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雨で濡れた路面を車が走る音から思い出した話

朝。
イソヒヨドリのいい声がする。
窓から外を見る。
庭の木には、いない。
電柱の上にも、いない。
周りの家の屋根を見まわすが、いない。
雨だから葉の繁った木の奥の方にいるのだろうか。

雨。

特別雨が好きというわけではないが、嫌いではない。
豪雨は困るが。

サーっと降る雨。
しとしと降る雨。
そんな雨ならいい。

雨で濡れた路面を車が走る音が聴こえる。
ああ、この音好きだな。

あまり大粒でない雨が傘に当たる音。
あれも好きだ。

雨のにおいも、好き。

雨粒が水たまりに落ちるときのあの輪っかとか。

あれ?結構好きかも。


息子が年少の頃に通っていた幼稚園へは、田んぼが続く道を、車を使うこともあるが基本的には歩いて行っていた。

6月だっただろうか。
ある日の帰り、細かい雨がサーっと降っていた。

「気持ちのいい雨だね。」
「(田んぼの水面に落ちた)雨の輪っかがきれいだね。」
そんなことを言いながら歩いた。

晴れの日だけがいいわけではない、雨の日だから見れるもの、聴こえる音、におい、湿った空気…そういったものを感じてほしいと思っていた。
その日はちょうどいい具合の、気持ちのいい雨の日だった。

幼い息子は顔を輝かせていた。
(目、だけじゃなく顔全体からキラキラが漂っていた気がした。いや、全身からか?)

車道の下を横切るように通っている用水路の溝蓋のところまで来たとき、その溝蓋の下に普段見かけないカエルが何匹か集まっているのを見つけた。

晴れの日には見かけない生き物を見て、さらに輝く息子の顔。
今でもよくおぼえている。

「雨だからいいものたくさん見れたね。」

家に着いてからも興奮さめやらぬ様子だった。

さっき見たカエルは何か調べてみよう。

トノサマガエルかトウキョウダルマガエルだね。
似ていてどっちかよくわからないね。

帰ってからも楽しみは続いた。


それからしばらく経った雨の日。
雨の日の楽しさを知った息子は、その日も歩いて帰りたいと言っていたので、車ではなく歩いて迎えに行った。

風が強くなってきて、車で迎えに来ればよかったと後悔していたが、息子は雨の日に歩いて帰ることを楽しんでいる様子。

お友達親子の車が通りかかって、
「乗ってく?」
と声をかけてくれたが、息子は頑として
「歩いて帰る。」
と。
私は乗せてもらいたかった〜。

そのまま歩いて家に着いたとき、息子は満足そうだった。


サーっと気持ちのいい雨が降ると、これらのことをセットで思い出す。

時が経つにつれキラキラと輝きを増し、大事な宝物になっていくのだな。


トノサマガエルかトウキョウダルマガエルか。

当時は、姿が似ているからどちらだろうね、と言っていたのだが、息子が小学生になり生き物の本から知識を得て、トノサマガエルだろう、ということになった。


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