインでアップデートした、コンテンポラリーなティアドロップを毎シーズン発表している。デザイナーのSven Gotti氏と「知的なティアドロップスタイル」談議で意気投合し、何本か所有している。実はまだこの1本にはレンズが入っておらず、スポーティーなカーブシェイプと軽量さから、フィジカルトレーニング用に適したレンズでカスタムしようかと思案中だ。


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THIN GLASS 小学6年生の夏に買ったおもちゃのサングラスも、中学2年で初の海外旅行(当時流行のサイパン)用に買ってもらった調光レンズのサングラスもこのカタチだった。セルフレームのティアドロップはだから今も好きだ。曇天・雨天・そして夜間の視界をクリアにするイエローレンズを特別にセットしてもらう。クリア素材の涼しさに加え、ガラスレンズが見せる澄み切った景色は雨の日の憂鬱を吹き飛ばしてくれる。


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ROYAL 知り合いの眼鏡店に眠っていた、’80年代の国産無名ブランドの売れ残りを格安入手。現在標準のチタンが普及する以前の素材“サンプラチナ”製で、地金の色が美しい。“縄手”と呼ばれるケーブルテンプルも恐らく手編みだろう。あえて大ぶりシェイプで’70年代のギークシックを表現しようと、サングラスではなく純粋な眼鏡として使っている。細いテンプルと縄手は、特にヘッドフォン着用での原稿執筆で耳周りに負荷が掛からないので重宝している。



まとめ

 いかがだっただろうか。初めてnoteらしい構成でまとめてみた、このぎこちなさはさておき。ティアドロップおよびダブルブリッジのフレームは、海外ブランド勢ばかりではあるが、この数年間で日本でも定着を始めている。もう一度言うが、ティアドロップはギアとしての骨太な歴史をもつ“アンファッション”アイテム。今年は映画「TOP GUN Maverick」に刺激されて、にわかティアドロッパーがわんさか湧いてくるに違いない。扱い方を間違えれば劇薬だが、手懐ければ間違いなく男を上げてくれる。今から実践すれば、アドバンテージはあなたにあることを決して忘れてはならないのである。



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