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なぜ、私はアセクシュアルを追うのか? ──アロマアセクの揺れる定義、恋愛の表現規制など考える

あれはたしか、アセクシュアルについて気になるから追い始めたのだった。インターネット上でアセクシュアルについて書いていたものの、アセクシュアルの情報があんまりない。また、学術的な研究も日本では盛んじゃない。なぜ、一定数でアセクシュアルの人たちが出てくるのだろうか。アセクシュアルってそもそもなんだろう。このモヤモヤを放置できそうにない。どうせならやれる範囲で、アセクシュアルの在野研究みたいなことしてみたいという好奇心からのスタートだった。

けれども、今まで「なぜ、そこまでしてSNSなどインターネット上でアセクシュアルについて考えたり、言及したりしているのか。」について触れていなかったような気がする。ところどころでチラッと見せるだけで、しっかり言葉にしていなかった。また、そこからアセクシュアルの揺れる定義問題や最近のアセクシュアルのキャンセルカルチャーについても語っていきたい。初めてアセクシュアルについて文章にしてから3年ほど経った今だからこそ、それらについて言葉にしていこうと思う。



1.アセクシュアルを追うキッカケ

2019年2月に初めてアセクシュアルの記事を書いた後、SNSで褒めてもらえたりして様々な人たちに読んでもらえて嬉しく感じるとともに、こんなにも沢山の人たちに読んでもらえたからこそ、アセクシュアルについて真剣に取り組むべきではないかと思い始めた。

しかし、アセクシュアルって一体なんだろう。頭のなかで考えても、掴めそうで掴めない。私自身がアセクシュアルのはずなのに。アセクシュアルについてわからないのだ。なにしろ、アセクシュアルの情報はインターネット上に散らばっているし、正直なところどういうものなのかわかりづらい。ある程度探せば情報に触れられるものの、どれも肝心な部分が曖昧なのだ。「それで、それはどうなるの?」という痒いところの部分がない。

いや、曖昧にしか答えられないのだ。アセクシュアルの定義でさえも、曖昧なのだ。なんと、日本ではアセクシュアルという言葉に対して世界的な意味(他者に性的惹かれを抱かない)と日本特有の意味(他者に恋愛感情・性的惹かれを抱かない)の2つある。アセクシュアルはインターネット上での様子を見ると、どうやら輸入されて少し経ってから定義問題に発生し、いつの間にか2つの意味が生まれてしまったようである。説明が必要なほど、アセクシュアルについてはまだ揃っていないのだ。


2.曖昧なアセクシュアルの定義 

じつは、アセクシュアルの定義は当事者の間で揉めるほど、デリケートな問題だ。ここで、2022年1月からスタートしたアセクシュアルを描いたNHKドラマ『恋せぬ二人』での定義を見てみよう。

このドラマには主にアセクシュアル の当事者・団体運営や活動家などで構成されたドラマ独自の考証チームが作られている。その考証チーム曰く、「ドラマ内ではアセクシュアルは性的指向の一つで、他者に性的に惹かれない人を指す」と定義しているが、他にも定義や表記があると考証チームブログ第一回で語っている。

1.他者に性的な魅力を感じない
2.性的欲求が他者に向かない
3.性欲が他者に向かない
4.恋愛感情を抱かない+1~3

(★1)考証チームブログ 第1回 - 恋せぬふたり - NHK
https://www.nhk.jp/p/ts/VWNP71QQPV/blog/bl/pe6M8agVJ5/bp/pLOadmxE94/

先ほど、世界的な意味(他者に性的惹かれを抱かない)と日本特有の意味(他者に恋愛感情・性的惹かれを抱かない)の2つあると書いた。しかし、この考証チームブログには4つもある。正直なところ、読んでいる側を混乱させる書き方をしていてどうかと個人的に思っているが、これもまた事実。実際にアセクシュアルのコミュニケーションなどが盛んな場所であるTwitterでは、アセクシュアルの定義に混乱している人たちも多い。そして、私自身も何度も定義について間違えてはどれが正解なのかわからず、すごく悩んだ。基本的にメディアや当事者団体などの定義の書き方が各自バラバラだったりするため、受け取る側も混乱するのである。だが、このなかでどれかひとつだけ選ぶとそれはそれで当事者同士の争いにもなるので、自衛するためにも定義を書く際には全ての意味を書くことになってしまうのだ。

一応、学術方面ではアセクシュアルは「他者に性的な惹かれを感じない」などと考証チームのブログでいう1のパターンで使われていることが多い。しかし、学術的な方面でもアセクシュアルの研究があまり進んでいないらしく、残念ながら2022年の時点では日本のアセクシュアルについての書籍が一冊も出ていない。このような背景があるのもあってからか、定義でさえもなかなか揺れてばかりなのだ。


3.ないならやるしかない

ならば、せめて私が情報発信をして、少しでもアセクシュアルのためになれば…と私が知っている限りのことを文章にして、2019年10月あたり(当時の記事)から書き始めたのだった。

しかし、ここで問題が起きる。「あれ、書くことがない。」と。

そう、先ほども言ったとおりアセクシュアルについてはまだ研究が進んでいない。だから、ある程度アセクシュアルの情報を書くとネタがなくなる。そうしたら、英語圏の最新の情報を翻訳するかもしくは自分の体験談など書くしかなくなる。けれど、英語圏の情報も体験談もいずれつきる。

そこで考えた。書くことないなら、私もアセクシュアルについて在野研究みたいなのをすればいいのではないかと。学術方面の人たちの情報を程よく追いつつ、自分の中で言葉にして届けていくべきではないか。今まで一度も学術的な研究なんてしたことない人間がどこまで出来るかわからないが、このままアセクシュアルの謎を放置しておくのは嫌だ。私だってアセクシュアルについて知りたい。ならやるしかない。

そうして私は、アセクシュアルに関係ありそうなものを色々と調べたり考えたり学んだりするようになった。たまには、寄り道などもして。そうして調べていくうちに、恋愛について知りたいという気持ちが強くなった。そもそも「恋愛 わからない」で検索して出てきたのがアセクシュアルという言葉だった。アセクシュアルを考えるということは恋愛について考えることになる。なので、恋愛は絶対に避けられない。愛、性、家族。アセクシュアルは繋がっている。

アセクシュアルがこうやって出てきた背景には「恋愛が流動的なものであり、する人もいればしない人もいる。」というメッセージが込められていると私は考えている。私たち人間には、じつに多様でさまざまな欲望がある。愛の欲望や性の欲望が必ずしも恋愛に結びつくとは限らない。今のこの恋愛至上主義の世界での快楽目的の恋愛、性的行為を他者に求めない人たちがいてもおかしくないはずだ。


4.アセクシュアルとキャンセルカルチャー

しかし、最近ではアセクシュアルの方向性が危ういところへ向かっている。とある著名人のあるコラムで「愛した人が一人もいないなんて生まれてこないほうがいい。」それを書いただけで抗議する人たち(詳しくはこちら)が現れたのである。他にもTwitterに載せた素人の恋愛漫画に危うい表現があるからと「差別だ!」と抗議するなどして結果削除することになったりと、色々と問題が起きている。

このようなことが起きる背景には、アセクシュアルというものがあまりにも曖昧すぎるせいで、片っ端から恋愛至上主義的な描写があればとりあえずアセクシュアルに対しての差別などとして抗議していく形になってしまったと思われる。また、当事者がTwitterに集まりやすく、当事者同士の議論なども基本的にTwitterが多い。もちろん、キャンセルカルチャー的な時代の流れもある。けれど、それ以上にアセクシュアルが曖昧すぎるから抗議が成立しやすく、簡単にできてしまうのもある。

一連の抗議に対して私は、そのうち恋愛について自由に語れなくなり、結果的に自分たちの首を絞めるだけだからやめたほうがいいと考えているものの、その流れは収まりそうにない。このままいくと、アセクシュアルの未来は真っ暗だ。ただ、恋愛至上主義的な恋愛を描いただけで差別という世界は何としても止めたい。だから、やるしかないのだ。それを阻止するためにも。悲しい未来にならないようにするためにも。


5.最後に

もちろん、恋愛・アセクシュアルについて研究するのは簡単なことではない。また、私は持病で殆ど寝たきりの人間である。出来ることも非常に限られている。けれど、私なりの恋愛およびアセクシュアル研究がいつか形になれればいいなと願っている。

ないなら、やるしかない。このまま、誰かの研究が進むのを待つだけでは危ない。もし、まだ見ぬ誰かが現れなかったら。もし、まだ見ぬ誰かの研究が思わぬ危険な方向へ向かってしまったら。

それなら、どんなに状況的に不利でもやるしかない。もしかしたら、失敗するかもしれない。けれど、「誰かがやってくれるだろう」と待つのは私には無理なのだ。なら、やってみよう。アセクシュアルの謎を解くために。アセクシュアルの未来のために、今日も明日も恋愛について考えて愛を語っていきたい。


★1:引用先の数字が環境依存の数字だったため、そこだけ変えて引用しました。


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