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慰霊の日の救出劇 海猿〜zip up KINJO〜

はじめまして。平良です。
やってみようと思いますコラム的なやつ。これからエッセイ、小説、日記、etc…ジャンルを問わず更新します。
今回は平良が経験した慰霊の日のお話です。
暇な方は是非一読を。


先日の6月23日の話。

沖縄ではこの日は慰霊の日という祝日になる。
慰霊の日では、仕事をしている人も、休日で沖縄そばを啜っている人も、甲子園の切符をかけて試合を行っている球児達も、パチンコで生計を立てている僕の友達も、全員がお昼の12時に黙祷をする。

僕は、試験を間近に控えていたため、勉強漬けの日々を過ごしていた。
夜型の生活になっている僕は、その日11時に起き、12時に黙祷して勉強するためスタバへ向かった。
「これから先、事件や事故が起きず、平和でありますように。」


僕はこのスタバに長い期間通っている。
店員のシフトが理解できるくらい通い続けている。
しかし、こんなに通い続けているのに、コーヒーにメッセージを書かれたことが一回もないのだ。スタバの良いところはメッセージを書いてくれるところくらいだろう!?(そんなことないスタバに謝れ)。
なんか悔しいので、僕はコーヒーにメッセージが描かれるまで通い続けようと決めている。
この日もその期待を胸にスタバに到着した。

スタバに着くと、奥の壁際のテーブル席を陣取った。一人で勉強するには十分すぎる広さである。いつもドリップコーヒーかソイラテを頼む僕はこの日、甘いものを欲していた。

この日は"ザ・スタバの店員"って感じの雰囲気を放った男性2人と、いつもの美人な女性店員が数名いた。
僕はほとんど毎日この店に通っているので、店員達もドリップコーヒーかソイラテのどちらかを構えているだろう。
あるいは毎日来るこのインキャが頼むコーヒーを予想して賭け事をしているかもしれない。
「おれはソイラテに1000円!」
みたいなことを耳につけてる無線機で話し合ってるに違いない。
こんなことを考えている僕は、お前らの期待を裏切ってやるぜ!と言わんばかりに、
「カフェモカで!!( ✌︎'ω')✌︎」
とかなりムカつく顔で注文した。
その顔はさながらボクシングの記者会見でチャンピオンに挑発する若気の至りボクサーだ。
それも1ラウンドKO負けするタイプの。

不意を突くことに成功した僕(勝手にそう思っている)は、カフェモカを受け取り席に着いた。
そこからは怒涛の4時間ぶっ続けのstudytimeだ。


スタバで勉強していると、カフェインのせいかトイレが近くなる。
この日は4時間勉強した時に尿意を催した。
恐らく最長記録である。
入り口付近にあるスライド式のドアを開け、トイレの中に入った。


そこで事件は発覚した。


家を出てからこのトイレに入るまでの間、僕のズボンのチャックは、ポテチのパーティー開けのようにガン開きだったのだ。
ユニクロで買ったプラネタリウム柄のおパンツが、「私はここだ!」と言わんばかりに堂々と顔を覗かせていた。トールサイズだ。

僕は膝から崩れ落ちた。
冷や汗をかきながら、今日のこれまでの行動を振り返った。
そして、ガッキーが結婚を発表した時のような、部屋着どスッピンの時にユニオンで好きな男の子に会ってしまった時のような、キャバクラで一杯500円と思ってバンバン出してたテキーラが会計の時に一杯2000円と気づいた時のような、野生のケムッソにマスターボールを使ってしまった時のような、遣る瀬無い気分が襲いかかってきた。


くそっ、トイレから出られない…


扉の外では、店員も、卒論に追われている大学生も、MacBookを開いて自分に酔っている雰囲気経営者もみんな僕を馬鹿にしているに違いない。

みんな僕を笑い物にしてるんだ!!

…僕は思った。ここでチャックを上げずにそのまま出ていくことで大爆笑が取れるのではないか。笑いは期待と裏切りが基本だ。
ここで堂々とトイレから出れば
「なにしに行ったんや!」
とツッコミをもらえるかもしれない。
スタバで大爆笑を取って、そのまま人気者に……

…いかん、頭がおかしくなっている。僕は冷静になり、チャックを上げてトイレの扉を開け、席まで歩いた。
笑っているカップルは僕がチャックを閉めてきたのを面白がっているのだろう。
高校生3人組は俺を盗撮してインスタのストーリーに書き込んでるだろうな。「チャック閉まっててワロタw」
そんなことを考えながら席に着いた。

奥ではいつも優しくて美人なスタバ店員がテーブルを拭き回っている。
それを見てると目が合い、ニコッと挨拶がわりの笑顔をくれた。

あいつも俺のことを馬鹿にしてるのか!?!?
くそ!!!一刻も早くこの場所を出なければ!

カフェモカを掴む手が震える。
氷が溶けたほぼ水のカフェモカを勢いよく飲んだ。
そのとき、店員がカップの側面に書いたライオンのニッコリマークに気づいた。

どれほど馬鹿にすれば気がすむんだ!?

こんな屈辱的な目標達成は初めてである。
こんなところ、二度と来るか!!
そう決意し席を立とうとしたその時、

「タイラくん?」

声がした右後ろを振り返ると、昨年職場でお世話になった上司の姿があった。
予想外の邪魔者だ。

「タイラくーん!久しぶりだね!」
「あ、金城さん、お久しぶりっす!」
「タイラくん勉強してるの?」
「そうっすね、追い込みかけてます。金城さん家はこの辺ですか?」

そんな当たり障りもない会話がつづく。
金城さんの顔を見上げ、どのタイミングで帰ろうか伺いながら苦笑いを続けている僕。

ふと視線を下にすると、再び事件が起こった。

下に向けた僕の視線の先には、海をイメージしたであろうおパンツが堂々と見えている。ベンティサイズだ。
まるで、「ど真ん中じゃ!」と言ってどっしりと構えるキャッチャーのようだった。


「沖縄では今何が起こっているんだ!!?」

僕の心の中で険しい表情をした、海猿の下川隊長がそう叫んだ。
「救助します!!」
仙崎大輔が迷うことなく言い放つ。

そう。金城さんをそのままにすることはできない。
助けられるのは僕しかいない。僕がやらなければ!
僕の中で新シーズン、海猿〜zip up KINJO〜が始まった。

救助にあたっての注意点は、相手を傷つけずさりげなく気づかせるということである。
金城さんの視線を下に向けるため、僕こと仙崎大輔はわざと手に持っている財布を下に落とした。

不発だった。財布をわざと落としてただ拾うという意味のない数秒間だった。

「人命救助は時間との戦いだ。一刻も早く救助しろ。」
「しかし、無理に行えば救助者の精神面がやられます!」
「構わん!!時間がない!」

下川隊長からの命令だ。
僕は、状況の深刻さを理解していない金城さんに向かってこう言い放った。

「き、き、金城さん、社会の窓がオープン・THE・ウィンドウしてます(//∇//)」

「???中居の窓??タイラくん、SMAP好きなの!?」




「隊長!!!救助拒否です!!!!」
「強制的にやるんだ!!責任は私が取る!任務を遂行しろ!」
「隊長!しかし!!」
「これは命令だ!!私情はすてろ!!!」

ここで深呼吸し周りを見渡すと、隣の席にいたカップルは帰っており、近くに人はいないことに気づいた。
覚悟を決めた仙崎大輔は、

「救助者確認!周囲安全よし!仙崎いきますっ!」

「金城さん、チャック!」

チャックがガン開きになっていたことにやっと気づいた金城さんの顔は、だんだんと赤くなっていった。
一瞬だけ伊沢環奈に見えたが、よく見るとちゃんとしたおじさんだった。
明らかに焦っている様子のおじさんは、照れ隠しなのかわからないが、

「かっこよかった?」

と尋ねてきた。

「わたしにはその質問の意味が全く分かりません。」

心の中で下川隊長のあの名言が飛び出た。

人命救助を終えた僕は席を立ち、おじさんに次があるのでと伝え一礼し、出口へ向かった。

スタバのUSENからはおしゃれな落ち着いた曲が流れていたが、僕とおじさんの頭の中では「シェネル」の『believe』が流れていた。
はなさなーーーい このーーーままーー♫…

僕はおじさんに後ろ姿をかっこよく見せるために、いつもよりゆっくり歩いていた。
最後に後ろを振り返ると、まるで夕日のように顔を赤めたおじさんが手を振っていた。
チャックは閉まっている。

僕は肩の荷が降り、涼しげな表情で笑みを浮かべ、「安全確認よし」と呟いた。
そして手を振り返し、外へ出た。


外へ出た僕は世界が平和になりますようにと願い、帰路に着くのだった。

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