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大忙しな4歳児

日本の保育園は遊びがベースになっている?

野本響子さんのvoicyの松井博さんとの対談の会で、「松井さんは、アメリカで保育園を立ち上げたときに、日本の保育園の良いところを取り入れた。それは、日本の保育園は遊びがベースになっていて、かつ一定の規律がある、というところだ」という話でした。


この話を聞いて、私は「え?そうなの?私が見てきた日本の保育園・幼稚園とは違うかも…」という印象でした。話を聞いていると、「アメリカでは幼児がやたらに忙しくしている家庭があるが、子ども自身が疲れ来ちゃってるんですよね、それではダメでしょう」という話でしたが、「あれ?…日本の幼児も忙しいです…」と思いました。

私は現在日本で保育士をしていて、保育園・幼稚園・学童保育・放課後等デイサービスで働いたことがあり、現在も園で働いていますが、松井さんと野本さんが話していた「遊びがベースの園」というのは、もしかして日本では減ってきているかもしれないというのが実感です。

こども園が増えて、元幼稚園は長時間開園し、元保育園は勉強時間が増加

認定こども園についてご存じない方はこちらをどうぞ。

簡単に説明すると、認定こども園とは、幼稚園と保育園の両方の良さを併せ持っている…という名目の元、教育・保育を一体的に行う施設のことを言います。2006年に開始された制度です。保護者の就労の有無に関わらず、子どもを長時間あずけられる施設ということです。

この制度の開始から10数年で、かつての保育園も幼稚園も次々こども園になっています。

これによってどうなったかというと、私のざっくりした体感ですが、元保育園では幼稚園のような勉強の時間が増え、元幼稚園は長時間開設され勉強の時間が増えた、つまりこども園の登場で、日本の幼児は、遊びの中で学ぶ時間が減り、その分勉強(習い事)の時間が増えた、という現象が起きていると思います。

今の日本の3歳は忙しい

そのような背景もあってか、最近の幼児は忙しいのです。
3歳から習い事をいくつも掛け持ちしています。
月曜・学習塾、火曜・サッカー、水曜・英語、木曜・ピアノ、金曜・スイミングなんてことは珍しいことではありません。

これは親の送迎もさぞかし大変だろう…と思うと、そうならなくて良い仕組みができています。幼稚園や保育園に先生を呼んで、出張教室を開いてもらうのです。すると、親が仕事をしているうちに、子どもは園だけでなく、その後のアフタースクールまで済ませているという訳です。親の迎えは園に来るだけで良いのです。なんて便利

小学生も忙しい

これが小学校に行くと、どうなるか。

私立の小学校だと幼稚園型と同様の仕組みが継続されるところもまた珍しくないです。子どもたちは、学校が終わった後、学校内に併設された学童に移動し、各自決められた校内で行われる出張習い事へ粛々と移動する日々が営まれます。さらに気の利いた学校はスクールバスがあり、家まで送迎付きなので、親はもう迎えにすら来なくてよいのです。なんて素敵なシステム

公立の学校はそうはいかないでしょうか。公立の学童は、外部の講師を日替わりで学童に呼び出張教室を行う、ということまではできません。しかし、ご安心を。学童までスイミングのバスが迎えに来たり、近所の公文の先生が子どもを学童に迎えに来たりするのはよくある話です。さらに言えば、同じ習い事に高学年の子がいれば、低学年の子を連れて子どもだけで習い事へ移動したりもできます(もちろん、親の承諾があればの話)。

私が住んでいる地域では、学童は19時くらいまでのところが多いのですが、学童だけだと迎えが間に合わないので、迎えの時間を遅らせるために学童の後に習い事をさせる、という話もよく聞く話です。

そうなると、子どもはいったい何時に寝ているのだろうか?家で親とどのくらい会話する時間があるのだろうか?と、私は子ども関係の仕事をしてから常に疑問を持っています。

保育園にはお便り帳のようなものがあるので、子どもの大体の就寝時間を把握できますが、そこには2歳でも就寝時間が22時23時という数字が並んでいる家庭も多かったです。21時台なら早い方です。そういう家庭は、朝登園しても子どもは機嫌が悪かったり、さんざん泣いた後寝てしまい、午前中を布団の中で過ごしたりしていました。完全に昼夜逆転です。

長い人生の始まりにいきなり昼夜逆転のスタート。そして、園でも学童でも朝は寝不足でぼんやり不機嫌に過ごし、夕方力尽きて寝てしまう子が続出しているのが現状です。

放課後等デイサービスはどうか

放デイも今は掛け持ちで行く時代です。一か所の放デイにだけ通う子の方が少ないのではないでしょうか。親の方針によって、2,3か所の特色の違う放デイや学童に並行して通っている子が多いです。

なぜ忙しい保護者にそれが可能かと言えば、放デイ側が学校まで迎えに行き、帰りは家まで送るサービスをしているところがたくさんあるからでしょう。

子育て支援(と言う名の保護者サービス)が行き届くにつれ、親子の時間が減る矛盾

少し前ならば「子どもに習い事をさせたい、でも送迎ができない 全部は無理だから1つか2つに絞ろう」という状況だったのが、今は「園で降園後に習い事をしてくれるから、そこで日替わりでたくさん習い事ができる!」「学童にも迎えのバスが来てくれて、帰りに家まで送ってくれる。毎日習い事ができる!」という状況になっているのです。

親子で過ごす時間は、意識的に作らないとどんどん減っていくのでしょうね。

子育て支援で保育料が無料になっても教育資金が足りない日本の保護者

日本では、2019年から幼児教育・保育の無償化が実施され、原則3歳から5歳までの子どもの保育料が無料になりました。これでかなり子育てにゆとりができただろうと思いきや、実際のところは、保育料にかからなくなった資金はこうした習い事などへの教育費に注がれているのだろうと思います。

保護者の手を煩わせないようなサービスはあれこれ充実しているけれど、どれもこれもやるにはお金がかかります。だからもっと働かなきゃ!となるのも自然現象なのでしょう。

マーケティングの国、日本

こうなるのは保護者の責任ではなくて、日本のマーケティングが発達していることが原因ではないかと野本さんのvoicyやnoteで語られていましたが、私もそうだなと思いました。絶妙なタイミングで「お子さんに〇〇させましょう」とどこからともなく情報が入ってきて、さらに「みんなと同じ」を重要視する文化を持つ日本人は、「うちもやらなきゃ!」精神になるのは当然なのでしょう。

ママは「最後までやりなさい」って言うに決まってる

これは、ある園でのエピソードです。
Aちゃん(年中・4才・女児)。利発。外で遊ぶより室内で遊ぶ方が好き。自分の意見を物おじせずはっきり言う。

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