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投資に活かせるヒューマンエラー。


何事もエラーが起きる前提でリスク管理。

 過日、JR九州がワンマン運転を行っている在来線で、運転士が両数を勘違いして、一部車両がホームに掛かっていない状態でドアを開閉し、学生が転落して怪我をしたのは記憶に新しいが、エラーを起こさない人間は居ない。

 だから、一般論ではヒューマンエラーが起きる前提のもと、何らかの形でバックアップを用意し、ひとりの人間がヒューマンエラーを起こしても、大事に至らないようにするのが、リスク管理のあるべき姿と捉えられる。

 仮に単独だとエラーの確率が1%だとしても、異なる仕組みのもの(エラー率は同じと仮定)を併用することで、同時にエラーを起こす確率は、数理上1万分の1にまで下げられるからだ。

 とはいえ、これはあくまでもエラーの性質が異なるもの同士を組み合わせることが前提条件である。

 航空機における機長と副操縦士、鉄道乗務員における運転士と車掌の場合、同質性が高く、仮に上役に判断ミスがあっても、下っ端が指摘することは心理的に憚られて言いづらい場合、ひとりで意思決定をしている状態と変わらず、分散の効果は発揮されないことは以前にも記している。

 あくまでも、バックアップは異なる仕組みが望ましく、これをIT業界では冗長性と表現しているが、多くはコスト面でムダと切り捨てられがちなのが実情だろう。

 私は自転車のライトをメインは二次電池、サブは一次電池とか、iPhoneでau回線をメイン、docomo回線をサブのデュアルSIMで運用しているが、それらは敢えて冗長性を持たせる拘りから来るもので、正直コスパは悪くなる。

 しかし、自転車が夜間に玉切れとなり、押して歩く羽目になるタイムロスとか、もはや生活必需品のインターネットが繋がらなくなり、日常生活に支障が出るリスクを、数百円でヘッジできるなら悪くない考え方ではないだろうか。

 過去に自転車のライトも、携帯回線もサブがあって良かった局面はあったため、冗長性を確保するために必要な毎月数百円のコストは、ムダと思わず保険料だと思えば、民間の生命保険よりは役立つだろう。

一刻を争うマルチタスクがエラーの元凶。

 「AI超え」と話題になった将棋の第71期王座戦にて、藤井聡太さんの122手目でAIの予想勝率は1%だったが、永瀬先生が123手目にミスをしたことで、予想勝率91%に形成逆転したことは記憶に新しい。

 これは藤井さんの122手目が予想外だったことから、永瀬先生は不意を突かれたものの、終盤でお互い持ち時間を使い果たしたことにより、一手につき1分未満の早指し状態となっていた中で、焦りが生じてエラーが起きたことによるものである。

 元鉄道員の経験則として、往々にしてヒューマンエラーが起きる背景は、時間がないことによる焦り。若しくは、マルチタスクに起因するものが多い。

 このことから、再発防止策でありがちな、「確認の徹底」は、そもそも焦っている状況が改善されなければ、エラーを自覚できないのだから、アプローチとして間違っており、対外的なパフォーマンスの域を出ず、根本的な対策にはなり得ない。

 現に2005年に尼崎で起きたJRの脱線事故も、当時、遅延が罰則の対象となっていた恐怖政治体質で、快速列車の停車駅を増やした一方、所要時分は据え置きで、その帳尻を合わせるために、最高速度を100km/hから120km/hまで引き上げた。

 これまでの速度から2割増で走らないと、時間通りに走行できない程度に余裕のない運転計画で、当然、運転士には相当な技量が要求される中で、23歳の新米運転士が、懲罰を恐れて小さなミスを隠蔽しようと焦り、更にミスを重ねる悪循環で、恐らく平常心を失っていた。

 そうして1分20秒の遅れを取り戻すため、全速力で走行中に車掌へ過少申告のお願いして、その口裏を合わせるために無線での車掌と指令のやり取りを傍受。結果として運転に注意が向かず、ほぼほぼ最高速度のまま魔のカーブに差し掛かり、遠心力に耐えきれず単純転覆脱線する大惨事となった。との見方が有力だ。

 人間は時間に追われている中で、マルチタスク状態だと、意思決定を誤る可能性が高いという観点で見ると、性質の全く異なる将棋と鉄道事故でも、同じ構図が当てはまる。

 おそらく全ての事象に共通する意味で、一刻を争うマルチタスクがエラーの元凶となるのは、確度の高い推論だと思うが、いかがだろうか。

ザラ場で売買の意思決定はしない。

 私は社会的属性上は20代に区分され、これまで生きてきた年数を踏まえれば、投資経験が豊富とは言い難く、バブル崩壊もリーマンショックも経験していないのは事実である。

 とはいえ、2018〜2021年のS&P 500絶頂期の参入組よりは経年が長く、チャイナショック、仮想通貨のネム流出事件、コロナショックの煽りを食らっても、退場することなく運用し続けている。

 その根幹が人はミスをする前提のもとで、銘柄選定ではシナリオを思い描き、現在の株価から潜在価値を逆算して、得られるであろう利益と、損切りすべきラインを想定する、ヒューマンエラーありきのリスクテイクにあるのかも知れない。

 シナリオは決算短信などの材料が出るたびに見直し、監視銘柄で買いたい金額に近いものは最長期間で指値注文。保有銘柄の損切りも同様に逆指値注文しておき、ザラ場ほど売買の意思決定はしないことを心がけている。

 それは先述の通り、複数銘柄を保有、もしくは監視しているマルチタスク状態で、個別材料や相場全体の急騰、急落で焦ってその場で判断しても、エラーを起こす可能性が高いと考えているからである。

 空売りできるメリットは頭で理解しながらも、信用取引に手を出さないのも、利益が得られている時に、フルレバの誘惑に打ち勝ち、現物と同じ倍率を維持できるだけの自制心が働く自分像を、微塵にも信じていないからだ。

 人間の欲深さを甘く見て、自分は大丈夫だと過信した人ほど、自制心が欲望によって簡単にひっくり返され、リスクを見誤って自滅するのがお決まりの悲観シナリオである。

 そもそもリスクテイクできてしまう環境がなければ、元本以上は毀損することのない有限責任の株式において、借金だけが残るエラーなど起きようがないのだから、バフェットの名言にある「ゆっくりお金持ちになりたい人はいないよ」がこれを的確に表している。


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