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あぁメヒコよ 

真夏の日、たった一人で地上から徒歩でメキシコのティファナから入国をしようと列に並んでいた。
 
当時の彼はアメリカの現地日本企業に勤めていた日本人で、私は夏休みを利用し遊びに行っていたのだ。そして、その日は夕食をトルティーヤとケサディーヤが美味しいメキシコのお店に行こうと入国したのだった。
車ですんなりと入国。急にガタガタな道になり、隣国なのにこんなに経済力の差を感じてしまったのを憶えている。お目当てのお店に行って彼の自慢を少し聞き、サンディエゴに戻ることにした。
 
入国ゲートに車が渋滞し並んでいた。そして彼が言った。
 
「一人で歩いて入国してくれる??」
 
「えっなんで??」
 
彼はメキシコの就労ビザも持っていて、私と一緒にいると面倒だというよく分からない理由で車から降ろされてしまった。

 
アメリカへの入国のラインに並んだのはいいのだか、ものすごく進むのが遅かった。幸いサマータイムだったのでまだ明るかった。そして、そのラインに並んでいる人を相手に売り子のおじさんが近づいてきた。まさに陽気なドンタコスおじさんだ。
 
「Are you Japanese?」

「・・・・・」
 
「お み あ げ  お み あ げ」
 
と語尾にアクセントをつけて、メキシコ特有帽子“ソンブレロ“を売りつけにきた。
 
(うるさいなぁ、それどころじゃないんだよ!!)
 
目が合わないよう完全に無視していたが、意外にもしつこい。周りを見たら日本人は私一人だけのようだ。早く入国したい焦りの気持ちが強くなって、いらないオーラを全開に醸し出してた。
 
その彼はさっさと入国をし、サンディエゴ側の“jack in the box”の駐車場にいると電話をしてきた。

ティファナのborder付近

段々と日が落ちはじめ辺りが暗くなりかけてきた頃、入国審査の検問所のゲートにやっとたどり着いた。
ふとゲートに目をやると、メキシカン3人の男性が、それぞれの手首をひとつの縄で縛られて、目の前を一列に並んで歩いて行った。お縄にされたらしい。リアル“バベル“の一幕だ。
 
(ヒィエェェェ、、、、なになに、この人たちなにやったの??めっちゃやばいじゃん)
 
警備が厳しいのは分かっていたのだが、なにも悪いことはしていないのにビビってしまった。
 
すっかり日が落ち辺りは暗くなった。アジア人は見える範囲で私だけだ。再度周りを見てアメリカのパスポートを持っている人の近くに行き、そこのラインに並び始めた。そして私の番になり、質問に答えてすんなりと入国できた。
 外に出たら真っ暗だった。もう21時近くである。ボーダーの近くでこの時間は怖い。彼の待っている駐車場に速攻走っていき、車に乗った。
 
「遅いよ」
 
「・・・・・・」
 
真顔で怒っていた。

今思えば、少々モラハラ気味な彼であった。ラスベガスに行く途中に喧嘩になり、真夜中の移動に関わらず、コヨーテでも出てきそうな荒野で降ろされそうになったこともある。ドッキリかと思うほどだ。その時は私がひたすら謝り倒して事なきを得たが、もし降ろされていたとしたら、真っ暗の砂漠の中を彷徨い続け、暑さで倒れていただろう。事件でも巻き込まれていたかもしれないと考えたらゾッとする話である。
 
好きだからと自己暗示をかけ、少し洗脳されていたのだろうか。恋愛中というけれど一人恋愛中だったのかもしれない。そんな自分に酔っていたのだろうか。世間の適齢期の圧に負けそうになり、必死になっていたのだろう。
そんな男にその後フラれた。色々な気持ちが交錯し悔しかった。 

20代後半での恋愛が壊れると、体力と精神の回復は20代前半より遅く、少し時間を要した。そのくだらない魔法も解け、2年経った頃にはスッキリと存在すら忘れてしまった。

異国だろうが自国だろうが、自分の身も心も魂も守り救えるのは、自分しかないのである。
 
当時の私にハグしてやりたい。と、同時になぜその恋愛に向かってしまったんだと、突っ込んでしまう私もいる。
今となればただ笑える話だ。

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