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休耕地、遊休農地を再生させるための5つのステップ

 こんにちは。土屋です。
 前回は遊休農地、耕作放棄地が増えることの問題点について触れていきましたが、今回は実際にそれらの土地を再生させるためには何をすればいいのかについて語っていきます。
 実際に僕たちが辿ってきた部分も多くあるので、ご興味ある方には参考になる部分もあるかと思います。

1. まずは役所に相談

 農業をする地域を決めたら市町村役場に相談すると良いでしょう。
 そうすることで、そこの管轄の“農業委員会”を通して農地を紹介してもらうことができます。予め借りる場所が決まっている場合はその限りではありませんが、農業委員会の許可をもって農地を借り受けることができます。
 いきなり飛び込みで農地を借りることは稀かもしれませんが、いずれにしても書面で条件等を確認して契約という形をとった方が、後々お互いに嫌な思いをしなくて済むので、口約束ではなく書面でが無難でしょう。
 また、誰も使っていない農地は、人がいないだけでなく理由がある場合ももちろんあります。例えば、車で横付けできない場所や水を汲めない場所、形がいびつで機械が入りにくい場所、日陰になる場所などでしょうか。
 そのため、こちらが農業にとりかかるために譲れない条件を予め決めておくことも大切です。

2. 下見と観察

 土地を紹介してもらったら下見です。
 その土地はいったいどんな場所でしょう?山間部?平野部?田んぼの間?草の種類は?まずは使おうとしている土地とその周囲について観察してみてください。
 例えば、山間部だと山の影に入って日照時間が少ない可能性があります。平野部だと季節的な風が吹くかもしれません。田んぼに囲まれた土地であれば、元々田んぼを埋め立てた畑である可能性が高いです。そうすると耕盤(硬盤)が形成されて水はけが悪いことが予想されます。
 入手した土地にはどのような植物が生えているでしょう。生えている植物の種類によって、大まかな土壌の性質知ることができます。例えば、酸性が強いとスギナを筆頭にシロツメクサやオオバコなどが多く、中性に近いとハコベやホトケノザ、オオイヌノフグリ等が多くみられます。ホウレンソウのように酸性土壌を嫌う野菜も多いので、草を刈る前に、どんな草が多いのか観察することをお勧めします。
 藪の中に生き物(動物)の痕跡がある場合もあるので、その場合は獣害対策が必要になる可能性があるので、頭に入れておいた方が良いでしょう。
 土地が決まって、借受ける手はずが整ったらいよいよ作業開始です。

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3. 草と向き合う

 自然農法などもあり、一概にこの方法が全てではないと思いますが、私たちなりの草との向き合い方をご紹介します。

一に草刈り、二に草刈り
 休耕地や遊休農地と言っても、その状態は様々です。地主の方や周囲の農家の方々によって定期的に除草作業が行われているような場所もありますし、全く手つかずの場所もあります。前者のように手入れされた農地はほとんどなく、後者のような場所がほとんどで、草むしているだけならまだしも、ちょっとした林や藪のような状態になっている場所も少なくありません。幸運にも私たちが最初に借受けた農地は、比較的前者に近い状態でした。
 そうはいっても、そこそこ草は生えていて、イネ科のエノコログサ(いわゆる猫じゃらし)やカラスノエンドウが地面を覆い、根の直径が5㎝以上にもなるギシギシなどが散在していました。中でも、根の深さが1m以上にもなるスギナや芋状の根があるハマスゲ、千切れた根から発芽するヒルガオの仲間など、土の中に根が残りそこから新たに芽が出る草は非常に厄介で、未だに駆逐できていません。
 イネ科やマメ科の草の多くは1年草と言って、抜いてしまえばその草は枯れます。だからと言ってこれらの草の扱いが楽かというと、そんなこともなく、地中に種が無数に残るため、毎年毎年残された種から発芽してきます。周りの農家の方々からは「1年放置した畑は、元通りの状態にするのに3年かかる」と言われています。
 いずれにしても、まずは地上部の草を刈り取ることから始まります。

刈り取った草の利用
 刈り取った後の憎き雑草ですが、処理方法は様々あります。敷き藁の代わりに使ったり、腐葉土などの肥料としたり、人や地域によってやり方は様々です。私たちの場合は、畑で燃やして処理しました。
いわゆる“焚火”ですが、
①種子が残らない
②病害虫が残らない
③栄養分が供給される
④灰により土の酸性度が下がる
⑤手軽で知識や別途費用が掛からない
などのメリットがあります。
 ただ、そもそも焼却してはいけないような地域も多いようですし、風が強い場合は火の粉が飛散することもあります。住宅街が近い場合は、管轄の消防署に問い合わせるなども必要です。もし焚火を行う場合は、諸々確認した上で実施することをお勧めします。

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草の予防
 除草後も何も手を施さなければ、草は再びどんどん増えてきます。
 露地栽培において、草を全く防ぐことはほぼ不可能かもしれませんが、ある程度抑える方法はいくつかあります。
 私たちがとった手段は太陽熱消毒です。夏場の暑い時期限定ですが、地面に透明のシートを敷き詰めることで地温を50~60℃に高め、病害虫や植物の種子を死滅させます。ただし、地表面からせいぜい10㎝程度しか効果はありませんので、根が深いスギナやチガヤには効果はそれほどありません。
 また、太陽熱消毒後に耕耘すると効果がなくなってしまいますので、耕耘や施肥、畝立てなど作付の準備を済ませた上で透明なシートを敷く必要があります。その際に、石灰窒素と牛糞などの有機物を混ぜ込むことでさらに地温を上げ、効果を高めることができます。太陽熱消毒以外では、畝立て後に黒マルチを使うことも多いです。

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4. 土づくり

 休耕地や遊休農地は、雑草によって土の中の養分が不足してしまっている可能性もあります。また、雨水や有機物の分解過程で生じる酸によって、放置されている期間が長い程、土壌が酸性になっている可能性が高いです。
 まずは土地がどの程度酸性に傾いているかを知りましょう。簡便な測定キットもありますが、外部に土壌調査を依頼した方が、誤差がなく様々な成分も検出できるので安心です。
 また、最初に書いたように“生えている雑草の種類”で判別できますので、調べてみてください。
 もし土が酸性になっている場合は、石灰をまいて中和する必要があります。石灰にも種類があり、“苦土石灰”や“消石灰”が有名です。先ほどの“石灰窒素”はまた別物ですので注意してください。一般的には苦土石灰を使用することが多いでしょう。“苦土”とはマグネシウムのことで、植物の成長に必要な元素です。そして、穏やかに土壌を中和していきます。消石灰は中和能力が高いのですが、苦土分がないのと土が固くなりやすい性質があるため、私たちはほとんど使いません。
 続いて植え付け前に入れる肥料についてです。
 私たちは量の違いはあるものの、全ての畑に牛糞堆肥を入れています。理由は、近隣の畜産農家から買い取りやすいということ、適度に植物片があって土が柔らかくフカフカになること、ある程度持続性があることなどがあります。ただ、肥料分はそれほど高くは無いので、それに加えて、“鶏糞”や“豚糞”を作る予定の作物の種類にあわせて加えるようにしています。
 鶏糞は比較的即効性があり、肥料分が高いので化成肥料と同じような扱いになります。
 豚糞は、鶏糞と牛糞の中間のようなイメージです。ちなみに、実を収穫する果菜類は、花や実の着きをよくするリン酸が必要ですし、根菜類はリンに加えて根の育成に必要なカリも必要です。葉を収穫する葉菜類には、窒素が重要です。
 逆に窒素分が多いと、サツマイモは“つるぼけ”して地上部の葉ばかりが成長します。マメ類などは、根に“根粒菌”が共生し窒素分を供給するため、それほど多くの窒素を必要としません。作りたい野菜に合わせて元肥を選んでみてください。

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※耕盤対策
 最初にお話しした中で登場した耕盤(硬盤)ですが、元田んぼの土地だけでなく、普通の畑でも形成されます。畑を耕運機で耕すだけだと、刃の回転する深さまでは常に土がほぐされますが、その下は常に上から押し固められて、カチカチになってしまうことが多いです。私たちの畑も、大雨が降ると長靴が15㎝ほどズブズブ沈み、その下には固い層が存在しています。
 この耕盤(硬盤)を破壊する必要がありますが、人為的に行うためには大型重機が必要です。もしくは、緑肥を使います。ソルゴーやマメ科の植物は、根をまっすぐ下に上していきます。直根性といい、この根によって耕盤(硬盤)を破壊してくれます。
 さらに、地上部分も土と一緒に耕せば肥料になるという優れものです。重機の使用は誰でもできることではないですので、耕盤(硬盤)対策としては緑肥を使うことをお勧めします。

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5. 手入れした土地の管理

 せっかく下準備をしていざ種まきや定植をしても、ほったらかしではうまくいきません。除草、追肥、病害虫管理は常に行っていく必要があります。
とはいえ、それらをし続けるのはかなり大変です。恥ずかしながら、私もやろうやろうと思いながらそのままになっていることが多々あります。その手間を軽減する1つが黒マルチです。マルチはかなり雑草を抑えてくれます。さらに、雨水の地面からの跳ね返りもないので、病気も減っている気がします。
 防虫対策としてよく言われるのは、虫の侵入経路を減らすことだそうです。雑草が生い茂っていると虫はどこからでも草を伝ってアプローチできてしまいます。そういう意味では、草を抑えることで、害虫予防にも繋がるということです。さらに害虫被害が多い場合は、ネットでトンネルをつくるのもかなり効果的です。
 さらに、寒い時期に不織布や透明ビニルを被せればミニ温室のような“トンネル栽培”も可能です。支柱には、グラスファイバーでできたものを使うと安価で腐ることもないのでお勧めです。


最後に

 私も就農してまだ日が浅いですが、最初の3年が勝負だと思っています。毎日作業が尽きることはなく、突発的な問題も起こりますが、1つ1つ向き合って対策していくことが大切だと信じて日々の作業に取り組んでいます。こんなことを書くと「大変そう」と思うかもしれませんが、確かに大変なこともありますが、楽しいこともたくさんあります。手間をかけて育てた野菜は、ちゃんと育ってくれます。きれいに育った野菜たちを収穫するのは純粋に楽しいです。そして食べた人たちが、「おいしかったよ!」と言ってくれることはやっぱりうれしいです。
 最後の最後にお伝えしたいのは、私が一番大切にしたいと思っている“人との繋がり”についてです。私たちの周りには、助けてくれる人がたくさんいます。もちろん声を大にして「助けて!」と言っているわけではないです。散歩している人に挨拶した時の何気ない会話で「レタスは虫がつくからネットをかけた方がいいよ」と教えてくれたり、草取りの休憩中の雑談で隣の畑の方が「ホウレンソウは9月20日以降に蒔いた方がいいよ」と教えてくれたり、直売所の出荷時に「それだと安すぎるからそんくらいの品質だったら〇〇円くらいでいいよ」とか。もちろん、私たちも下調べをして大きく外さないように準備をしていきますが、やはり“その地域の特性”を100%考慮することはできません。そもそも人と話すことが好きなのですが、意識的にもっと仲良くなりたいと思って積極的に話すようにしています。日頃からコミュニケーションをとって、仲間に入れてもらうのは、その地域での成功の近道だと思います。
 今回は、私たちの経験を軸にした話ですので、取るに足らない内容かもしれませんが、誰かが何かを始めるきっかけの一助になれれば幸いです。稚拙な文章に最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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