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【食と歴史学①】「砂糖の世界史」川北稔

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歴史学を「食」から学びなおすこの企画。第1弾は川北稔(1996)「砂糖の世界史」岩波ジュニア新書を取り上げます。同書は岩波ジュニア新書ですが、侮っていはいけません。2016年時点で36刷まで増刷されている、長年読み継がれた新書になります。砂糖から世界の歴史を捉えると何が見えてくるのでしょうか。その一部を今回は紹介できたらと思います。

※以下は私が面白いと思った感想を取り上げます。本書の要約とは若干異なります。悪しからず。

①:「砂糖」から何がわかるのか?

 同書では「砂糖」から見た世界史を描いています。「砂糖」に注目することで、見えてくる歴史とは何か。それは、コーヒー・ハウス、茶、チョコレート、奴隷、労働の歴史などです。コーヒー、茶、チョコレートは「食」に関するものなので、別の機会で取り上げます。したがって、今回は奴隷と労働の話を中心に紹介していきます。

②:「砂糖」から見た奴隷

 食と奴隷の歴史は今後の企画でも度々登場します。それほど大きなテーマなのです。ここでは、本書に記されている内容の一部を紹介したいと思います。

 砂糖は植民地で得ることができる「世界商品」の1つです。砂糖などの「世界商品」の取引は大きな収益につながったので、イギリスやフランスは18世紀を通じて世界商業と植民地の支配をめぐって、戦争を繰り返していました。いわゆる第二次百年戦争です。

 戦争の目的は何でしょうか。その1つはスペイン領の南アメリカ植民地を供給する権利に関する争いです。スペインはアフリカに拠点がないため、この当時は、砂糖などの「商品作物」作ることができませんでした。こうしてスペイン政府は奴隷を買い付ける契約を外国と結ぼうとします。そこで登場したのがイギリス、フランス、オランダ、ポルトガルなどの諸国です。なぜこれらの国がスペインと契約を結ぼうとしたのでしょうか。それは奴隷の供給を請け負うことで、莫大な利益を得ることができるからです。 

※この節は第6章を参照。

③:「砂糖」から見た労働

 食と労働の話も、前節と同様に大きいテーマです。ここでも一部を紹介します。

 18世紀末から19世紀はじめにおけるイギリスの話です。当時イギリスでは産業革命が起きていました。機械や蒸気機関のような動力が増え、工業や鉱山業が発展した時代です。

 この時代、朝食にある変化が訪れます。それまでは「ポリッジ」と呼ばれるオート麦を使った粥のようなものを食べていました。ここに「砂糖入り紅茶」が登場するのです。

 なぜ、この時期に「砂糖入り紅茶」が姿を見せたのでしょうか。

 農村ではエンクロージャー(囲い込み)と言われる運動が起き、これによって共同で使える土地がなくなります。これによって、人々は都会に進出したと言われています(註1)。

 人々が農村から都会に進出したことによって多くの変化がもたらされます。その1つが時間厳守の習慣です。

 現代では時間厳守することは常識です。ましてや社会人であれば、時間を守ることができない人は白い目で見られるでしょう。ところが、農村の生活は時間が厳密に決められていませんでした。個人の自由に任されていたのです。

 それが産業革命によって、工場制度が拡大すると事態が変わります。時間を厳守することが求められたのです。もう少し具体的に言うと朝、決められた時間に、工場へ行かなければならないのです。そうなると朝食は簡単に準備ができて、しかもすぐに元気が出るものでなければなりません。ここに「砂糖入り紅茶」が滑り込んでくるのです(註2)。


(註1):この意見は賛否が分かれるところである。ただし、この時期に都会の人口が増加した事実を見逃すことはできない。

(註2):なお簡単に準備ができて、すぐに元気が出るものは「砂糖入り紅茶」以外も存在する。詳しくは同書で。

※この節は第7章を参照。

おわりに

 砂糖と歴史学の関わりは、ここでは論じきれないほど大きいテーマです。ここに書いてあることはほんの一部です。ですが、それだけ研究が進んでいるといえるテーマであるので、学び直しのスタートとして、よいテーマであると思います。ぜひ、国会図書館サーチで「砂糖」の歴史を検索してみてください。

 まだ、初めたばかりなので、「食の歴史と奴隷、労働」の歴史が連動していることはイメージしづらいと思います。ですが、このイメージを一部でも理解することができたら、歴史を学び直したということではないかと思います。手にとって読んでみてくれると嬉しいです。

ちなみに私は電車の通勤時間で読んでいました。片道約5分、往復約10分で1週間くらいで読みました。

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