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これはシンエヴァンゲリオンの感想文ではない

私がエヴァと出会ったのは、というか厳密には出会ってはいないのだが、高校1年の時。教室の一番後ろで私の一つ前の席の彼は、明らかに元気がなくなっていった。私には当時明るくて人気者の彼氏がいて、それなりに楽しく過ごしていたし、席が近いだけの彼とは色めいたやりとりは特になく、主に数学の話なんかをするだけで、ただ席が近いので親しくしていただけだった。

彼とは、そんなに頻繁に話すわけではなかったが、私と話すとき楽しそうにしていたし笑顔が多い印象だったのに、なんとなく殻に閉じこもるようになって自分は何かしてしまっただろうかという少しの不安と、恐らく原因は私にはないだろうが一体彼に何があったのかという興味で「最近なんか暗くない?」と聞いた。

「エヴァンゲリオンを見たから。」

それが答えだった。有名なアニメであることくらいは知っていたが、ただのアニメでそんなに変わってしまうものか?と驚いた。

彼は勉強も運動もできた十分優等生の部類に入る。ちょっと変わっていたので誰からも好かれているという感じでもなかったが、それなりに充実した学生生活を送っていたはずなのに何がそんなに不満なんだと思った。しかし青春を明るくキラキラ過ごす連中とは違う、なんとなく憂いをおびた雰囲気から私は彼に興味を持ったのかもしれない。

エヴァンゲリオンというアニメが気になって仕方ない一方で、私がそれを見て同じように暗い気持ちになる必要はないだろうとか、一緒になってアニメの話で盛り上がるオタク仲間のような関係性を望んでいない(では一体どんな関係になりたかったのかわからないが、とにかく数学の話なんかができれば十分だと思った)となぜか頑なにエヴァンゲリオンに触れないようにして過ごした。

前よりちょっと暗くなった彼が入院したのはそんなやりとりの少し後だったと思う。特に命にかかわるような問題ではなかったが、しばらく登校はできない。ただでさえアニメ如きでメンタルやられる彼がよくわからない病気になり、しかも入院中誰も見舞いに来なかったらさぞかし悲しむだろうと思って2、3日に一度は顔を出した。自宅から彼のいる病院までは近くて大した労力でもなかったし、私自身世話焼きの長女気質で、親切な友人を演じる自分に酔っていただけだと思う。ただ、病室での彼は前みたいに楽しそうに時折笑顔を見せて話していたのでもう大丈夫なんだなと思った。少し残念なのは、憂いが減って私を特に惹きつける要素がなくなってしまった。

しばらくして病気は良くなって彼は学校にもまた通えるようになった。たしかもう私とは大して近い席でもなくて、わざわざ話しかけに行ってするほどの話もない。そのままクラスメイトの一人として高校時代を過ごした。


大学に進学してから、初対面で数学の話をずいぶん楽しそうにしてくる男子がいた。変わっているけどきっと勉強ができる、あの彼と少し重なって親しくなった。ただ、また勝手に期待してがっかりするのは本望でない私は嫌われない程度にしばらく友人関係を保っていた。



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あれから10年以上たって、どうもエヴァンゲリオンの完結編が公開されるらしいと知り、ふと当時のことを思い出した。ただ、やはり見た後にモヤモヤ作品はどうも苦手で、王道の大団円が待っている作品が好みな私は手を出すか迷っていた。

たぶんエヴァを見て、がっかりしたくなかった。彼がのめりこんだ作品に勝手に期待していて、知らなければ裏切られることもない。

社会人となり、母になった私はしばらく集中して小説や映画などの作品と向き合う時間を作っていなかったが、子供たちも少しは大きくなって夫は家事の面でも育児の面でもかなり頼もしいこともあり、少し余裕が出てきたように思う。鬼滅の刃の映画が大ヒットしてアマプラでアニメ版が見れるということで少し見始めたらすっかりハマってしまった。劇場版も観に行ったし、漫画も全巻買いそろえて熟読し、更には二次創作を漁るほどの熱。”推し”もできて同じ声優さんの作品が見てみたいというちょっとした興味もあってあらためてエヴァが気になり始めた。

シンエヴァンゲリオンが公開されてから多少ネタバレが入っているような感想を読んで、これはどうも大団円らしいぞという印象を持った。おそらくこれは見てもがっかりはしない気がすると。決め手はこのパンケーキツイート。私もみんなが期待したパンケーキが食べてみたい。おかげでエヴァ見るぞと決意した。


意を決して、とりあえず新劇場版「序」から見始めた。物語の複雑な背景の設定にはついていけないが、画が綺麗で面白く、音楽も良い。私はこのところ二次創作ばかり見ており言ってみれば手作りおにぎりや卵焼きなんかをいただいていたところに、急に星付きの料亭の懐石料理かフレンチのフルコースを食したような感覚だった。(二次創作の良さももちろんあるので、どちらがいいとか比較するものではない。) 多くのプロが関わって時間をかけて作った作品はやはり素晴らしかった。初めて見る作品なのにどこか懐かしく感じられる。少し見ただけですっかり魅了されてしまった。

シンゴジラを観たときにも感じたが、カメラワークというかアングルが個性的で面白い。カメラワークやアングルに関していうと、私は幼少期に数えきれないほど見た「トムとジェリー」がとても良い。猫とネズミの話なので普通に人間が暮らしているとそんな動き、視線にはならないだろうというシーンの連続。さらに(当然だが)実写ではなくアニメでしかできない自由な動き、表現で本当に面白い。ストーリーも良いものが多いので見てみてほしい。下のツイートで紹介されているものは私もどれも好きなものばかりだ。

ディズニーアニメの美女と野獣の有名なダンスシーンもカメラワークが素晴らしい。エマワトソンの実写版でもこのシーンは元のアニメ版のイメージをあまり壊すことなく良い感じで映画館で観たときも大満足だった。最近だと話題の鬼滅の刃のアニメでパワハラ会議前の無限城に下弦の鬼が集められるところがとても好き。不穏な感じがよく伝わってくる。違和感のあるアングルで世界が見えることこそアニメならではの楽しみや面白さの一つだ。

エヴァでもカメラワークが面白いシーンがたくさんある。アニメーションならではの視点のものだ。後で見たNHKのプロフェッショナルでカメラワークを重視している点を取り上げていて、その制作過程を知り凄いと思った。


そして美術館で見る絵画のように、動きがなくても、その静止画だけで深く情景や心情が伝わってくるようなワンシーンが多いこと。背景と人物のバランスや色味、光の表現が美しく、画として仕上がっているシーンは見とれてしまう。母が美術館が好きで昔からよく連れて行ってもらっていたのもあり、風景と人物、光の表現が表現が巧い絵が好きでよく見ていたたことも影響しているかもしれない。具体的にはミレーの農民画なんかが好き。安野光雅さんの風景画も好き。緑が美しく描かれるのが好きなのでもののけ姫の深い緑が瑞々しい森も大好きだし、古いディズニーの白雪姫とか眠りの森の美女も森のシーンが美しいと思う。新海監督の「君の名は。」では風景が美しくて映画館の大画面でそれを見たくて何度も観に行った。だからエヴァではあまり描かれない緑のシーンが今回の第三村で見られてとても良かった。反対に、退廃的な風景も好き(ナウシカ冒頭の腐海シーンやスターウォーズでちょいちょい出てくる暗くて廃墟っぽいところとかも好き)なので、コア化した大地も大好物だ思う。オープニングの音楽が流れながら3人でコア化した大地を歩いていくところも良い。そしてこういった静のシーンでは音楽がとても大事だ。上にあげたシーンはどれもその風景と併せて音楽も素晴らしい。作り上げられた世界観にすっかり入り込んでしまう。

エヴァでは静が美しく描かれているだけなく、動も魅力的だ。宮崎駿監督も庵野さんの爆破の表現を絶賛していた。私は爆破シーンが好きで劇場版のコナンでは毎回期待通りの爆発が引き起こされるのでそれを観に映画館に行っているようなものだ。というのは言い過ぎだが、コナン映画そういった非日常のドキドキ感やスリルは期待するものの一つだ。(コナンの場合美しい爆破シーンというより、ありえない規模感でテンションが上がるという感じだが。) ミッションインポッシブルとか007が好きなのも同じようなものだ。スターウォーズ4のデススターが爆発するところは大好きで、7でまた同じような展開にして最新技術を使った爆発を見せたくなる気持ちもわかる。実際私も興奮した。 良い爆破が観れる満足感がエヴァにはある。本物の大爆発を目の前で見ることは無いので何が’リアル’なのかはわからないけれど、良くできたそのシーンには心躍る。もちろん戦闘シーンも動きが面白く引き込まれるのだが、新劇場版で最初にN2爆弾を使用するところですでにエヴァ見始めて良いなーとなったのは期待以上の爆発シーンにきっと心を掴まれたからだ。

画や音楽の美しさに加えて、私の心を掴んだのは声優さんたちだ。CCさくら大好きなので、私の中で緒方恵美さんと言えば雪兎さん。「おはよう」「ありがとう」「今日も可愛いね」「とーや」まあ基本的にメンタルが安定した発言しかしない何でもできる大食いで眼鏡の優しいお兄さん。その声で、感情的で落ち込んだり怒ったりするシンジ君を演じているのに最初は驚きと、でもそれもまたすごく合っていてとても良いと感じた。加持リョウジの山寺さんも最高だ。チーズや銭形もいいけど、こういうの求めてました!となった。他も豪華な声優陣による素敵な声の演技でそれぞれのキャラクターを表現していて魅力的に感じさせてくれる。私はたぶん所謂声フェチで、私にとって好きな声の癒しの力はすごい。好きな俳優さんに関しても声が好きという理由も結構大きくて、藤原竜也とか松たか子とか玉木宏は完全にそれだ。音楽でもバンプの藤くんの声が好きで(当然曲も好きな部分も大きいけども)、辛いことがあってもその声を聞けばとりあえず癒される。私が過去に見てきたアニメで一度は聞いたことがある声の数々で初めてなのにどこか懐かしい気持ちになったのもそのためかもしれない。


そしてエヴァンゲリオンという作品では細かな心理描写にも惹かれた。私はすっかり大人になってしまって登場人物たちに心理的に激しく共感する部分は少なかったので、なんとももったいない気もしたが、私もあの彼と話した高1の時、シンジ君と同じくらいの年頃でエヴァを見始めていたらもっといろんな角度から楽しめたかもしれないし、完結編はより感慨深いものになったかもしれない。系統は全く異なるが、私にとってピクサーの「トイストーリー」シリーズは特に思い入れの深い作品で、長い年月を経て、物語の中の登場人物の変化と、作品を作る技術の向上、そして自分自身の変化を感じられるのは贅沢な体験だと思う。エヴァを昔から観てきた人たちはそういう体験ができたんじゃないだろうか。

ちょっと前にこれを読んで作品そのものではなく背景にある経営の話までコンテンツとして楽しめて大変良かった。(また突然のおすすめ。)アニメーション制作の難しさ、どうやってお金を生み出すかなど勉強になる。

余談だが(というかもうずっと余談。エヴァの話どこ行った。)トイストーリー4は出産の直前になんとか近くの映画館で公開初日に観に行った。1度しか観ていないがこれまで作り上げてきたトイストーリーの世界から変化が大きく感じられて、見終わったあと実にモヤモヤした。実際、現実世界もここ何年かでかなり「古い価値観を捨て去るべき」という風潮があるので、最先端のアニメーションを製作するディズニーがそういう作品を作るのも理解できる。ディズニー作品に関わらず、世間の価値観も作り手側の伝えたいものも変わるんだからいつまでも昔と同じような作品が見られるわけじゃない。新しく作られた作品も何度も見て嚙み締めたらそれもいいラストだったと思えるのかな…。


それから、私の思い入れのある作品の一つにジョージルーカス監督の「STAR WARS」シリーズがある。(最近ディズニーが制作した7~9はまた若干ちがった雰囲気なのだが、私が特に好きなのは1~6。)そう、父子モノである。エヴァもまた紛れもない父子モノで、私はこじらせパパの匂いの嗅ぎつけたに違いない。男女がくっつくとか別れる(男女でなくてもいいけど要するにラブロマンス)とか、兄弟愛・姉妹愛で苦難を乗り越えたとか、友情・努力・勝利…そういうものと比べて私の中では”親子”がテーマのものは重さが違う。親子の呪縛みたいなものから解放されて幸せをつかんでほしいという気持ちが強いんだと思う。ついでに言うと親子が主軸の話は、親子だけでは絶対に完結しない。周辺に男女、兄弟、友情の話も大体付随してくるのでオイシイ。母子モノは自分が女だからいろんな感情が渦巻いてしまっていまいちフィクションとして楽しみ切れない部分があるが、父子モノは純粋に作品を楽しめる。どんなに周囲がお膳立てしたって、子供が成長する大事な時期に向き合うことを放棄した親と和解できるわけないだろうと思ってしまう部分があるがそこはフィクションでありファンタジーだ。

私の愛する親子ものの代表がスターウォーズなのだが、他にもコードギアスや、ミュージカルのキンキーブーツ(友情要素が多く見えるが実は父と子の要素も多いと思う)、ディズニーのリメンバーミー(これも若干ちがうけど父と子の要素多めの家族の話)が好きな作品。クドカンのタイガー&ドラゴンも父と子の話として(そして周囲のキャラクターも大好きなのでそれも併せて)大好きな作品で何度も繰り返し見ている。このドラマをきっかけに落語にも興味を持って色々勉強したので詳しくなった。この前最終回を迎えた俺の家の話もとても良かった。さすがクドカン。毎回が最終回かというくらい濃密でよくできたラストでありながら、回を重ねるごとに変化する家族の関係性、心の動きが良く伝わってくる。テンポもよくてコメディでありながら、真剣な内容もすっと入ってくる脚本は素晴らしい。他にも父と子ではないが、義母と娘のブルースも親子もので大変面白い。東野圭吾の「赤い指」という小説も好きだ。どの作品も親サイド、子供サイドの心の動きが丁寧に描かれていて親子の周りの人間も魅力的だ。

さて話をスターウォーズに戻すと(エヴァじゃなのか)、ダースベイダーは碇司令と重なるところがある。ハイスペックで組織を率いるカリスマ性を持つ一方で大きな陰謀を持つものに利用されている(利用している?)一面も。頑固で意志が強いが、心の支えだった大切な人を失いおかしな方向へ、そして息子と向き合うこともしない。息子の方はというと、孤独を抱えたまま、突然大事に巻き込まれるも周囲のおかげで成長、最終的に父と対峙し、父も息子の成長と思いに触れて最後は和解。ついでに周りの皆さんにも平穏が訪れる。(なのでその後ルークにはそのままのほほんと幸せに過ごしてほしかった。7~9の展開はちょっと辛いし蛇足感が否めない。シンジ君には波乱万丈な続きがたぶんなさそうでひとまず安心している。)エヴァでは最後ゲンドウが自分の過去についてばーっと話してくれるが、スターウォーズだと6が終わった後に1~3でどうやってベイダーになっちゃったの?ってところまでじっくりわかるのであの順番で制作したジョージルーカス監督はやっぱり凄い。

スターウォーズもエヴァもこの父と子の物語のために壮大な設定のもと、舞台が整えられている。架空の舞台でもその端々には現実に重なる描写が多くあってリアルに感じられる部分とフィクションの部分のバランスが良く世界観に引き込まれるのだと思う。舞台を作りにはそこには映らない部分にまで緻密な設定が必要で、ただしそれをすべて説明するようなセリフを入れることは架空の世界の'リアリティ'に反するので観客にギリギリ伝わるくらいにしか話してくれない。(まあコナンやディズニーなんかは子供も楽しめるようにこの後必要になる情報をしっかり教えてくれるのでやや不自然さはあるし先が読めるが、親切でわかりやすくそれはそれで良い面もあるとは思う。) 難解でも作り手の方では世界がしっかりできているので作品をよく見ていけばなぜそうなったのか自分なりの理解できるようになっている。登場人物たちが「なんでそうしたのか?」が作りこまれていない作品(というかそれなりに理由はあるんだろうけどしっくりこない理由)だとどうしても置いてけぼりになってしまう。

エヴァは初めて見たときにはその設定や世界観に疑問だらけでついていけなかった。しかし、それでも惹きつける映像や音楽、キャラクターがいて、もっとよく知りたいと思わせる。そして色々考える余地があり、また自分なりに考えてしっくり来る理由を見つけられるので、やはり作り手が良く考えているのだろう。しかも、作品を観たもの同士で内容について議論する余地もたくさんあって作品自体について語るのも盛る上がる。物事は見る人が見たいものを見てしまう節があるので、難解で色んな角度から深読みできる作品の方が、見る人それぞれに刺さると思う。最近のつまらないドラマ(といいつつ見ちゃってる)は「いや、そうしないでこうしたらいいのに。」とか「なんでこうしないんだ!」というようなツッコミどころだらけで、「登場人物がちょっと特殊で非常識な人だから」とか「ドラマを盛り上げるため」のいずれかで仕方ないか…って納得させながら見る。じっくり考える時間も気力もも大してない時はTwitterでもみながら軽いドラマを流しておくのもリラックスできるのでそれはそれでよいのだが、久しぶりにじっくり考える作品に時間を割く体験ができて満足度がかなり高い。作品を理解するのには現実世界の知識も手助けになる。もともとサラッとは知ってはいたがまあすぐ忘れるので大して覚えていなかった知識、ヤシマ作戦から屋島の戦いや那須与一、ついでなので平家物語について再度学び直したり、宗教や神話についても興味を持ったので図書館で本を探してみたりした。ちょっと前の話になるが、キングダムの実写映画版を見た後も(漫画も気になっているが残念ながら読めていない)中国のそのあたりの歴史が知りたくていくつか本を読んだ。時代劇や大河ドラマを見たり、歴史のある絵画を美術館などで見て、当時の歴史や関係する人物を知る本を読むことも多いが、知識を補填する感じで自分でじっくり考える側面はやや少ない。日々生きていると仕事や育児から学べることも多くある(し、学ばないといけないことも多い)が、純粋に自分の好きなもの・興味のあるものを深く追うことは能動的で贅沢な時間の使い方で、誰に指図されるでもなく、感興の赴くままに学びを深め、考えを深めるのはやはり楽しい。それを思い出させてくれた作品だった。


それから、キャラクターというのは、適当な設定、作り手の浅い考えが透けて見えるとどうしても好きにはなれない。架空のキャラクターだけでなく実在する人物についても当てはまると思うが、まずその人について興味を持てるような背景・設定(その人の過去や学歴職歴などの事実)、雰囲気(声や見た目)併せると所謂スペックというのがあって、その後の行動から読み取れる心の部分に共感したり同情したりして、自分との対話の中でさらに惹かれていく。フィクション作品のキャラクターなら、最初の興味の部分は容易にクリアできても、一貫性がありながら他者との間での心の動きを上手く見せてくれないと、その後の行動で惹かれるというのは厳しい。

ここからは(というかこれまでもずっとだけど)私の好みの話だが、「憂い」「有能」「サイコ」「誠実(紳士的)」この要素をバランスよく持っているキャラクターにがっつり心を掴まれることが多い。最近だと日曜劇場 天国と地獄で高橋一生演じる日高はど真ん中だった。誰からも好かれるような能力と性格でありながら、その内には闇を抱え時に目的のために手段を選ばない非常識的な部分を見せる。"結構イケてて自信満々に振舞っているのに闇を抱えたちょっとヤバい人"これが私の好みだ。今だと大河ドラマ 青天を衝けで草彅くん演じる慶喜が良い。ご飯を盛るシーンで私も一緒にすっかり虜になった。(それまでの積み重ね+この配膳シーンで落ちたという感じ。)ドラマだと「相棒」シリーズの右京さんにも食指が動く。相棒はかなり長くやっているので、正直回によって好きな回とそうでもないときがあるのだが、右京さんが頑張っていてくれればそれで満足なので欠かさず観る。BBCの「SHERLOCK」は主人公もいいけど、ワトソン君の方がその要素のバランスが好みで毎回ワトソンの活躍を楽しみにしている。私が鬼滅の刃にハマったのもこの要素をしっかり持ったキャラクターがじゃんじゃん出てくることも理由の一つだ。(なので推しを一人に選べない!) 小説では東野圭吾の容疑者Xの献身の石神がよく刺さった。映画版で堤真一が演じていたのも良かった。さて、エヴァのキャラクターだとガッツリ私の好みの中心はこの人だ!という人はいないのだが、作品全体を通じてこの要素が感じられる。それはやはりどのキャラクターもその要素を持っているからだと思う。「欠けているのが面白い」とプロフェッショナルでも庵野さんが語っていたが、完璧ではない姿に惹かれるよううまく作られている。

最近のディズニー作品は完璧を目指して作られている感じがして、設定・伏線・回収までもうバッチリである。幼い子供に見せても恥ずかしいものではなく教育的にもバッチリ。ポリコレ、倫理的にも問題なし。さすがである。そういう作品も本当に良くできているし、何度見ても面白いのだが、美しく出来過ぎていてちょっと説教くさい気もしてしまう。私の心が子供のように純粋できれいだったら説教臭いと思わないのかもしれないが、やっぱり共感できる要素のある作品の方が心に刺さる気がする。ちなみに私の好きなディズニー作品は「ズートピア」と「塔の上のラプンツェル」なのだが、ヒーローにあたるニックもユージーンも後ろめたい過去がありながら主人公の幸せのために頑張る姿が好きで、やっぱり完璧ではないところに惹かれるんだと思う。(その点ではアラジンや美女と野獣も比較的好きだけど、アラジンも野獣も歳のわりにちょっと他人に甘えすぎな部分が否めないのでそこまで推せない。)


タイトル通り、ほとんどエヴァンゲリオンの話ではなくなってしまったが、私はワクワクする楽しい作品に出会えて大満足だということだ。そしてどこが好きなのかな?を考え始めると過去に惹かれた様々な作品が思い出される。さらに、それらの作品だけでなく自分自身の経験も繋がって「好き」が形成されていくものだとあらためて考えた。そして私の性格、勝手に期待してがっかりしたくないというのはかなり昔からで、「失敗を恐れず何事にも挑戦すべし」みたいな精神は苦手(というか私自身が他人を期待させてがっかりされたくない)なのだが、アラサーにもなると闇雲にいろいろなものに手を出して無駄にする時間もないので自分は何が嬉しいのかを考えながら新しいものに出会っていきたい。



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さて、闇雲に手を出してはいけないのは恋愛も同じだ。恋愛における失敗は修羅場を呼ぶ。大学時代、私がいくつかの修羅場を搔い潜る間、初対面で数学を楽しく語り合った彼とはつかず離れずの友人関係を続けた。その後、まあおそらく、彼が私に対してがっかりする事はいくつかはあったかもしれない(というか確実にあったと思う)のだが、少し前に私が家でエヴァを観るか迷っているとき、結構好きなんじゃない?と教えてくれたのは彼で、今は私の夫だ。私が今、元気に好きなものを追いかけられるのは夫のおかげなので、最後に夫への感謝を添えて。





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