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大きく鳴り響く音楽に合わせて、右ジャブ、左クロス、右アッパーを繰り返す。 しかし真剣であらねばならないはずの俺の顔は、どうしようもなくニヤついてくるのだ。

「お前はわざとやっているだろう?」
オレは俺に問うた。
「いくらなんでも、こう立て続けにやらかせるもんじゃない。」

俺は返す言葉がなかった。
戸棚の奥を引っ掻き回しても、押し入れの衣装ケースをひっくり返しても、
裏庭の土を掘り返してみても、
突き返すに適当な言葉を探し当てられはしなかった。

オレはダイレクトに俺に反省を促している。
しかし反省するどころか、オレは頬に薄ら笑いが浮かんでくるのを止められなかった。
「俺ってなんて馬鹿。えへへ。」

大きく鳴り響く音楽に合わせて、右ジャブ、左クロス、右アッパーを繰り返す。
真剣であらねばならないはずの俺の顔は、どうしようもなくニヤついてくるのだ。

「ふざけんな、お前。また不要な注目を浴びる前にとっととロッカールームに行け!」
オレは苛立ちを隠す様子もなく俺に迫る。俺はそれをフッと鼻であしらい、続けてパンチを打ち込む。

音楽が変わって、動作は前蹴りに移行する。
左足で踏ん張り、上半身は後方に、右足で押し出すように蹴り、すぐに引いてくる。
勢いに任せず、きちんと自分で足の指先までコントロールすることが大切だ。
足腰、そして腹筋、背筋が上手い具合に鍛えられていないとバランスを崩す。

前蹴りをする。
長いシャカシャカのトレーニングズボンの後ろ側がズリってなる。
胴回りのゴムのところの位置が下方に移動する。
ゴムのところ、と言ったがそこにゴムが通っているわけではない。
ゴムがあった場所、という意味で言ったまでである。
以前はあったがとっくに切れてしまい、今は紐を通して結んでいる。

前蹴りを繰り返す。
さらにズボンがズリってなる。
パンツがどんどん露出していくのが触らなくても分かる。

「おい、なんなんだよ、お前。ふざけんな。」恥ずかしさでオレが叫ぶ。
「大丈夫、バレやしないよ。折角やってんだから今止められないぜ。」俺は開き直ってゴリ押しする。

そうなんだ。
つい先週尻の破れたズボンを履いたままボディコンバットをやってユニクロのお洒落な赤パンツと一緒に恥を晒したばかりだというのに、今日は今日でズボンを後ろ前に履いてきてしまったのだ。

着替えたのは書道教室だから、ズボンを後ろ前に履いたまま表を歩いたとこになる。

おいおい、頼むよ、俺。気づけよ、俺。一体お前は生まれてこの方何万回ズボンを履いたんだよ。どっちが前でどっちが後ろか、幼稚園児でもわかるってもんだろう。

ボケてしまっているのか、深層心理に体を張ってでも人を笑わせたい願望があるのか…。

履いているシャカシャカズボン、左右のポケットは尻に沿って開いているし、前はパツパツに張っている。
膝の部分に曲げやすい加工がしてあるのだが、それを後ろ前に履いた場合、曲げづらいったらない。その度に腰の部分が引っ張られてずり落ちるのだ。

本当に幸運なことに、俺のポジションは最後列だった。不運にもクラスにいる誰も俺のお洒落なユニクロパンツを見ることができない。ただ、ガラス張りの壁の向こうにウジャウジャいる奴らにだけサービスしてやればいいだけ…。

俺にできることはもう一つある。

歳を重ねると行動が洗練されて周囲から尊敬される振る舞いが自動的にできると思っているかもしれない若者諸氏にそんなことはないんだよと言っておいてあげたい。

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