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南アジア系の男。

病に侵され、出勤を徒歩でこなすのがきつかったのでまたもやタクシーを使う。

タクシーを停めて乗り込む。
ドライバーは20代後半から30代くらいの、南アジア系の男。個人的にはこの辺りの人たちは歳だと思ってたら実際は結構若いということはよくある。でも若いと思ってたのに案外歳をとってるという場合は少ない。というかほぼない。あくまでも個人的な見解である。

「空港か?」と聞かれる。「いや、チャツウッドまで」とぶっきらぼうに答える。
なんせ熱に侵され具合が悪いのだ。なるべくなら話をしたくない。

ああ、キャリーケースを持ってたから、旅行者だと思ったんだな。と俺は推測する。

「チャツウッドから電車に乗るのか?」運転手は言う。 おいおい、面倒くさい。目も開けておきたくないくらいにしんどいのである。申し訳ないが、あんたの興味に付き合う気力はない。

「いや、オフィスに行くんだ。」しかし俺は答える。これで会話はおしまい…のつもりだった。

「どれくらいかかる?空港まで乗せていくぞ」おいおい、続くのか。会話は続くのか。
それにお前は一体何をベースに話を進めているんだ?行き先はチャツウッドなんだよ。どこをどうみて旅行者だよ。わかるだろ、この疲弊しきった姿をみたら。こっちは病人なんだよ。運ぶなら十歩譲って救急病院だろ。っていうか、会話はもうやめてくれよ。つらいんだよ、こっちは。

「空港にはいかない。チャツウッドで仕事だ。」俺は会話を終わらせた…つもりだった。

「ふーん。お前はジャパニーズか?仕事はなんだ。」

もういいんだよ、俺がどんな仕事をしてたっていいんだよ。正しく説明してもどうせ分からないよ。っていうか説明したくないよ。しゃべりたくないんだよ。

「話しかけてくるな」とは言えない俺は、当たり障りのない返事を返す。俺の給料はお前には関係ないし、東京でも広島でもどこでも好きなところに行ってくれ。それなりに日本は楽しい。あとアメリカが北朝鮮を攻撃するかどうか俺は知らない。

距離も短いのですぐに着く。$7.60と表示されている。
車は停まっているのにメーターは動いている。またこいつもクソなのか…。

俺は「$7.60だな」と言って20ドル札をだす。それ以上は払いたくない。
そいつは10ドル札を返してくる。
少し待つ。しかし、それ以降のアクションはない。おいおいおい。
「$7.60だろ。お釣りが足りないぞ。」

「釣銭が全然ないんだ。レシートを10ドルで切ってやるよ。」
このクソ野郎は悪びれた様子もなくしれっとそう言う。

タクシーの運転手すべてがこうとは限らないが、ときたまこういう日本ではちょっと考えられないような状況をぶち込んでくるヤツがいる。

日本人であることがいけないのか、それとも俺の顔がいけないのか。顔を含む全体の風体がいけないのか、生まれてきたことがいけないのか。

こらこらこら、なめんなよ。日本人だと思ってふざけきってんな。
「おい、それがお前の商売のやり方か?」
「どうしようもない。コインはない。」全く響いていない。

俺は具合が悪いのも忘れ、小銭入れを出してコインを数える。
じゃらじゃらと数だけは入っているが、どうみても5ドルあるかないか。
どうにか手段はないか考えるが、切れの悪くなってる頭ではいいアイディアが浮かばない。
5ドル札があれば問題ないが、生憎財布に入っていない。

ぶつぶつと日本語で悪口をいいながら何かいい案はと、懸命に考える。

と、しびれをきらしたのか、ヤツが言う。
「コイン、いくらあるんだ」

「うーん、5ドルだな」俺は舌打ちをする。

「おっけー、じゃあもうそれでいい。その10ドル返せ」
そういって、さっき渡した20ドル札を戻してきた。

俺は20ドル札を受け取って10ドル札を返し、小銭入れからじゃらじゃらと小銭を全部出して渡す。

具合が悪かったし、気分も悪かったので、一言もしゃべらずにタクシーを降りる。
どういうわけか、その俺の背中にヤツが「Thank you.」という。

何がThank you.だよ、馬鹿野郎。こっちは病人なんだよ、ヨロヨロなんだよ。体力使わせんなよ…。まったくよぉ…。

結果としては、金銭的に考えるとちょっとラッキーだったのかもしれない。頑張って粘ったから神様がラッキーにしてくれたかもしれん。

でも弱ってるときにそんなんいらん。

それが分かっただけのエピソードだった

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