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【本の紹介】『害虫の誕生』瀬戸口明久

本の紹介第4弾。今回は瀬戸口明久(2009)『害虫の誕生:虫からみた日本史』ちくま新書を紹介したいと思います。この本は「害虫」と日本近代史がどのような関わりを持っているのかを明らかにした著作です。もう10年以上前の本ですが、テーマが面白く読みやすいので、初学者でも面白く学ぶことができます。特に近代化に関心がある人はオススメです。

※以下は私が面白いと思った感想を取り上げます。本書の要約とは若干異なります。悪しからず。

感想①:「害虫」のという言葉の成立から近代化を学ぶことができる

 みなさんは害虫が好きですか?ほとんどの人がNOと答えると思います。「害」という文字がついているように、よくないイメージを持っていると思います。しかし、本書は江戸時代までには「害虫」という言葉は存在しておらず、明治、大正、昭和と時代を経るにつれて、「害虫」という言葉が根付いたことを指摘しています。

 現代において不快な虫、または人間に悪影響を及ぼす虫は手元にある殺虫剤で容易に駆除することができます。しかし、殺虫剤産業が誕生するのは第一次世界大戦以後です(注1)。

 それでは、江戸時代ではどのように考えられていたのか。江戸時代における虫の被害はたたりだと考えられていました。お札を立てたり、注油駆除法(注2)を実践したり...現代の我々からみたら滑稽に見えるかもしれませんが、当時はそれが最善の方法だと考えられてました。

注1:瀬戸口明久(2009)『害虫の誕生:虫からみた日本史』ちくま新書、151頁。

注2:注油駆除法については以下のサイトに詳細が記されている。https://www.jcpa.or.jp/labo/column/control/08/

 どのように「害虫」という言葉が誕生し、普及したのか。それを知る手がかりは「病気」と「戦争」にあります。

感想②:世界大戦を害虫の視角から眺めることができる

 本書は『害虫』の変遷に着眼することで、世界大戦の新しい側面を提示しています。今回は「病気」と「戦争」の「戦争」、とりわけ第一次世界大戦に注目して、本書の感想を述べていきます。

 先に述べたように、殺虫剤産業は第一次世界大戦前後に成長します。中でもクロルピクリンは非常に興味深いです。クロルピクリンは殺虫剤として開発されたものではなく、戦時中に使用された毒ガスの一種でした。第一次世界大戦中に各国で蔓延した発疹チフス(注4)の対策をするために、各国が対策に乗り出していました。その一環で注目されていたのがクロルピクリンでした。

 このように害虫駆除は戦争と密接な関係にあります。これは第二次世界大戦でも同じことです。

注3:(瀬戸口:2009)、154〜158頁。

注4:発疹チフスについては以下のサイトに詳細が記されている。


おわりに

 江戸時代には存在しなかった「害虫」という言葉は明治、大正、昭和という近代化の過程で徐々に形作られたことを本書では明らかにしています。そこには、今回紹介した「戦争」の他に「病気」や「応用昆虫学」の存在が挙げられます。

 本書から学ぶことができるのは近代化についてだけではありません。「害虫」から義務教育で必ず習う第一次・第二次世界大戦のある側面を描き出してくれます。「害虫」からあぶり出すことができる側面はまだまだあります。その側面とは何かを考えながら読むと何か発見があるかもしれませんね。

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