短編小説 「10 MIN(10分)」 VOL.3
主人公、紗倉は選択肢も無く倉庫の出口へと進むが、出口までには、紗倉を痛めつける罠が仕掛けられていた…
「美佳・・・?」
紗倉が1年前まで付き合っていた同い年の彼女の名だった。数年付き合ったが、仕事の忙しさとマンネリから、結婚まで至らず別れた。どこにでも良くある話だと紗倉自身は気にも止めていなかったが、友人達からは批判を受けた。
「美佳。お前か? お前なんだろ? なぁ?」
校庭で石灰で白線を引く様に、真っ赤な線を灰色の埃まみれの床に足から流れる血で描きながら、紗倉はすがりつくように誰もいない空間に向かって話しかける。
「悪かった。 確かに、長く付き合ったのに責任取らなかったのは俺が悪かったかもしれない。だけど、こんな事までする必要ないだろ?」
どこかで聞いているはずだと、上を向き紗倉は必死に訴えかけるが返答はない。
「ふざけんなよ。お前だって分かってんだよ。何とか言えよ」と紗倉の語気が強まった時だった。
紗倉は胸元に違和感を感じた。目を凝らさないと見えない釣り糸ほどの細い透明な線を胸元に見つけるや否や、風を切る音が聞こえる。気がついた時にはボーガンの矢が紗倉の肉と骨を貫通し、肩から突き出ていた。
自体が飲み込めずに固まる紗倉に痛みが数秒遅れでやってきた。肩付近を抑え、叫び交じりの呻き声を発し、その場で悶絶する。
「ぐぞっ。誰だよ、ふざげんな。出てごいよ」
横たわり咳き交じりで苦しむ中、時は一刻一刻と過ぎていく。だが、目を開け視線を上げると、扉までは後数メートルの距離まで来ていた事に気づく。
「後、何分だ・・・ ほんとに助かるんだろうな、時間内にここを出れば」
依然として誰からも返事は無く、矢は肩に深々と刺さっていて、釘のように簡単に抜く事はできない。紗倉に残された希望は、声の主のルールに従い時間内にここを出る、それしか無かった。大量の汗が目に入ってくることなど気にせず力を振り絞って立ち上がり、肩と足の痛みに堪え、紗倉は再び歩き出した。
「美佳だろうが、なんだろうが、もうどうでもいい。バカげたゲーム通り時間内にここを出たら、絶対訴えてやる。お前は捕まって、一生牢屋暮しだ」
もう返事などは期待せず、意識を保つ為だけに独り言を言い続け、罠を警戒しながらも、ゆっくりと一歩一歩進んでいく。
3メートル、2メートル、1メートルと今度は罠なども無く、あっさりと出口の扉の前に辿り着いた。体感ではまだ10分経ってはいないはずだ、と自身に言い聞かせ、扉に手をかけようとするが、紗倉は躊躇した。また罠があるはずだ、だが、ここを出ない限り助かりもしないと言い聞かせた紗倉は一呼吸起き、目を瞑り、思い切ってノブを握った。
拍子抜けするほど何事も無く扉は開き、外光が差し込んだ。眩しさに目を細め、助かったのだと、生きている自分を確かめるように深呼吸した。それと同時に椅子に縛られていた時の朧気な記憶が蘇り、紗倉は声の主に無理やり胸ポケットに捩じ込まれた紙の存在を思い出す。紗倉はゆっくりと紙を取り出し、書かれた内容を読むと、眉をしかめた。
つづく
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