ライトノベル第三章一話【DOOMSDAYの新たな作戦】

 いつものように相楽さんのスタジオで奏と律と三人、曲のイメージや次のライブに向けての案などを出し合いながら、音の調整をする。既存の曲をもう少し難易度を高くアレンジをする。即興でやって見せる奏、対抗心を燃やす律。意見が割れて口論が続くこともあれば、あっさり決まることもある。いつまでも「あの時のライブは最高だった」という余韻に浸ってはいられない。それがリアルに感じられるようになったのは、あるひとつの動画だった。前回のイベント関係者が、俺たちのステージを録画し、その一部をネットに公開していたことから始まった。

「評判いいな〜!」
 動画に対する「いいね」が圧倒的に多く、それをみた奏が嬉しそうに言う。
「ヘラヘラしてんじゃねーぞ、奏。これくらい、オレたちなら当然の結果だろうが。」
 奏に対し突っかかるような言い方をしている律だが、心の底では嬉しいらしく、口調と顔が一致していない。
「次のライブはいつか・・・ってコメントもあるな。」
 奏はざっとコメントを流して見ると、目に付いたコメントのいくつかを俺たちに見せた。
「次か・・・。」
考えていなかったわけではないが、まだはっきりと決まってはいなかった。
「なにか問題でもあるのか? こういうのはタイミングだからな。話題にされている間に数をこなす方がいい。」
 律が提案するが、それもわかっている。俺もここまで評判がよかったのは驚きだが、これだけの評判があれば対バンの数を減らしてもらい、自分たちの持ち時間を延ばしてもやれそうな気がする。
 だが、対バンを減らすなら、もう少しリサーチをしたい。出るイベントのファン層が違っていると、せっかくの評判も無駄になる。
「考えていないわけじゃないんだが・・・。」
「なにか思っていることがあるなら言ってくれ、詩音。」
 奏はいつだって俺のすることに反対することはない。今回も俺が意見すれば、そのサポートに徹するだろう。俺は持ち時間を多く得るために、対バンの数を減らす提案をした。
「詩音の気持ちもわかるが・・・。」
 と奏。
「いいんじゃないか? 男ならここは大きくでるべきだ」
と律が奏に意見した。するとまた二人の口論がはじまる。奏としては、対バンの少ないイベントは出演バンドがどこも高い実力と人気を持っているため、逆に俺たちが飲み込まれてしまうのではないか、ということであった。格上バンドに圧倒されて、今の勢いが落ちてしまうことを懸念していた。律は今の勢いなら人気の点で劣っていても、バンドに磨きをかければライブ力で勝てる可能性が高いと意見する。これはまた長期戦になりそうな話だな・・・と思いきや、奏が
「この件はいったん保留にした方がいい、詩音。俺にひとつ提案があるんだけど。」
 と言ったので、この場は奏に任せた。
「提案というのは?」
「ほかのバンドやイベントを知るってこと。」
「ん? どういうことだ?」
「DOOMSDAYは交友関係がなさ過ぎるんだよね〜。別にほかのバンドやイベンターと仲良しごっこをしようって勧めているわけじゃないけど、こういう時、面識のあるバンドやイベンターが多いのと少ないのとでは違ってくるから。次のライブは無理でも、その次くらいなら、イベントによっては持ち時間を長くもらったり、トリでライブができるかもしれない。」
 ここまで奏が言うと、彼がなにを言おうとしているのか察した律が声をあげた。
「そうか、その手があったか!」
「なんなんだ、二人とも。」
「詩音、トリだよ、トリ。トリは持ち時間長く取っているから、曲数が増やせるってことだ。」
 嬉しそうに律が正解を口にした。
「そうか・・・トリか。」
 俺も納得する。それなら今の対バンレベルのまま、出演時間を増やすことができる。そして奏は、もっとほかのバンドやイベントを見てくるといいと俺に言い、スタジオでの練習がない夜は、近場のライブハウスに立ち寄る日が増えていた。
 新しい出会いも、たまたま偶然立ち寄ったライブハウスだった。

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