小説【 真・ハーメルンの笛吹き男 】
ハーメルンは笛を吹きはじめた
とても軽快なリズムで瞬く間に民衆を虜にした
「 もっと!もっと!」
と民衆はさらに激しいリズムを欲した
ハーメルンはさらに踊れる愉しいリズムを奏ではじめた
娯楽に飢えていた民衆はさらに興奮し
ますますギャラリーが増えていく
小さい町だったので すぐに伝播し
ほぼ町の全員が集まった
聴いたこともない音色だった
不思議なことに 笛の音は
盛大な歓声にかき消されることなく
大音量で 町じゅう響きわたった
「 もっと!もっと!」
さらに民衆は 過激なリズムを欲した
熱狂のあまり卒倒する者
理性を失い 衣類を脱ぎ捨て 乱交する者までいた
ハーメルンは戸惑っていた
まさかここまで受け入れらるとは思ってもみなかった
おれはただ 復讐がしたかったのだ
音楽により オレを見下したコイツらを
圧倒してやりたかった
目論見は 成功したかに見える
がしかしこれは予想以上だ
ハーメルンは全身の毛がよだつのを感じた
けれどもそんなハーメルンの心中を察する者は
誰一人としていなかった
「 もっと!もっと!」
民衆の熱いコールに呼応するかのように
ハーメルンはさらに全力で吹き返した
今さらもう 後に引けやしない
やれるところまでやってやろうじゃないか
知らぬ間にハーメルンさえ理性を失いつつあった
「 あゝ気が狂いそう!」
「 あなたのファンです!」
「 もうどうにでもして!」
はたしてオレは踊らせているのか
オレが踊らされているだけなのか
一瞬そんな迷いが脳裏をよぎるが
荒れ狂う聴衆の渦中へ 一瞬で かき消えた
そうして
ハーメルンの笛吹く一行は闇の奥深くへと消えていった
この町には誰もいなくなったとさ
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