見出し画像

インフレの本質は通貨価値の下落。

数字に出ないだけで、インフレはしていた。

 東京都区部の消費者物価指数は、全国のものよりも早めに公表されることもあり、物価高に神経質な昨今では注目の的となっている。今まで表向きのインフレとは無縁な日本社会で、大して注目されていなかった東京都区部のものが、ここに来て大注目されている現状を鑑みると、インフレに対する関心の高さや、同指数が政策に及ぼす影響の大きさを窺い知ることができる。

 「インフレ=モノの値段が上がる」を思いがちだが、本質的には同じ通貨を出しても買えるモノが減ることを意味するのだから、通貨価値の下落が正しい。

 そして、先ほど「表向きのインフレ」と表現したのは、これまでの日本社会でも、価格据え置きで量を減らす、実質値上げという名のシュリンクフレーションの形で、同じ通貨を出しても買えるモノが減って来ていた意味で、これまで経済統計で数値として表出していなかっただけで、実態としてインフレそのものは以前からあったと捉えた方が自然だろう。

 そんなシュリンクフレーションをまとめてくれているサイトがあり、明治のロングセラー商品であるミルクチョコレートは、2008年に65gあったものが、2015年には50gと容量が23%以上減少して、価格はほぼ据え置きである。

 裏を返せば、2008年から2015年の7年間で23%のインフレが発生していると言い換えられ、本製品に限ればインフレ率は年平均3.29%となる。それにも関わらず、昨今の物価上昇ほど話題となっていなかったのは、価格が据え置かれており、表向きの経済統計に反映される数字が殆ど変化しなかったことによるものと思われる。

 量を減らして価格据え置きであれば、一部の人は気付いても、明からさまなものでもなければ、国民全員が気付ける訳ではない。しかし、価格を直接上げると、否応にもモノの値段が上がっていることに気付いてしまう。

勤勉さが必ず報われる訳ではない。

 日本は失われた30年間で、数字の上では物価に変化がなかったため、国民の大半が物価上昇に慣れていない。日経の記事でインフレが顕著だったのは1982年4月の4.2%以来と、40年8ヶ月振りの水準で昨今の値上げラッシュが到来している。

 およそ40年前にインフレを実感していた世代は、現在50代後半以降で、海外居住経験者でもない限り、団塊ジュニア世代以降の世代は、昨今のインフレが人生で初めて経験するものとなる。

 当然、これまで相対的に通貨価値が上昇しており、預金一辺倒で資産を保全できていたデフレ経済とは、前提条件が真逆となるため、インフレが続く前提であれば、これからは手持ちの現金を、絶えず価値のあるものに交換し続けなければ、将来購入できるものが減少する、いわゆるインフレ負けで損をする。

 極端な例だが、敗戦後のドイツに居る、ある兄弟の話で、兄は勤勉に働いて貯蓄に励んでいた。一方で弟は怠惰で毎晩ビールを飲んだくれていた。

 この頃、ドイツは多額の賠償金を支払うために、自国通貨のマルクを刷りまくり、その後にフランスとベルギーが支払い遅れを口実に工業地帯を占領したことで、マルクの価値とモノの供給が激減したためにハイパーインフレが生じた。

 結果として。兄は貯蓄がハイパーインフレで紙屑同然と化し、貧乏になったが、一方で怠惰な弟はお金持ちになった。ビールを飲んだくれた後、庭に捨てていた瓶を資源として売ったことで、兄が懸命に貯蓄して築いた資産を凌駕する富を手に入れた。

 これは私が小学4年生の社会の授業で担任から聞いた余談で、預金一辺倒のリスクや、勤勉が美徳とされているが、だからと言って必ず報われるとは限らないことに衝撃を受け、未だに覚えている。

 それが今になって、瓶詰めのお酒。それもビールに限らず、日本酒、ワイン、ウイスキーを飲んだくれている、怠惰でしょうもない私を正当化する理由になっているが、賃貸物件故に空き瓶を捨てるだけの庭がないのが切実な問題である

インフレ時代の資産保全。

 さて、勤勉な方々の不安を煽ったところで、怠惰な私がビールを飲んだくれるアル中以外の手法で、インフレ時代に資産を保全する方法を適当に記していく。

 表題にもあるようにインフレの本質は通貨価値の下落なのだから、手持ちの現金を絶えず価値のあるものに変えていけば良い。しかし、問題なのは世の中で資産価値があるとされているものが、本当に価値のあるものとは限らないことである。

 大抵の場合、マーケティングで価値のないものを、あたかも価値があるかのように思い込まされて、無駄金とは思わず浪費しているケースが多いからタチが悪い。

 民間保険、新築住宅、自家用車…人生の高い買い物の一例だが、これらはいざ売ろうとしても、買った時の金額よりも安くなるものが圧倒多数である。

 価値観は人それぞれなのは百も承知だし、押し付ける意図はないが、資産保全の観点では、民間保険はバブル期に契約した、利率の良いお宝保険でもなければ公的保険で十分である。

 新築物件は鍵を開けた瞬間に価値が数百万円単位で下落するのだから、買うにしても初めから中古物件で、どうしても中古に抵抗があるならリノベーションをすれば新築物件と遜色ない。

 乗用車もカーマニアが欲しがるような往年の名車で、かつ状態が良くなければ、買った時よりも高く売れることは殆どないし、状態を気にしながら使っていては実用性が損なわれるから、最初からキズものの中古車を消耗品感覚で使用した方が、車に興味を示さない側からしたら理にかなっている。

 私は現金を向こう半年分の生活費用が賄える程度しか保有せず、それ以外はインフレ耐性のある株式に変えたり、持ち物にしても、価値あるモノを少数精鋭で保有するよう心掛けているため、バランスシートの9割近くが有価証券を占めている。

 例えばこの執筆にも使っているMacBook Air(M1)。長期利用を前提にメモリを16GBに増設したBTO品を、学割と新学期キャンペーンを適用して実質93,800円で購入しているが、昨今の円安値上げの影響もあって、じゃんぱらの買取価格が、既製品でキャンペーン適用後に75,600円が満額と表示されている。

 査定でメモリを増設している増額分と、生活傷で減額される分が相殺されると仮定しても、購入価格の8割程度で売却できる計算で、売却すれば、本機を実質2万円足らずで使用してきたとも言える。

 物価上昇で節約思考を強めるのも大切だが、死守した資産も現金のままではインフレ負けする。投資に限らず、耐用年数のあるものも、リセールバリューがどれ位か、潜在価値を意識して買い物をすると、将来手放す時にインフレの恩恵を受けられるかも知れない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?