ライトノベル第四章一話【徐々に見えてくる三人との距離】

 俺は奏と律、美琴という固定のサポートメンバーと出会うことができた。今までと違い、これから先はずっとこのメンバーと一緒に、ライブができるんだと思った律は
「なんかさ、こうやってずっと同じメンツでライブのパフォーマンスだったり、楽曲のアレンジだったりしていると、本当にバンドやってるみたいだな!」
 ライブ本番を想定した練習の休憩時間、DOOMSDAYが一体となってきているのを感じ、律は口にしたのだと思う。
・・・だが、俺はなんて返したらいいのかわからなかった。確かにサポート同士では対等だ。対等な関係は本当のバンドにも似た雰囲気を出しているのかもしれない。だが、実際は俺が全ての決定権を持つワンマン体制だ・・・。
 俺は一人、そこに取り残されたような感覚だった。
 が、それを口にするのは違うような気がした。俺から何か感じ取ったのか、奏は大きなため息をつきながら言った。
「詩音。律はサポートっていう肩書きに不満がある訳ではないと思うんだ。悪気があったわけじゃなく・・・。」
 奏が俺を気遣う。それが無性に俺が疎外されているように思えてくる。
「なんだ、奏! 俺は思ったことを正直に言ったまでだ!」
 奏の言い方が勘に障ったのか、律が反論する。
「律は自覚がないんだな〜。正直に言うことが絶対的に正しいってことはないだろ〜。おまえ、自分が今の詩音の立場でそれを言われたらどうだい?」
「どうって・・・。」
 律もなにかを察したのか、言葉が出てこない。俺をチラリと見ると、戦意を失ったような顔をした。
「その、なんつーか、微妙なんだよな・・・。サポートメンバーって立ち位置には納得しているし、それでいいと思ってる。なんていえばいいんだ、こういうの・・・。」
 律はガシガシと頭を掻きながら、必死に類似した言葉、的確な言葉、誰も傷つけない言葉を考え出そうとしている。きっと、奏なら苦悩することなく適切な言い回しで思いを伝えるのだろう。
 それとも、俺にはまだ他人の心境を察することができないままなのか?
 少しはできるようになったと思っているのは、思い込みなのか?
 ダメだ・・・頭の中がグルグルと渦を巻いて訳がわからなくなる。
 と、その時。パンッ! と何かを叩く音がした。音がした方を見ると、奏が両手をあわせて音を出していた。
「奏?」
「そこまでだ〜二人とも。今のは俺も悪かったよ。律に全てを押しつけようとした。ここからは俺の意見として聞いてほしい。」
「あ、ああ・・・。」
「DOOMSDAYは詩音のソロバンドである以上、俺たちは正式メンバーになることはない。基本は詩音のしたいことにつき合うし、相談されれば応える。それは俺だけでなく、律も美琴も同じだ。それに正式メンバーでなくても、みんな、詩音と音楽ができることを誇りに思っている。形は違えど、やっていることはバンドとそれほど変わらない。それで十分じゃないか?」
 奏の話を誰よりも真剣に聞き、頷いていたのは美琴だった。そうだな・・・この三人との出会いは必然だったんだって思えるくらい、大事な存在になっている。
「奏、悪い。俺も少し変な方へと考えてしまったようだ。そうだな、ソロバンドだろうと、みんなに力になってもらってやってきている。それで十分だ。」
 美琴は今から楽しみが増えると満面の笑みを浮かべていた。
この課題が後々俺たちの大きな原点になるとは、この時、誰が予知していただろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?