リックマン

夏目漱石の『坊っちゃん』の研究をしています。

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BEAMSの“Mikan” Festival 2023 がとにかくすごい!

 夏目漱石『坊っちゃん』の作中に登場するみかんは、「温州みかん」であることを村木晃氏が突き止めました。ファンとしてはぜひじっくり観察して食べたいと思ったのですが、スーパーに行くと以外にも熊本や和歌山のみかんが多く、温州みかんが手に入りません。困ったぞと思いながら息抜きに新宿のビームス ジャパンへ行くと、山のように積まれた温州みかんがあるではないですか……。 どうしてビームスにみかんが売ってるの?  お店に入ってまず頭に浮かんだのは、「どうしてビームスにみかんが売ってるの?

    • 集英社文庫の『坊っちゃん』がいじめを擁護している件について

       集英社文庫から出版されている夏目漱石の『坊っちゃん』は、非常に手の込んだ一冊です。作品の理解を深めるのに当時の松山の写真が掲載されているだけでなく、大人向けと子供向けに解説が二つも用意されていて300円以下で買えるのですから、普通に考えればかなりのお買い得商品です。  しかし残念なことに、子供向けに書かれたねじめ正一氏の解説がいじめを擁護する内容となっていて、子どもに読ませてしまうと「弱い者はいじめてもいいんだ」という考えを持つ危険性があり、個人的には『坊っちゃん』の中で最

      • 角川文庫の『坊っちゃん』には、「売り」がほしい

         良くも悪くも癖のない一冊、というのが角川文庫版の『坊っちゃん』から受けた印象です。いいところも悪いところもなく、無難であるがゆえにおすすめできるところやおすすめできないところもないという、非常にレビューのしづらい一冊となっています。  今回はそんな角川文庫の『坊っちゃん』を紹介したいと思います。 角川文庫の特徴. あらすじ、夏目漱石の解説、作品解説をそれぞれ違う人物が書いている  角川文庫版を開いてみて、「おや」と思ったところと言えば、冒頭のあらすじと夏目漱石の解説、そ

        • 痒い所に手が届かないポプラキミノベルの『坊っちゃん』がいろいろと惜しい

           夏目漱石の『坊っちゃん』の中で、最も新しい時期に出版されたポプラキミノベルの『坊っちゃん』。イラストがふんだんに使われていて、小中学生にも読みやすい構成となっているものの、痒い所に手が届かない惜しい一冊、というのが私の個人的な印象です。  今回はそんなポプラキミノベルの『坊っちゃん』をレビューしたいと思います。 いいところその1. イラストが豊富でイメージしやすい  ポプラキミノベルの『坊っちゃん』の最大の特徴は、何といってもふすい氏による豊富なイラストでしょう。これに

          夏目漱石『坊っちゃん』のあらすじと登場人物、読書感想文を書いてみた

           これまでに3冊の夏目漱石『坊っちゃん』のレビューをしたことですし、今回は『坊っちゃん』のあらすじと登場人物をまとめ、実際に巻末の解説を活用した読書感想文を書いてみました。 『坊っちゃん』のあらすじ  あらすじは、以下のようになります。  親譲りの無鉄砲な性格の坊っちゃんは、二階から飛び降りて腰を抜かしたり、人参畑で相撲を取って作物を駄目にしたりと、いたずらばかりしている子どもでした。そのため、両親や兄から疎まれていましたが、下女の清だけは坊っちゃんのことを可愛がり、「

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          夏目漱石『坊っちゃん』の、「すべては坊っちゃんの思い込み説」を考察する

           中田敦彦さんは夏目漱石『坊っちゃん』の解説動画で、「本当に明確な証拠はないから、坊っちゃんが正義なのかどうかはわからない」と発言していました。この見解はなかなか的を得ていて、確かに赤シャツがうらなりの婚約者であるマドンナを略奪したり、うらなりを左遷させたり、山嵐を免職に追いやったりした明確な証拠はなく、すべてはうわさ話を信じた坊っちゃんの「一方的な正義」であると解釈する声もあります。劇作家のマキノノゾミ氏もここから着想を得て『赤シャツ』という戯曲を作りました。  坊っちゃん

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          小中学生はこれで決まり! とにかく小学館文庫の『坊っちゃん』が読みやすい

           数ある夏目漱石の『坊っちゃん』の中でも、比較的新しい時期に出版された小学館文庫の『坊っちゃん』。おそらくは小学館の編集者の方々が今までに出版されたものを十分に読み比べた上で発行したのでしょう。注釈から解説に至るまで工夫が凝らされていてとても面白く、『坊っちゃん』を初めて読む方にもおすすめしやすい仕上がりになっています。  今回はそんな小学館文庫の『坊っちゃん』をレビューしたいと思います。  面白いところ1. 注釈が同じページに書かれていて便利  小学館文庫の『坊っちゃん

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          なぜハイクオリティな岩波文庫版『坊っちゃん』を、安易におすすめできないのか

           数ある『坊っちゃん』の中でも、岩波文庫から出版されている『坊っちゃん』は、『坊っちゃん』を勉強する人にとって必携の一冊だと言えます。  しかしながら、読書感想文を書くつもりの小中学生や単に漱石の『坊っちゃん』を読んでみたいという人には読みづらく、解説が難解であるため、安易におすすめできない面もあります。  今回は、解説者の気迫さえ感じられるほどのクオリティーの高い一冊に仕上がっていながら、安易に――とりわけ、ネットショップで購入することに関しては――おすすめできない岩波文庫

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          新潮文庫の『坊っちゃん』を、Ama○onで買ってはいけない理由

           新潮文庫から出版されている、夏目漱石の『坊っちゃん』。341円という安価な価格と携帯しやすい文庫サイズから、各出版社から発行されている『坊っちゃん』の中でも人気のある一冊となっています。しかしながら、私はこの新潮文庫の『坊っちゃん』を、安易に――とりわけAma○onなどのネットショップで――購入するのはお勧めしません。  今回は、一見メジャーに見えて案外癖の強い新潮文庫版の『坊っちゃん』を紹介したいと思います。 いいところその1. かさばらない手のひらサイズ  縦15セ

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          夏目漱石『坊っちゃん』の読書感想文を書くのが難しい4つの理由 

          『坊っちゃん』の読書感想文を書くのは難しい。読み返す度に、私はそんな思いを抱きます。大学生が読んでも坊っちゃんの置かれているシチュエーションを十分に理解できない可能性がある以上、全国の小中学生が散々頭を悩ませた末に、ヤフー知恵袋に助けを求めるのは当然のことなのです。  今回は『坊っちゃん』を題材に読書感想文を書くのが難しい理由について、考察してみました。 『坊っちゃん』の難しいところ① ストーリーが「大人」  物理学校を卒業して四国辺の中学校に赴任する坊っちゃんですが、序

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          22冊の『坊っちゃん』を読み比べる

           日本の作家の中で、抜群の知名度を誇る夏目漱石。その代表作の一つが中編小説の『坊っちゃん』なのですが、各出版社から発行されていて、どれを買えばいいのか迷うことはありませんか? 実際のところ、私の手元には21冊の『坊っちゃん』があります。  総数21冊の『坊っちゃん』。書かれている内容はどれも同じなんだし、一番安いのを買うのがコスパがいいのでは? と思う方もいるでしょう。  それは大きな間違いです。    実は読みやすい『坊っちゃん』もあれば、読みづらい『坊っちゃん』もあり

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          夏目漱石が『坊っちゃん』の年代設定を、明治38年にこだわった理由

          なぜ夏目漱石は、矛盾が生じるにもかかわらず『坊っちゃん』の年代設定を明治38年にすることにこだわったのか。それは大国ロシアとの戦争を終えたばかりの、まさに今現在の日本社会を描いた物語なのだと、一人の作家として世の中に問いかけたい強い意志があったからなのです。 明治38年の設定なのに、明治28年の風景の謎 「夏目漱石の『坊っちゃん』の舞台が、明治38年の松山ではなかった件について」で説明したように、『坊っちゃん』は明治38年に時代設定されていながら、そこに描かれている風景は

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          夏目漱石の『坊っちゃん』の舞台が、明治38年の松山ではなかった件について

          坊っちゃんは事あるごとに自分の赴任先を田舎だと馬鹿にしますが、実際のところ明治38年の松山はそれほどまでにひどい田舎だったのでしょうか? 当時の文献を調べてみると、実は物語の舞台が明治38年の松山ではないことが判明しました。 そもそも『坊っちゃん』の舞台ってどこ?  この質問に答えられる人は、割と多いと思います。正解は愛媛県の松山ですね。作中ではっきりと明言されていないものの、坊っちゃんの赴任先は「四国辺のある中学校」ですし、そこの住民は「ぞな、もし」といった具合に伊予の

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