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痒い所に手が届かないポプラキミノベルの『坊っちゃん』がいろいろと惜しい

 夏目漱石の『坊っちゃん』の中で、最も新しい時期に出版されたポプラキミノベルの『坊っちゃん』。イラストがふんだんに使われていて、小中学生にも読みやすい構成となっているものの、痒い所に手が届かない惜しい一冊、というのが私の個人的な印象です。
 今回はそんなポプラキミノベルの『坊っちゃん』をレビューしたいと思います。



表紙です。

いいところその1. イラストが豊富でイメージしやすい


 ポプラキミノベルの『坊っちゃん』の最大の特徴は、何といってもふすい氏による豊富なイラストでしょう。これによって登場人物や風景のイメージが湧きやすくなっていて、読書が苦手な子どもにも手に取りやすくなっています。

うらなり、赤シャツ、野だいこ、山嵐

 こちらがうらなり、赤シャツ、野だいこ、山嵐のイラストです。右上の赤シャツが若すぎるのではないか? と思う方もいるかもしれませんが、10代の中学生の弟がいるということは、実年齢としては30歳前後といったところですし、本来はこのくらいの若々しさがあって然るべきかと思います。左下の茶髪の野だいこもいい味を出していますね。

いいところその2. 章立てと段落が増えて読みやすい


『坊っちゃん』は全部で11の章に分けられるのですが、古い作品のせいか、段落が少なかったり、文字が詰まっていたりして読みづらく感じることがあります。しかしこのポプラキミノベルの『坊っちゃん』は、章立てと段落が増えているうえに、文字サイズも文庫版よりも当然大きくなっているため、とても読みやすいです。

5章の釣りの場面でも、3つに分けられています。注解は同一ページの横に配置されていますね。

 せっかくですので、今のところ文字が一番小さい岩波文庫版と比較してみましょう。

まずは岩波文庫の『坊っちゃん』。いつ見てもぎっちりしてます。
続いてはポプラキミノベル『坊っちゃん』。おおむね同じ箇所の抜粋なのですが、だいぶすっきりしていて読みやすいですね。

惜しいところその1. 作品解説がない!


 豊富なイラストと読みやすい構成のポプラキミノベルの『坊っちゃん』ですが、残念なことに解説がありません(文豪新聞という漱石の簡単な経歴と年表、代表作等がまとめられたものならあります)。こちらの記事でも書いてあるように、『坊っちゃん』は小中学生には理解しづらい作品となっているため、とりわけ読書感想文を書くにあたっては作品解説が必須だと私は考えています。解説がないとなると、どうしてもおすすめしづらくなってしまいます。

惜しいところその2.マドンナの母親が老けすぎ


 これはちょっとどうでもいいことかもしれませんが、マドンナの母親のイラストが非常に老けていて、彼女の母親には見えません。おそらくは「年寄りのほう」という言葉に引きずられてこのようなイラストになってしまったのでしょうが、彼女の年齢は45,6歳と坊っちゃんが推測しているように、中年の女性です。このイラストだと80近くの老婆にしか見えませんし、読者が誤った認識を持ってしまいます。

この二人、こう見えて親子である

惜しいところその3. 赤シャツも卵攻撃を受けている


 これも些細なことではありますが、物語のクライマックスで坊っちゃんは野だいこに生卵を投げつけるのですが、なぜか赤シャツまで卵攻撃を受けているイラストが載せられています。絵づら的にはおいしいでしょうが、これも読者に誤った認識を持たせてしまう恐れがあるため、個人的にはよくないかなと思います。

とんだとばっちりだぜ~

結論. 豊富なイラストや読みやすい構成は評価できるけど……


 豊富なイラストや読みやすい構成は評価できるものの、肝心の作品解説がないため、小中学生にはおすすめできない、というのが正直なところです。解説さえあればおすすめ度が跳ね上がるだけに、レビューをしている私としてもとても残念です。

 また、読書が苦手な人や視力が衰え始めている人にとっては、読みやすい構成や大きめな文字サイズは悪くないとは思うものの、豊富なイラストがうるさく感じる可能性もあるため、やはり強くはすすめられません。

 以上で新潮文庫の『坊っちゃん』のレビューは終わります。この調子で、残り18冊の『坊っちゃん』のレビューをしていけたらと思います。

 解説を活用して『坊っちゃん』の読書感想文も書いてみたので、ぜひ参考にしてみてください。

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