デンソーが描く人・組織のビジョン ー「新しい”できる”を実現し、人と社会にインパクトある価値を届ける」
「新たな価値創造・変革推進のためには、異質な環境に飛び込み、学ぶ経験、つまり「異質経験」が重要だと思います。その「異質経験」の場をいかに創出するのかに、とても悩んでいたんです。」
『100年に一度の転換期』といわれる自動車業界。お客様の期待に「応える」だけでなく、期待を「超える」ために、新たな価値を創造できる組織へ変革できるか—?
今回は「世界の新しい”できる”を実現し、人と社会にインパクトある価値を届ける実現力のプロフェッショナル集団を目指す」デンソーの人財育成について、人事部・新藤さんにお話をお伺いしました。
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更なる多様性を求め、デンソーが人財育成のために選んだ新しいフィールド
夏目:デンソーさんとは、2021年からフィールドアカデミーでご一緒しています。導入の背景にはどのような課題感があったのでしょうか?
新藤:人と社会にインパクトある価値を届けるためには、デンソーの人・組織も変わる必要があります。
自動車業界は『100年に一度の転換期』といわれており、自動車だけではなくモビリティとしての新たな価値提供が求められています。
自動車の販売台数が右肩上がりの時代は、お客様であるカーメーカーの期待に応え続けることで、世の中に価値を提供している企業として認めていただいていたのではと思います。
しかし現在は、急速な技術革新、生活様式の変化等、VUCAの時代に突入し、「世の中に認められる価値」も変容しています。
その結果弊社も、お客様の期待に「応える」だけではなく、期待を「超える」新しい価値を生み出し、届けることが、より一層求められるようになりました。
また、その新しい価値を生み出すうえで、多様な業界にわたり、仕事の進め方や価値観も異なるパートナー様との協業することも求められています。
人事、そして人財育成の担当として、新しい価値を生み出し、変革推進を実現するためには、座学研修だけではなく、実践を通じた育成が必要と考えます。
具体的には、現場やエンドユーザーの声に耳を傾け、バックボーンの異なる多様な業界・職種の人たちと一緒に、新しい価値を生み出す経験です。
弊社では、従来から若手・中堅人財を海外拠点で育成する「トレーニー制度」を導入していました。が、新しい価値を創造するためには、 いかに異質な環境に飛び込み、学ぶ「異質経験」を積んでもらうか、更なる多様性をどう実現するかを考える必要がありました。
そこで、従来のトレーニー制度を刷新し、異業種他社での実務を学ぶ「社外修行トレーニー」、現業を両立しながら異業種人財と事業創出を行う「短期共創プログラム」を新たに導入しました。
短期共創プログラムの一つとして出会ったのが、フィールドアカデミーです。
社会課題の世界は誰も正しい答えを持っていないですし、様々なプレイヤーに自ら声を聴きに行き、丁寧に対話を積み重ねてゼロから答えを生み出すしかありません。
まさに弊社が求めていた「異質経験」の一つとして、フィールドアカデミーの導入を決めました。
「実現力のプロフェッショナル集団」を目指す。個人の情熱を組織変革につなげるためのロードマップとは?
夏目:最終的に組織全体の変革を目指しているデンソーさんですが、これだけ多くの社員に向けて、「異質経験」を通じて「新しい価値」を生み出す意義を伝え、社内全体にムーブメントとして波及させることは非常に長い道のりだと推察します。
そのような中で、フィールドアカデミーに参加する社員一人ひとりには、どのような期待を込めているのでしょうか?
新藤:参加者たちには「新たな価値創造・変革推進を実現するリーダーとして組織を束ねられるようになってほしい」と伝えています。
もちろん一足飛びには出来ないので、まずは普段の仕事では味わえない異質な経験をたくさん重ね、何かを感じて、自分なりの学びとして持ち帰ってくれること。そして終了後、社員一人ひとりが秘めている情熱を見つけ出し、自分の成長はもちろん、組織にどう活かし会社を変えていくかを考えてもらうことを期待しています。
弊社が掲げている「人と組織のビジョン&アクション『PROGRESS』」では、人と組織が掛け合わさり、価値を生み出し「実現力のプロフェッショナル集団」になることを目指しているのですが、
その根底には「一人ひとりの”できる”を増やしていくことで強い集団が生まれる」という想いがあるんです。
新しく策定した「PROGRESS」を軸に、社員一人ひとりの成長から社会インパクト創出を目指すデンソー。
個々人の成長から組織変革を生み出すビジョンは、「フィールドアカデミーを通じた組織変革」というアクションにもつながっている、と新藤さんは語ります。
新藤:まずは個人として、情熱と学びを得る。そして次第に、その学びや情熱を自分の中だけに留めず、周囲をまきこみ、上司をまきこみ、職場をまきこみ、会社を盛り上げる主体者として活躍してほしいです。
一方で、社内への波及にあたっては、私たち人事も、例えば制度面でのバリアを取り除くなど、彼らの情熱を後押しする存在を目指しています。
夏目: 2021年、22年それぞれ数名ずつ社員を派遣していただきました。
参加してくださったデンソーの方々は、皆さん前向きで積極的な印象があるのですが、人選方法の工夫などはあるのでしょうか?
新藤:21年は本導入前のトライアルという位置づけだったため、公募制ではなく、当制度の関心を持っていただいた部署で推薦され、かつ熱意も持っている方が参加しました。
22年からは公募により人選をしており、自主的に手を挙げた社員たちが参加しています。
PROGRESSでは、内発的動機に基づく「自分発」の行動を大切にしています。自分で手を挙げると、参加するプログラムに対しても責任感が生まれますよね。
「絶対にやり遂げなければならない」という自分発の想いが、難しい課題を乗り越える原動力にもなりますし、やり切ったからこそ見える景色もあるでしょう。
手挙げ派遣は、結果として人財育成の効果を高めることにもつながっているのではと思います。
まだまだ弊社にとっては新しい取り組みなので、もっと多くの社員に認知してほしいですし、送り出す職場側も意義を感じながら送り出していただく必要があります。
トライアルの際は、職場の皆さまにもご理解いただき、業務調整や参加者への動機づけを前向きに行い、見守り続けてくださいました。本当に感謝しています。
実際に参加した人だけでなく、職場の人たちも彼ら・彼女らのチャレンジを応援し、それがまた本人の原動力につながる・・・このサイクルを生み出すことができれば人・組織の変革にも寄与できると考えています。
「必須スキルなんてものはありません。ただし・・・」社会課題の現場で活きる、たった一つの力
新藤:私からもリディラバさんに質問したいことがあります。
デンソーにとって、「現場」といえば「製造現場」、「お客様」といえば製品の主たる納入先のカーメーカーを連想することが多いです。
そのため、リディラバさんがいつも言っている「社会課題の”現場”」とはそもそも何なのか、そして現場の方々は誰にどのような価値を届けたくて活動しているのか、イメージしづらい社員も多いんです。
参加者のイメージをつけやすくするために、「社会課題の現場にはこういう人材が望まれている!」というメッセージを打ち出すことも一手かなと思うのですが、何か必要と感じるスキルはあるのでしょうか?
夏目:結論、社会課題の現場に必須な「スキル」なんてものはないですね。
社会課題の起こる原因は極めて複雑で複層的で、ロジカルに思考するだけで、唯一解を導き出せる世界ではないからです。
そのため、フィールドアカデミーに手を挙げようか悩んでいる皆さんは、「自分の実力が足りていない」「自分が役に立てる領域なんてない」と思う必要は全くありません。
ただ、問題解決に挑む上で、「スキル」とは別に非常に重要な”力”があるとは思います。
それは、現場で起こっている歪みを目の当たりにした時に、他人事として終わらせず「自分が問題解決の主体者にならねば」と『自らを奮い立たせる力』です。
例えば、新潟県越後妻有地域には「大地の芸術祭」というアートイベントがあります。
越後妻有は日本有数の豪雪地帯で、中山間地域であるために農業は棚田が主体で、日本有数の棚田の絶景を見るために県外から観光客が訪れるような地域です。
しかし、限界集落を中心として人口は年々減り続けています。子どもや若い人は地元を出て以来帰ってこない、残された高齢者の明日はどうなるのか、という重い不安。
さらに、棚田は耕作面積を拡げづらく重機も入りづらいため、平野部に比べて農業条件があまりにも不利で、それも人口減少に拍車をかけています。
結果として、祖先から受け継がれてきた棚田の原風景や暮らしぶりは、今まさに失われつつあります。
では、大地の芸術祭を運営しているNPO法人は、それに対して何をしようとしているのか?というと、彼らは、限界集落に現代アートを置いて、域内外から数十万人もの来訪客を集め、その売上で人を雇い、地域の人たちの助けを借りながら、休耕地を借りて棚田での米作を20年以上つづけています。
3年に一度の会期中には数十億円もの経済効果をもたらすといわれ、今では越後妻有になくてはならない存在になりつつある大地の芸術祭。
こういった成功事例だけを聞くと、なかなか想像しづらいと思うのですが、20年前の立上げ当初は、「集落にアートを置きたい」なんてことを住民にいくら説いても、YESと言われるわけがなかったんですよね。それどころか詐欺師集団だと思われて、何度も追い返されていたと聞きます。
地域の暮らしと風景を次の世代につなげるという理念があったとしても、地域の人が納得しなければ物事は前に進みません。
そこで彼らが初回開催のためにやったことが「2000回行脚」です。
戦略やロジックなんてものではありません。とにかく、何百回・何千回も集落に足を運び、芸術祭をどうにか開催させてほしい、とお願いしつづけたんです。
最終的に予定から1年遅れで初回開催にこぎつけ、回を重ねるごとに徐々に地域の人たちも「何か頑張ろうとしている若い奴らがいる」ことを目にして、力を貸してくれるようになったそうです。
今では、大地の芸術祭は「外からやってきた人たちのイベント」ではなく「地域の暮らしに組み込まれた催事」になりつつあります。
夏目:社会課題の現場に挑んでいるプレイヤーの皆さんは、みんな「誰もやらないから俺がやる」という人なんです。誰かのせいにしても何も社会は変わらない。だから、自分がやる。
私は、この「自分がやらねば」という想いさえ持っていれば、困難を乗り越えて社会を変えるムーブメントは生まれると思っています。
私自身がその行脚を目の当たりにした訳ではありませんが、その熱量がもたらした結果は越後妻有の随所で感じ取ることができます。
最後に人の心を動かす決め手は、ロジカルな考え方や「スキル」ではなく、目の前の1人のためにどれだけ情熱を持てるかどうかだと、現場に触れて思い知らされましたね。
新藤:すさまじいエピソードですね。
デンソーの社員にもできるでしょうか?
夏目:私の考えではYESです。
よく私は「勘違い」という言葉で表現するのですが、「他の誰も気づいていない課題を発見したぞ」という、自分にしかない気づきが、非常に強い動機づけになるんです。
「あれ?誰も指摘してないし、やってないけど、もしかしてこの問題をこうやって解決すれば、何とかなるんじゃないか?」といった気づき。
最初は思いつきでしょうし、何十年も現場の課題に向き合っている人たちを差し置いてズバッと本質を突くことなんて実際には考えづらいので、要はその人の「勘違い」なんです。
ですが、自分で気がついたからこそ、外から提供される動機付けとは異なる「強い原動力」になります。
「それって勘違いなんだから、無意味なアクションなのでは?」と思うかもしれません。
「思いつきのアクションが社会課題を解決する」というわけでもありません。
しかし少なくとも「ただ論理を積み重ねて満足してしまう」よりも「何かひとつでもアクションを起こす」人の方が、現場にとっては遥かに価値があるのではと思いますね。
新藤:お話を伺っていると、リディラバさんを通じて、社会課題解決の第一人者の様々な想いに触れられるからこそ、フィールドアカデミーには一歩を踏み出させる力があるんだなと改めて感じますね。
「会社を変えようとしている人の声を組織に届ける」人財開発担当としての野望
夏目:最後に、新藤さんの今後の野望について教えてください。
新藤:私自身、学生時代から「誰かが立ち止まった時に寄り添いたい、一緒に考えたい」という想いを持っていました。デンソーで人財開発部門を志した原点でもあります。
あの頃の気持ちに立ち返って、今、目の前の組織や一人ひとりを省みると「どうしたら会社を変えられるだろうか?」と日々考えている人が実はとても多くいらっしゃいます。
私はその人たちの想いに寄り添いたいし、一つひとつ実現させていきたい。
まずは目の前の一人の声に耳を傾けて、経営層にもちゃんと伝えて、人事施策に織り込むことを、一つひとつ愚直にやっていきたいんです。
とはいえ、私の力だけで出来ることには限界があります。
フィールドアカデミーの参加者や他の人財開発部門のメンバーたちと、そしてもっと広い目線で会社を見渡して、デンソーの各部門にいる熱意や技術を持った方々と一緒になって変革に挑みたいです。
そして何より、私自身が情熱を絶やさずミッションに向き合い続けたいんです。その積み重ねが、いずれ真の「実現力のあるプロフェッショナル集団」につながると信じています。
対談者プロフィール
株式会社デンソー
人事部 人財・組織開発室 人財・組織開発2課 担当 新藤 幸さん
株式会社Ridilover(リディラバ)
企業研修チーム リーダー 夏目翔太
(肩書きは、2022年12月時点のものです)
詳細・お問い合わせ
私たちリディラバがフィールドアカデミーを通じて実現することは、「HOW」型から「WHAT」型へマインドを切替え「未知の問いに挑む力」を身につけてもらうこと。
答えのない、大きな領域だからこそ、普段の経験から解き放たれて全力で挑める。その挑戦こそ、成長の起点になります。
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